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グーグル追い越せ 「自動運転」最前線、世界列強も本気

 自動運転技術を巡り、世界の自動車メーカーの開発競争がにわかに活発化している。きっかけになったのは、インターネットの原型を作ったことでも知られる、米国防総省の研究機関が主催した競技。自動車産業のあり方を根底から覆す可能性もあるこの技術でリードする、Google(グーグル)など米国勢の独走を許すまいと、日本やドイツの大手が開発に本格的に取り組み始めた。例えば、トヨタが2013年1月に発表した自動運転車は大きな注目を浴びた。自動運転技術の開発の最前線を追った。

トヨタ自動車が自動運転技術の発表の場として、2013年1月に米国ラスベガスで開催された展示会「International CES 2013(CES)」を選んだのには二つの理由がある。

一つは、開発を進めるのに必要な研究者やメーカーの協力を得やすくすること。トヨタは、開発には「外部の人材の協力が欠かせない」とみる。

自動運転車の実現に重要な技術は、センシングと情報処理である。CESは世界で最も大きなエレクトロニクス関連の展示会で、これらの分野に自動車メーカーよりも詳しい研究者やメーカーが多く集まる。協力者を探すのに格好の場所と言える。

もう一つは、CESの開催地が現在、自動運転技術の開発に最も積極的な米国であることだ。関連する人材が豊富なうえ、制度面での強い後押しがある。今のところ米国の関係者にアピールしなければ開発を進めにくいのが実状だ。トヨタに限らず、欧州の自動車メーカーも米国の協力を得ながら開発を進めている(図1)。

自動運転競技で6チームが完走

米国で開発が大きく進み始めたきっかけが、米国防総省の研究機関であるDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:ダーパ)が主催した自動運転車の競技である。2003~2007年の5年間に3回開かれた。

DARPAが主催するので、第1の目的は軍事用途である。一見、民生用途で使える技術開発には向かないように思える。だが実態は、多くの民間企業の"代理競争"とも言える内容だった。参加したチームは大学や研究機関が中心だが、自動車メーカーを中心とした企業が各チームに資金面だけではなく人材や技術開発でも協力していたからだ。

3回行われた競技のうち、その後の激しい開発競争の号砲を鳴らしたのが2007年に開かれた「Urban Challenge」(図2)。カリフォルニア州北東部のGeorge空軍基地の跡地を舞台に、米国の一般道にかなり近い環境を作って実施された、3回目の競技である。

完走したのは11チーム中6チーム

決勝に進出した車両は、スタートの直前に知らされる地点を通過しながらゴールに向かう。コースには信号や標識、交差点などを配置してあるうえ、カリフォルニア州の交通規則を守らねばならない。さらに人が運転する車両も一緒に走らせる。

自動運転技術を開発する上で最も難易度が高いのが、走行環境が複雑な一般道で走ることである。Urban Challengeで決勝に進出したのは11チームだったが、そのうち6チームが完走した。

自動運転技術に関わるITS Japan会長でトヨタ技監の渡邉浩之氏は、「Urban Challengeの結果を見て、本気で自動運転技術の開発に取り組まねばならないと感じた」と振り返る。トヨタがCESで発表した自動運転車を開発し始めたのは、同競技の翌年である2008年のことだ。

GMが2017年の実用化を表明

Urban Challengeの参加チームのうち、現在の自動運転技術の開発競争に大きな影響を与えたのが、米国のスタンフォード大学とカーネギーメロン大学のチームである。その後のグーグルとGMの自動運転技術の開発に深く関わる。

グーグルが開発する自動運転技術は、二つの大学の研究成果を基にする。スタンフォード大学のチームリーダーを務めたSebastian Thrun氏が、グーグルの開発チームのリーダーである。カーネギーメロン大学で技術開発のリーダーを担ったMichael Montemerlo氏もグーグルに在籍している。

一方、GMはUrban Challengeでカーネギーメロン大学と共同で車両を開発した(図3)。その経験を生かして開発に力を入れている。同社は2012年4月、高速道路に限定した自動運転技術を採用した車両を、2017年までに「Cadillac(キャディラック)ブランド」で発売すると発表した。限定された形ではあるものの、自動車メーカーが自動運転をうたった車両の実用化の時期を明らかにしたのは、「世界で初めて」(GM)である。

制度面で開発後押しする米国

グーグルやGMが自動運転技術の開発をいち早く進められる背景には、制度面での米国の大きな支援がある。特に、複数の州で一般道を含めた公道での実験を許可する免許を出していることが大きい。

自動運転技術を開発する上で、公道実験の重要性は高い。基本的な制御アルゴリズムはこれまでの研究でおおむね完成しつつある。今後の実用化に向けて大切なのは、「机上で考えているだけでは想定しきれない例外的な事象に対応すること」(自動運転技術を研究する慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授の大前学氏)である。

米国で公道実験するための免許をいち早く取得したのがグーグルである。2012年5月に米国ネバダ州で取得した。その8カ月後にはカリフォルニア州でも免許を得ている。

フォルクスワーゲンも公道実験免許を取得

米国以外の企業は、同国の協力を得ながら開発を進めている。中でも積極的なのがドイツフォルクスワーゲン(VW)グループである。

グループ企業のドイツAudi(アウディ)が2013年1月、米国ネバダ州での公道実験の免許を取得したと発表した。無人での自動運転ができる小型スポーツ車「TTS」を改造した実験車を公道で走らせる。

この車両は、スタンフォード大学と共同で開発したものだ。VWグループは長年、同大学と研究を進めてきた。2010年には米国コロラド州で開かれた「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」にスタンフォード大学と共同で開発した無人の自動運転車で参加し、完走した経験がある(図4)。DARPAの競技でも同大学を支援した。

さらにAudiは免許取得の発表と併せて、トヨタが実験車を発表したのと同じCESの会場において、無人で自動駐車する技術を実演して見せた。米国の報道関係者が多く集まる実演会場では、同社Chief Executive Engineer of Electrics/ElectronicsのRicky Hudi氏が「我々の自動運転技術の開発に米国の力は欠かせない」と訴えた。

隊列走行に取り組むボルボ

VWグループは米国の協力を得ながら開発を進める一方で、実用化を早めるのに欠かせない、欧州の後押しを得るための地ならしにも余念がない。そのために国のプロジェクトや他業種の企業と協力しながら多様な実験を進めている。例えばVWは、EU(欧州連合)が資金を拠出するプロジェクト「HAVEit」で、GMが開発しているような高速道路に限定した形での自動運転車を開発した(図5)。

VWグループに次いで熱心なのがドイツBMWである。GMやVWと同様に、高速道路に限定した形での自動運転車を開発している(図6)。現段階は「調査研究という位置付けで、自社単独で実験を進めている」(同社)が、「5シリーズ」を改造した実験車をアウトバーンで既に約1万km走行させたという。

欧州メーカーには、自動運転技術の一形態である「隊列走行」に取り組むメーカーもある。スウェーデンのボルボはその1社。「SARTRE」と呼ぶ国家プロジェクトの一環で開発した。隊列走行とは、先頭車は人が運転するが、後ろに続く車両は無人で走れるようにして隊列を組ませるやり方である。運転者の不足に悩む運送事業者の需要を見込み、ボルボなどの商用車メーカーを中心に開発が進んでいる。

トヨタに加えて日産も本格参戦

欧州メーカーの取り組みに対し、日本も技術面では引けを取らない。しかし、DARPAの競技に加わっていなかったために米国との協力関係の構築で出遅れている。いま、トヨタが懸命に巻き返しを図っている状況だ。

トヨタは2012年9月、スタンフォード大学と自動運転技術に関する共同研究を進めると発表した。その3カ月後に米国で開催されたCESで実験車を見せた。最近、この実験車を使って米国ミシガン州の公道で実験を始めているという。

日本では日産自動車も最近、自動運転技術に力を注ぐ方針を明らかにしている。

2012年10月、日本で最大のエレクトロニクス技術の展示会「CEATEC JAPAN 2012」で、同社副社長の山下光彦氏が自動運転技術に力を注ぐ方針を示すのに合わせ、無人で駐車する機能を実演した(図7)。

実験車両は電気自動車(EV)「リーフ」をベースとした「NSC-2015」で、車両の前後左右に四つのカメラを配置する。このカメラで車両の周囲の環境を認識する。自動運転のための地図データ(駐車場内の車線、駐車枠)をデータセンターから通信でダウンロードし、その地図を元に走行経路を作成し、目標の駐車枠内に停車する。

ボルボのような隊列走行を狙った研究も日本で進む。日本自動車研究所(JARI)が中心となり、日野自動車やいすゞ自動車、三菱ふそうトラック・バスなどと実験を進めている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2008年度から始めたプロジェクト「エネルギーITS推進事業」の一環である。2012年度がプロジェクトの最終年で、2013年2月に実験の様子を公開した。

このように日米欧の三つ巴(どもえ)となりつつある自動運転技術の開発競争だが、今後は技術面だけではなく、事故発生時の責任のありかなど制度面でも多くの課題をクリアしていかねばならない。実現へのハードルはもちろん高いが、同技術は自動車産業のあり方を根底から覆しうる可能性を秘めている。日本にとって、負けられない戦いと言えるだろう。

(日経Automotive Technology 清水直茂)

[日経Automotive Technology 2013年3月号の記事を基に再構成]

[参考]日経ビジネス誌と日経Automotive Technology誌は共同で、「円安」という追い風が吹くなか、日系の自動車メーカーや部品メーカーが今後、進路をどう採るべきなのか、将来を占うためのイベント 「徹底予測 次世代自動車セミナー2013」を2013年04月10日に開催。(http://techon.nikkeibp.co.jp/NE/academy/130410a/)

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