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マンU・ファーガソン元監督に学ぶリーダーシップ

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ブラジルで開催中の2014年サッカー・ワールドカップも回が進んでいるなか、サッカー史上最も偉大な監督が組織のリーダーのあるべき姿をどう考えているかを知りたいと考えている読者もいるだろう。

今年72歳になるサー・アレックス・ファーガソン氏は、2013年5月、イングランドのマンチェスター・ユナイテッドFCの監督から引退した。昨年夏に『フォーブズ』誌が発表した計算結果によれば、同氏は27年間の監督在任中に、このクラブの価値をスポーツ史上最大級となる31億7000万ドルまで高めている。

ファーガソン氏が監督に就任する以前のマンチェスター・ユナイテッドは、20年間に1度もタイトルを獲得できなかった。ところが同氏の監督就任後、マンチェスター・ユナイテッドはプレミアリーグで13回優勝を果たし、その他の国内タイトルや国際タイトルでも25個のトロフィーを獲得した。次点のタイトル数を持つ監督の2倍にも達する成績を打ち立てている。ファーガソン氏は選手の強化育成だけでなく、クラブの運営面でも辣腕をふるった。「アップルを築いたのがスティーブ・ジョブズであったとすれば、マンチェスター・ユナイテッドを築いたのはサー・アレックス・ファーガソンだ」。マンチェスター・ユナイテッドの前最高経営責任者(CEO)、デヴィッド・ギル氏は、昨年、『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌にそう語っている。

ハーバード・ビジネス・スクール教授のアニタ・エルバース氏は、ファーガソン氏と共著で約5000ワードの記事を『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に発表し、ファーガソン氏が長年にわたるユナイテッドでの監督経験から得た、組織のリーダーのありかたに関する8つの教訓を紹介している。それ以前にもエルバース氏はファーガソン氏のマネジメント手法を研究し、ビジネス・スクールが範とすべきケース・スタディーとしてまとめている。エルバース氏はかつての教え子だったトム・ダイとともに、ファーガソン氏に何度もインタビューし、トレーニングのやり方を見学し、さらに選手やアシスタント・コーチからも話を聞き、ミーティングで語ったり、廊下で立ち話をしたり、カフェテリアで雑談したりするファーガソン氏の様子を眺めてきた。

ファーガソン氏は、エルバース氏がケース・スタディーの授業をしているハーバード・ビジネス・スクールの教室に登場し、学生からの質問に答えた。教室には立つ余地もないほど大勢の聴衆が詰めかけた。このあと、エルバース氏はファーガソン氏の考える組織のリーダーのありかたについて本人から話を聞いた(その後、ファーガソン氏は経営幹部向けプログラムの講師を務めてほしいというハーバード・ビジネス・スクールからの要請に応じた)。以下は、『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に発表された興味深く長大な記事を要約し、具体的な教訓とファーガソン氏自身の言葉を選んで紹介する。

1 まずは基本体制づくりから

1986年にマンチェスターの監督に就任すると、ファーガソン氏はまずチームの選手発掘プログラムを改良し、9歳の少年でも見こみのある人材なら獲得するようにした。こうして同氏が採用した選手の1人がデビッド・ベッカムだ。

ファーガソン:「まず下部の選手からチームをつくりたかった。その狙いはチームを自在に組み替え、新しい人材をいつでもトップ・チームに投入できるようにすることにあった。全員が一緒に成長することで、選手たちのあいだにきずなが生まれ、このきずながチームの団結精神を育んだ。試合に勝つことは目先の利益にすぎない。全員が一丸となったクラブをつくることで安定感と一貫性が生まれる」

2 チームの立て直しを恐れない

ファーガソン氏は目をかけてきた選手を含め、多くの選手を手放している。若手選手の起用を重視する氏は、年齢的にまだ十分に活躍でき、クラブに利益をもたらすことのできる選手でも、他チームに放出した。デビッド・ベッカムもそうして放出された1人だ。ピッチの外で有名になり、そのことが選手としてのキャリアに影を落としはじめたのを見ると、ファーガソン氏は2003年、ベッカムを放出した。とはいえ例外もあり、オランダのストライカー、ロビン・ファン・ペルシを、ファーガソン氏は3500万ドルで獲得している。

ファーガソン:「目標は古参選手を若手選手と交代させ、チームを徐々に強化することにあった。そこでもっぱら2つの点に着目した。まず第1に、どの選手が期待に応えて耐え抜いてきたか、そして過去3年間でどういう段階にいたかを見るということ。第2に、現役選手に老いの兆候が表れていないかだ」

3 目標を高く設定、全員をついてこさせる

1957年から1974年まで選手活動を続けたファーガソン氏は、スコットランドの小さなチームを転々として頭角を現したのち、一流クラブのレンジャーズFCに入団した。だが3年後、監督との意見の違いから退団した。この経験から同氏は断固とした新たな考え方を学んだ。それは「手痛い挫折を経験している」選手を探す、ということだった。

ファーガソン:「私がなすべきことは、選手たちのやる気を高めることだった。選手たちを腐らせてはならない……選手たちには、生涯を通じて全力を出し切ることは1つの才能だとずっと言い聞かせた。だがスター選手にはさらに要求を高くした。プライドの高いスター選手の扱いは、よく言われるほどむずかしいことではない。スター選手に必要なのは勝者となることだ。彼らのプライドは、試合に勝つことで保たれ、高まっていく。だから彼らは勝つための努力を惜しまない」

4 権限を人に渡さない

ファーガソン氏は、有無を言わさず、速やかに行動することを信条としている。選手がトラブルを起こせば、迷うことなく解雇してきた。2005年、キャプテンのロイ・キーンが公然とチームメートを批判すると、ファーガソン氏はキーンとの契約を解除した。またその翌年、ベンチスタートとされたことに不服を唱えたルート・ファン・ニステルローイを、ファーガソン氏はレアル・マドリードに放出した。

ファーガソン:「マンチェスター・ユナイテッドの監督に就任するにあたり、誰にも私以上の権限を認めない、と自分に言い聞かせた。監督は誰よりも我の強い人間でなければならない。この点はきわめて重要だ。ただそれは、自分から敵をつくったり、自分の力の強さを見せつけたりすることではない。要は、チームの手綱を手放さず、問題が生じたときに裁定できる権限を握っておくことだ」

5 タイミングを選んで伝える

ファーガソン氏は前半の終了時やゲーム終了時、選手たちを厳しく叱りつける人物として報道されてきたが、本人に言わせると、選手への接し方は状況に応じて変えてきたという。

ファーガソン:「叱られて喜ぶ人間などいない。叱られて進歩する人間などまずいない。むしろたいていの人間はほめられることで伸びるものだ。選手にとって──人間にとって──『よくやった』という言葉をかけられることほどうれしいものはない。とはいえ、選手がこちらの期待に応えなかったときは、ロッカールームで彼が犯したミスを具体的に指摘しなければならない。私は試合の直後にこうした指摘をし、それ以降は話を蒸し返さない」

6 勝つ準備をする

マンチェスター・ユナイテッドは相手チームに先行を許し、ゲームの終盤で巻き返して勝つことで知られてきた。ファーガソン氏は、ゲーム終了のわずか10分前、いや5分前、3分前でも、ゴールを挙げられるのに必要なことを選手たちに練習させた。

ファーガソン:「私は進んでリスクをとるギャンブラーだ。そのことは、試合の終盤における我々の戦い方を見れば分かる。チームが1対2で負けていて、試合の残り時間があと15分という場合、私は臆することなくリスクを冒し、攻撃型の選手を投入してディフェンスのことは意に介さなかった。最終的にその試合を3対2で勝てたら、天にも昇る気持ちになるではないか。逆に1対3で負けたとしたら、どのみち、負け試合だったということだ。カウンターアタックを仕掛けて負けることもあるが、負け試合だと諦めかけていた試合に勝ったときの喜びほど強烈なものはない」

7 観察力を信じる

ファーガソン氏は、1974年、スコットランドのクラブ、イースト・スターリングシャーの監督に就任したのを皮切りに、セント・ミレンFC、アバディーンFCを経てマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任した。その間、徐々に、トレーニングは監督助手に任せるようになった。それでも、練習の現場には必ず足を運び、選手を観察した。

ファーガソン:「練習中の選手を観察して得られるものには測りしれない価値がある。選手のクセに気がついたり、不意にやる気をなくしたりするのを目にすることで、その選手のことをより深く理解できるからだ。家庭内がうまくいっていないのではないか? 借金を抱えて苦しんでいるのではないか? 選手生活に嫌気がさしているのではないか? 今、どんな気分なのか、といったことまで私には分かる。自分ではコンディションは万全だと思っている選手がけがをしているのを見抜いたこともある。観察する能力、もっと言えば、見るとも思っていなかった意外なことを見抜く能力ほど大切なものはない」

8 常に新機軸を取り入れる

サッカーの戦い方の変化に合わせて、ファーガソン氏はスポーツ科学の専門家チームを導入した。さらに同氏は、悪天候の多いマンチェスターの気候に耐えられるよう、ロッカールームにビタミンDを摂取できるブースを設置したり、全地球測位システム(GPS)センサーを取りつけたベストを選手に着せて彼らの動きを分析したり、視力矯正士やヨガのインストラクターを雇って練習場にクリニックを設置したりした。

ファーガソン:「スタジアムが改良され、ピッチが完璧な状態に保たれ、スポーツ科学が発達してシーズン開幕の準備に大きな影響力を及ぼす時代になった。また、生活が快適になったため、選手たちは25年前と比べるとずっとひよわになっている。……こうした変化は、それを受け入れることで克服できると私は信じている。実績を持つほとんどの人は変化しようとしない。しかし変化なしで済ますことはできないと私は常に思っている。私の使命は最善を尽くしてチームに勝利のチャンスをもたらすことにあり、その使命感が私をここまで駆りたててきたのだ」

By Susan Adams, Forbes Staff

(2014年6月18日 Forbes.com)

(c) 2014 Forbes.com LLC All rights reserved.

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