2018年7月22日(日)

コダックが陥ったワナ
(テクノロジー編集部BLOG)

2012/12/26付
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 今年1月に経営破綻した米イーストマン・コダックは今月19日、保有するデジタル画像関連の特許を米アップルや米グーグルなど12社の企業連合に売却すると発表しました。コダックは米破産法11条(日本の民事再生法に相当)に基づく法的整理から脱却するのに資金が必要だったのです。デジタルカメラやスマートフォン(スマホ)で写真を撮るのが一般的な今、銀塩フィルム大手のコダックは産業史の中でだけ輝く「過去の企業」ともいえます。かつては世界中どこに行っても雑貨店やコンビニエンスストアで手に入った黄色いフィルムの箱を、店頭で見かけることも減りました。

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 コダックの破綻は経営学者やメディアで「イノベーションのジレンマ」に陥った典型例といわれました。イノベーションのジレンマは経営学の権威、米ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱した理論です。優れた特色を持った商品を展開する巨大企業が、その特色を改良することに執着し、新たな商品の市場への参入が遅れてしまうというものです。コダックは高収益の銀塩フィルムの市場シェアが高く、そこに経営資源を集中する方が効率よく稼げるため、新たな経営の展開が遅れたのです。フィルムに特化したのは正しい選択ともいえるのでしょうが、その結果、新たな技術革新に対応できなくなったのです。

 10年ほど前、筆者はフィルムやカメラ業界を担当する記者でした。コダックはデジカメを商品化したものの大きくて武骨なデザインで、日本ではあまり売れていませんでした。デジカメの開発に熱心でないようにも感じました。

 一方で、フィルムの品ぞろえは圧倒的でした。なかでも、白黒フィルムなのにカラーフィルム用の装置で現像できる商品が強く印象に残っています。当時、カラーフィルムしか現像できないDPE(写真の現像・焼き付け・引き伸ばし)店が増えており、手軽に白黒写真を楽しみたいという愛好家の期待に応えた商品です。実は筆者もこのフィルムを使っていました。このようにフィルム市場を深堀りしたものの、新市場ではコダックの力を見せることができませんでした。

 コダックと対照的に、イノベーションのジレンマに陥らなかったのがライバルの富士写真フイルム(現富士フイルムホールディングス)です。筆者が取材していた当時、大西実会長は「まだコダックに追いついていない」とよく話していました。同社は銀塩フィルムを使う高級カメラを発売し、フィルム市場の退潮を食い止めようとしていました。並行してデジカメにも注力し、競合企業とシェアトップを争うリーディングカンパニーになりました。液晶テレビ用の部材などにも事業展開し、今も高収益を保っています。

 経営学に「ブルーオーシャン戦略」という理論があります。仏ビジネススクール、INSEADのW・チャン・キム教授らが提唱した理論で、企業は競争の激しい既存製品の市場(レッドオーシャン)ではなく、競争相手の少ない市場(ブルーオーシャン)で戦うべきだと説いています。

 経営学者たちが企業に求めているのは、イノベーションのジレンマに陥ることなく、青い海に泳ぎ出せということでしょう。しかし、「言うはやすく行うは難し」です。やりたくてもできないというのが企業経営者の本音ではないでしょうか。韓国企業などの攻勢で苦境にある日本の家電メーカーも、新しい事業分野の開拓は進んでいません。

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 そんななか注目されるのが、コダックから特許を買うアップルです。株価は夏に付けた年初来高値から3割近くも下落しています。多くの投資家がアップルの成長性に疑問を持っているのでしょう。米半導体大手のクアルコムは自社製半導体を使って容易にスマホをつくれる製造法を顧客企業に提案しています。その方法を使えば「だれでもスマホをつくれるようになる」というのです。新興国の企業から近く「100ドルスマホ」が登場しそうです。そのときアップルのiPhoneは現在と同様の競争力を保っていられるでしょうか。タブレット市場でもiPadが安価なライバル製品の攻勢にさらされています。

 アップルはテレビの商品化を検討しているといわれています。ただ、テレビはスマホ以上に競争が激しいことは知られている通りです。アップルはこれまでと同じように、消費者がわくわくするテレビを発売してイノベーションのジレンマに陥らないことを証明するのでしょうか。2013年もアップルのニュースは世間の注目を集めそうです。ただ、それがアップルにとって良いニュースばかりとは限らないかもしれません。

(伊)

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