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ルイ・ヴィトン、銀座並木通り店リニューアルの意図

川島蓉子

ルイ・ヴィトン銀座並木通り店と言えば、同ブランドの日本初の直営店として1981年にオープンしたところ。2012年11月、1階と2階を全面的にリニューアルした。デザインを手がけたのはグエナエル・ニコラ氏。どのような意図を盛り込んだのか、話を聞きに行った。

ブランド発祥とも言える地のリニューアル

ラグジュアリーブランドの旗艦店と言えば、青山や表参道、銀座の大通り沿いに大型店を構えるのが、いわば常識になっているが、ラグジュアリーブランドが日本に普及する過程で、銀座の並木通りは中心的役割を担っていた。そこに30年にわたって居を構えてきたルイ・ヴィトンのブティックは、顧客にとって発祥の地に近い存在と言っても過言ではない。

並木通りに浮かび上がる光と影が美しい外観。

ブランドの創業150周年を迎えた2004年、銀座並木通り店は、建築家である青木淳氏の手によって新しい建物に生まれ変わった。

今回のリニューアルは、1階と2階がウォッチ&ジュエリーサロンとして全面的に改装された。ここ数年のルイ・ヴィトンは、パリのシャンゼリゼ通りのメガストアに象徴されるように、大規模店舗で総合的な品ぞろえをするタイプが多かったが、今後の店舗戦略のひとつとして、商品を絞り込んだブティックの有り様が浮上していた。その第1号店として、銀座の並木通り店が俎上(そじょう)に上がったのだ。

ルイ・ヴィトンからの指名を受けて、店舗デザインを手がけたのは、デザイナーのグエナエル・ニコラ(以下、ニコラ)氏だ。日本に拠点を置いて、建築、インテリア、プロダクト、グラフィックと、多岐にわたるデザインを手がけている。パリのサントノーレの「モアナ」のブティックや、ミラノサローネでのエキジビションなど、品のある佇まいとエッジの効いたモダンさが共存している――身を置くと、ワクワクしながら上質な気分になってくる。そんな作風に、昔から魅せられてきた。

余談ではあるが、本人の装いにもそれは表れている。カジュアルでも上質さが漂っているし、かっちりしたスーツでも軽やかさがある。本人がイケメンということを差し引いても、趣味の良いスタイルなのだ。

モノグラムのモチーフをデザインする

「この店では『ヴィトンの文化』と『日本の文化』のトータルのストーリーを生み出すことを考えた」とニコラ氏は言う。「カラーやグラフィックの力によって、フランスと日本をフュージョンした空間」を作った――随所に日本ならではの技がちりばめられている。ニコラの話を聞いていてユニークだと感じるのは、創造が飛翔する瞬間を、ユニークな言葉で表現すること。今回は「空間をヴィトンのモチーフでツイストしようと考えた」というフレーズが飛び出した。村上隆しかり、草間彌生しかり――ヴィトンは数え切れないほど、アーティストやデザイナーとコラボレーションし、ユニークなプロジェクトを世に送り出してきた。

ニコラが挑戦したのは、それを空間で行ってみること。ヴィトンを象徴するグラフィックであるモノグラムを、デザインしてインテリアに施したのだ。

モノグラムのモチーフを、手仕事で硝子に丁寧に彫り込んだアート作品のようなパーツを壁面に配した。これは、三保谷硝子にニコラが依頼し、職人が精緻な手仕事で彫り込んだもの。硝子を通して光が浮かび上がらせる彫り模様は、崇高とも言える美しい輝きを放っている。

モノグラムを題材にして三保谷硝子と創ったモチーフが、店内を彩っている

ブランドの心臓部とも言える大事なモノグラムである。よくOKが出たと思って聞いてみたところ、お台場に1分の1の模型を作り、LVMHグループを統括するベルナール・アルノー氏に直接プレゼンしたという。ニコラは何気ないことのように軽やかに語るが、業界でも世界1、2を争うトップ経営者である。スタッフ一同が息を呑みながら進んだであろうことも想像がつく。

アルノー氏の回答はゴーサインだった。ニコラは「「特別感のある並木ならではのものを、アルノーさんも新しいものを見たいと思っていた。その思いと僕が提案したモノグラムの使い方が符号した」とニコラ氏は見ている。

日本の技術が培われた時間を見せる

ツイストとはどういうことだろうか。その事例がファサードに表れている。「エクステリアとインテリアを関係させたかった。メタルとかグラスといったハードな素材ではなく、柔らかい素材でつなぐことを思いつき、テキスタイルを使おうと思った」。テキスタイルデザイナーの須藤玲子さんに依頼して、折り紙のように編み上げたファブリックをオリジナルで創った。

均質な織り模様が窓の上下を彩っているさまは、外観に、エレガントな優雅さと、そこはかとない柔らかさを添えている。びしっと均質に並んでいる折り紙細工のような編みは、機械でできないため、人の手によって手間暇かけて作り上げたという。

2階に配されているテーブルには、黒字にモダンな金の細工が施されている。これは、金沢の箔の職人が細工を施し、板をバーナーで焼くという手順を踏んだ。日本の手仕事の技術を用いながら、今の時代性を映す存在感のあるものを、ひとつひとつ生み出した。それを、空間の随所に配することで、ブティック全体に不思議なエネルギーと落ち着きが生まれている。

「きれいな空間を作るのでなく、強いエレメントを入れることで、崩したり壊したりしてツイストさせたかった。エモーショナルなもの、見たことがないものを作った」

ウインドウの周辺には、テキスタイルデザイナーの須藤玲子さんの手に拠る精緻な作品が配されている

ヒストリーをどう表現するかということについてのニコラの見方も面白い。「アンティークで歴史を見せるのではなく、長年にわたって培われてきた技術を見せることで、時間の長さを伝えることができる」。テキスタイルにしても、硝子にしても、箔にしても、日本にある粋の技術を使って、今までににない新しいものを一点物で作り上げる。そこにツイストがあり、訪れたお客たちは心動かされ、豊かな時間を過ごすことができる。優れたデザイナーが生み出した、近未来に向けたラグジュアリーへのひとつの解だと思う。

漆塗装のパネルが、商品のバックグラウンドとして有効に機能する
金沢の箔の技術を創ったゴージャスなテーブル
川島蓉子(かわしま ようこ)
1961年新潟市生まれ。早大商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科終了。1984年、伊藤忠ファッションシステム入社。ファッションという視点で消費者や市場の動向を分析している。「おしゃれ消費ターゲット」(幻冬舎)、「TOKYO消費トレンド」(PHP)、「ビームス戦略」(PHP)、「伊勢丹な人々」(日本経済新聞社)、「社長とランチ」(ポプラ社)、「ブランドはNIPPON」(文藝春秋)など著書多数。
[日経トレンディネット2013年1月23日掲載]

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