「謝る技術」で失地回復 責任逃れはNG

取引先とのやりとりで生じるミス。上司や取引先の担当者がカンカンに怒っている中、真っ先に求められるのがフォローと謝罪だ。一歩間違えば信用を大きく損なう一方で、方法によっては挽回(ばんかい)して次のチャンスにつながることもある。仕事につきものの失敗をどう補うべきか。その方法を探った。
「トラブル時に重視するのは質よりスピード」と断言するのは、機械関連の中小メーカーの男性社長だ。かつて中国の顧客に納めた製品に不具合が生じた際、迅速な対応で解決に導いた。
クレームがあった翌日に現地の担当者だけではなく、自らも顧客を訪問した。現場を調査した結果、特殊な環境下で製品を使用していたことが原因と判明。即座に無償交換を決定し1日で交渉が妥結したという。
予測していなかった状況での使用が原因だったものの、無償交換に踏み切ったのは「解決を先送りすると、後々もっと大きな損失を被りかねない」ためだ。
ある程度の段階で見切りをつけて手を結んでしまうことで、被害を最小限に食い止められるという。実際、この顧客からはトラブルの後も受注が舞い込んでいる。
ただ、経営者が簡単に非を認めると相手がさらに主張を強めるケースもある。それだけに「ここまではできるというラインを明確にすることも大切だ」
決裁権がある経営者が現場に乗り込むことは、その場で対応策を決められるため迅速な問題解決にもつながる。権限がない従業員だと「上司への報告で時間がとられかねない」。それでは、大きな権限を持たない現場の担当者レベルではどう対処すべきか。
大手機械メーカーに勤務している50代の男性管理職は、営業担当だった時代に納期遅れが発生、謝罪するために顧客を訪問した苦い経験がある。まず一言目に強調したのは「業務を管理できていなかった私の責任です」。本来であれば生産ライン側の問題だったが、「他部署のせいにしていると、顧客からの信頼を失う」と考えたからだ。
顧客からみれば、どの部署がミスをしたかは関係ない。担当者を会社の代表とみなすため、他部署に責任をなすりつける姿を見ると「この担当者と話をしても駄目だ」と思う。だからこそ、「自分が全責任を負っているという姿勢を見せることが重要」と、この男性は力説する。
若手従業員も取引先と接する機会は多い。責任を負いきれないようなミスを犯した場合は、直属の上司を伴って謝罪する必要がある。
専門商社の営業担当として働く20代の男性が、仕事で失敗した際に心がけているのは「嫌な状況の時だからこそ積極的に動く」というビジネスの基本だ。
新規開店する顧客の店舗のカギを紛失した時は、まず社内で報告。経緯を端的に説明した上で謝罪した。その後は上司と一緒に取引先を訪問。しかし、顧客の怒りは収まらず「担当を外れろ」と迫られた。その帰り道で男性は「雑用をしてでも信頼を取り戻します」と上司に宣言した。
カギの交換など最低限の対応に加え、荷物の搬入の立ち会いやオフィス用品の発注の書類作成なども手伝った。細かい雑用をこなす姿勢をみて、顧客の態度は徐々に軟化した。開店後も付き合いが続き、今も発注が寄せられているという。
人材採用支援会社に勤める20代の女性営業職も「謝罪を行動に表す」ことで危機を切り抜けた経験がある。深夜にミスが発覚したため、翌日の就業時間前に取引先を訪問した。出社してきた担当者にわびたところ、たまたまその日に雪が降っていたこともあり、むしろ同情された。
若手は自分だけでは責任を果たせない。行動で誠意を示すことが何よりの謝罪につながるという好例だ。
謝罪する際の3つのポイント

ミスは未然に防ぐのが望ましいが、気をつけていても起きてしまうことがある。謝罪の際に特に気をつけるべき点を、総合情報サイト「オールアバウト」でビジネスマナーガイドを担当する美月あきこさんに聞いた。
美月さんは重要な点を3つあげる。1つ目はとにかく相手の話を聞くこと。怒っている相手は感情的になっているだけに、理屈を並べても怒りが増す可能性が高い。まずは相手の話を遮らず、聞き役に徹することが必要だ。
2点目は心を込めて謝罪する。同じ謝罪の言葉を繰り返すだけでは、本当に反省しているかを伝えづらい。「早速上司と相談してご連絡します」「お話ごもっともでございます」などと謝罪の言葉にもいくつかのパターンを織り交ぜると気持ちは伝わりやすいという。
3つ目は謝罪の言葉プラスアルファ。問題解決への代替案をできる範囲で提示すること。ただ、「その場を収めようとして無理に話を大きくしないように気をつける必要がある」。実現しなかった際に余計に怒りを買う可能性がある。
失敗は誰でもするうえ、自分だけが起こしたものとは限らない。
そのような場合でも「逃げたい気持ちを抑え、どれだけ真摯(しんし)に相手と向き合えるかが、その後の信頼関係を左右する」と指摘する。
(中谷庄吾)
[日経産業新聞2009年9月8日付の記事を再構成しました]
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