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パンダ舎改修の影響を調査、今後の建設に生かす

東京動物園協会 恩賜上野動物園(東京・台東、以下上野動物園)に2頭のジャイアントパンダがやって来た。パンダに多額の税金を投入することには批判がある。しかし動物園には、単なる動物の展示だけでなく、繁殖や疫病予防の研究などを果たす役割もある。絶滅危惧種に指定されているパンダの繁殖は重要な課題だ。飼育担当者は、自然交配をしやすい環境づくりにパンダ舎を改修するよう努めた。上野動物園は今後、改修がパンダの行動に与える影響を調べて、将来の建て替えや改修に生かす方針だ。

パンダ舎の屋外運動場の裏手にある竹は、地震時などのための非常食。上野動物園は意外と緑が多い。2月19日に撮影(写真:中川美帆)
パンダが上野動物園に到着した直後の2月22日深夜0時ごろ、園内で会見を開いた。壇上が東京動物園協会 恩賜上野動物園の小宮輝之園長。立っている女性は、同飼育展示課 動物病院の原樹子係長で、中国から園内まで2頭のパンダに付き添ってきた獣医師だ(写真:中川美帆)
田畑直樹氏  東京動物園協会 恩賜上野動物園 副園長。1953年生まれ。北海道大学理学部生物学科動物学専攻を76年に卒業、77年に東京都へ入都。井の頭自然文化園や上野動物園の旧水族館、葛西臨海水族館で家畜や爬虫類、ペンギンなどを飼育。多摩動物公園では昆虫の飼育を3年間担当した。企画や教育普及の担当を経て、2004年から井の頭自然文化園の園長、2006年から多摩動物公園の飼育展示課長を務める。2008年7月から現職(写真:中川美帆)

動物園には繁殖研究の役割がある

パンダの受け入れ費は2頭で年間95万ドル(現在のレートで約8000万円)で、10年間の貸与契約を結んでいる。東京動物園協会によると、中国からの輸送には約1000万円かかった。パンダ舎の改修には9000万円を費やした。食費は1日で1頭当たり1万~1万5000円ほどかかる。主食の竹の値段が高いからだ。パンダはリンゴや肉も食べるが、それだけでは腸の調子がおかしくなるので、消化しづらい竹も食べさせる必要がある。

多額の費用がかかることに対し、上野動物園の小宮輝之園長は「現在、野生のパンダは1600頭しかいない。(中国側に支払う費用は)野生でも生育できるように使ってもらえるならば、価値があると思う。上野動物園生まれのパンダが中国で野生に復帰して、野生のパンダが増えることに貢献できるのが夢だ」と話す。

パンダ保護が生物多様性維持の機運に

パンダは希少動物保護のシンボル的な存在なので、パンダの保護は、ほかの動物の保護につながる可能性がある。

日本に初めてパンダが来た1972年ごろ、パンダは野生も含め1000頭に満たない数しかいないと言われていた。上野動物園の田畑直樹副園長は「自然保護の思想が広がったのはパンダのおかげだと思う。かわいいパンダを絶滅させてはいけないという意識が広がった。このようなシンボル的な動物を守ることで、生物多様性を維持していかなければ、という機運になっている」と話す。

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上野動物園にやってきた2頭のパンダの飼育を担当するのは4人。このうちの1人、東京動物園協会 恩賜上野動物園 飼育展示課 東園飼育展示係の倉持浩氏は、パンダ舎を自然に近い状態に改修することを望んだ。倉持氏は過去にリンリンの飼育を担当していて、生きているリンリンの姿を最後に見た人物でもある。2月21日のパンダ来日を目前に控えた2月19日、パンダ舎の改修に込めた思いを聞いた。

きちんとデータを取って、将来に生かしたい

倉持浩氏 東京動物園協会 恩賜上野動物園 飼育展示課 東園飼育展示係。室内運動場の前で2月19日に撮影。背後に見える丸太組みの台は、改修前はコンクリート製だった(写真:中川美帆)

――改修に際し、飼育担当者としてどのようなアドバイスをしたのか。

僕から提案した大きな点は、(室内運動場の)床面の変更だ。以前はコンクリートの床だったので、自然に近い風合いに変えてほしい、それに伴い、コンクリート製の台を木製に変えてほしいとお願いした。また、築20年ほどたっていたので、扉などの建具や電気などの設備は古く、ずいぶんガタがきていた。これらを新しくしてほしいとリクエストした。東京都の工事の担当者と相談したり、中国の専門家の意見を聞いたりもした。電気柵の設置は、中国側からのアドバイスによるものだ。

――パンダの飼育経験を踏まえてリクエストしたのか。

飼育経験を踏まえてというよりも、見栄えを考えた。新しいパンダを迎えるに当たって、せっかく大々的に改修工事をするのなら、今までと少し違う見せ方をしたいと思った。「人工的な空間にパンダがいてかわいそう」という意見を何度かいただいていたので、自然に近い風合いにできればと考えた。既存の建物躯体(くたい)の中でできる最善の工事だ。

飼育経験を踏まえたリクエストをするなら、建て替えを望むことになる。今回の改修がパンダのどういう行動に結びつくか、きちんとデータを取って、今後、もし建て替えるのであれば、それに生かしていけるといい。

僕は、主に年老いた雄のパンダの飼育経験しかない。やってくるのは、やんちゃ盛りの雄と雌なので、改修したパンダ舎の中で何をするか全く見当がつかない。逆に楽しみにしている。

――中国へも行ったのか。

2010年5月に中国へ行き、来日候補の数頭の個体が、それぞれどういうパンダなのかを調べた。

――来日するパンダは四川大地震の発生時、震源近くにいた。ストレスはあるのだろうか。

ストレスなどは人間が勝手に考えること。動物が本当にストレスを感じているかは分からない。

――繁殖研究や疫病予防の研究にも取り組むのか。

日々の飼育の積み重ねが繁殖研究や疫病予防につながる。パンダの健康管理は飼育のルーチンワークの一つで、飼育担当者はパンダの体重を測定したり、行動や食欲、ふんの状態を確認したりする。

――2008年10月に「酵素免疫測定法によるジャイアントパンダの尿中性ステロイドホルモンの測定」という論文を共著で学術誌に発表している。

雌のシュアンシュアンを対象に、米国のサンディエゴ動物園と、シュアンシュアンを借りていたメキシコの動物園との協力に基づいて研究した。論文はその成果だ。

今回は中国側との共同研究なので、中国側とそうしたことに取り組むのかもしれない。こうした研究もルーチンワークの一つ。日々の積み重ねが新たな発見や繁殖につながるかもしれないと思いながら、飼育していくつもりだ。

――子パンダ誕生への期待が高まっている。

今回のパンダ受け入れの名目が共同研究と繁殖なので、必然的に取り組む課題だ。最初は自然交配を目指す。それが本来あるべき姿だと思うので。今回の改修工事では、なるべく自然交配できる環境づくりに努めた。より自然に近い風合いにして、自然な行動を引き出せるようにしたいと思った。自然交配がどうしてもだめなら人工授精にする。一歩一歩、あせらずに取り組んでいきたい。

――上野動物園の果たす役割についてどう思うか。

国内には和歌山県白浜町と神戸市にもパンダがいるが、上野動物園がこれほど注目されるのは、カンカンとランランに始まる飼育歴があるからだろう。カンカンとランランは、日本と中国の友好のシンボルとしてやってきた。パンダをきっかけに、文化交流も含め、日本と中国の交流がより活発になって、友好的な関係が築けるようになればと願う。

今回、パンダの受け入れで支払ったお金は、中国における野生動物の保護保全に使われる。保護活動の内容や必要性などを、上野動物園からもどんどん発信していけたらいいと思う。

【パンダ舎改修工事の概要】
工事名称:上野動物園動物舎改修工事
所在地:東京都台東区上野公園9-83
建築面積:266m2 
延べ面積:建物366m2+屋外運動場800m2
建物の構造:RC造 
発注者:東京都 
設計:九段建築研究所 
施工:建築/小野建設(希望制指名競争入札による)
電気/誠電気 
空調/興和エアコン 
電気柵/小嶋電工 
工期:2010年10月1日~2011年1月31日 
工事費:9000万円

(ライター 中川美帆)

[ケンプラッツ 2011年2月25日掲載]

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