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ゴーン氏駆り立てる3つの不安

編集委員 西條都夫

西條都夫(さいじょう・くにお) 87年日本経済新聞社入社。産業部、米州編集総局(ニューヨーク)などを経て産業部編集委員。専門分野は自動車・電機・企業経営全般・産業政策など。

昨年暮れに日産自動車のカルロス・ゴーン社長と話す機会があった。その直前にスズキと独フォルクスワーゲン(VW)の提携が発表されたばかり。日産にとって軽自動車のOEM供給を受けるなどスズキとの縁は深い。

原稿に出てくる記事
・3月20日日経朝刊11面「日本車3社、米での販売奨励金が重荷」
・3月24日日経夕刊1面「米自動車、大型投資を再開」
・3月26日日経朝刊1面「日産・ダイムラー相互出資」
・エドマンズ・ドットコム「Some New Cars Now Cheaper Than Used Cars」

そこで「小型車づくりに優れるスズキが、ライバルのVWと組むことになって悔しくないですか」とあえて挑発的に質問してみた。

ゴーン社長は一瞬きょとんとした表情を浮かべ、「どうしてそれが悔しいことなの」とあっさり返された。意気込んで聞いたこちらも拍子抜けして、やりとりは終わったが、もう少し提携戦略について追求していれば特ダネが取れたかもしれない。ゴーン社長率いる日産・ルノー連合はそのころ、独ダイムラーと水面下の提携交渉に着手していたのだ。

矢継ぎ早に提携交渉

3月26日付の日経新聞朝刊によると、日産と独ダイムラーは相互出資する方向で最終調整に入った。日産と資本提携している仏ルノーはすでにダイムラーと資本を含めた提携交渉に入っており、3社で幅広い提携関係の構築を目指しているという。ゴーン社長がさらなるパートナーを求めていることは確かだ。

2006年夏には当時米ゼネラル・モーターズ(GM)の大株主だったカーク・カーコリアン氏の呼びかけに応えて、GMと提携交渉をした。このときはワゴナー会長らGMの経営陣にその気が全くなく、あっさり袖にされてしまったが…。その後、クライスラーとの交渉を進めたが、これも実を結ばずに終わった。

それでもあきめらず、新たな提携を模索する根性は見上げたものだが、何がゴーン社長をそうさせるのか。あえて心中を推し量れば、そこに「3つの不安」があると思われる。

日産・ルノー連合の年間販売台数は500万台を超え、決して小さな企業ではない。それでも今の陣容で自動車市場の地殻変動を乗り切れるかどうか……。

一つの不安は新興市場の台頭と、それに連動して存在感を発揮する地場メーカーの急成長だ。インドのタタ自動車や中国のBYDのように小さなクルマを安くつくるノウハウは日産・ルノーに限らず、日米欧の大手メーカーにはなかなかマネができない。日産・ルノーがインドやロシアで現地メーカーと提携したのも、自らの足らざるを補う作戦である。

もう一つの不安はやはり環境技術だ。次世代の自動車候補には電気自動車ハイブリッド車など様々な技術が名のりを上げており、先行きは予断を許さない。企業としてはどの技術も手広く手掛ける「ポートフォリオ戦略」が求められるが、それには巨額の資金と大量の技術陣が必要になる。GMやダイムラーのような巨人と組むことで、備えを万全にしたい。経営者がこんな思いを持つのは当然だろう。

ドル箱・米国市場の変質

最後は頼みの綱の米国市場の変質だ。24日付日経新聞夕刊によると、GMやフォードは大型投資を再開するという。公的支援を受け、ガバメント・モーターとも言われたGMだが、再建の進行は順調なようだ。同じく政府支援を受けたクライスラーは年初のデトロイト・モーターショーで1台も新車を出品できず、「存続は風前のともしび」という見方が多い。だが、GMはよみがえった。日本車メーカーはビッグスリーのシェアを浸食することで、北米でのシェアと収益を拡大してきたが、トヨタ自動車のリコール問題もあり、潮目が変わる可能性はある。

北米で初公開した日産自動車の電気自動車「リーフ」とカルロス・ゴーン社長(2009年11月13日、ロサンゼルス)=ロイター

加えて、かつては大型車を気前よく買ってくれた米国市場も金融危機を経てかなりケチになった。米自動車専門サイトのエドマンズ・ドットコムには、3月19日付で「Some New Cars Now Cheaper Than Used Cars」という驚くべき記事が載っている。

中古車(ただし状態のよいもの)を買うよりも、新車を買った方が安いケースが多発しており、5年ローンを組んだ場合の月額費用が詳細に載っている。「新旧逆転」の最大の理由は、新車が売れないのでメーカーが販売奨励金をはずまざるを得なくなっていることだ。(販売奨励金については3月20日付日経新聞朝刊の記事も参考になる)。

つまりはこれまで日本メーカーのドル箱だった米国市場で荒稼ぎができそうにない。ゴーン社長ならずとも、自動車会社のトップは今後どこで利益を上げるか再考を迫られている。状況が不安定になれば生き残りをかけた各プレーヤーの提携・合従連衡が加速する。それは時代や分野を問わない一種の法則のようなものだ。

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