無駄なやつは一人もいない  本田宗一郎のDNA(後編)

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2012/8/23 7:00
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久米さんたちはそうやって直接鍛えられたが、おやじが第一線から遠ざかっていった時期、どうすればいいかを真剣に悩み、熟慮に熟慮を重ねたのだと思う。おやじは天才だから、普通の人間には同じことはできない。そして、何とかしておやじのDNAを引き継ごうとしてたどり着いたのがA00であり、ワイガヤだったのではあるまいか。

■高い志と強い想い

実はもう一つ、ホンダ流イノベーションの必須条件がある。技術者が高い志と強い想いを持つことだ。ホンダでは、技術者個人の自由と裁量に任されている領域が広い。技術者のやる気がなくなったら、いくら本質に根差した哲学があり、イノベーションの加速装置を備えていても全く役に立たない。すべてが一瞬にして崩れ去ってしまう。そのため、技術者を叱咤(しった)激励して、やる気を引き出す必要がある。

ホンダでエアバッグを開発した小林三郎氏(現在は中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授、元・ホンダ 経営企画部長)。 (写真:栗原克己)

ホンダでエアバッグを開発した小林三郎氏(現在は中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授、元・ホンダ 経営企画部長)。 (写真:栗原克己)

この役割は、経営陣が担わなければならない。これこそ、まさに人づくりなのである。財務体質が改善すれば企業が良くなったように見えるが、あくまでも短期的なものだ。中長期的に会社を良くし、競争力を高めるには人づくりしかない。だから、経営者や役員は、人づくりのために時間の3~4割を使う必要がある。今のホンダにそれができているか。筆者はホンダを離れて6年以上たつが、気に掛かるところである。

たくさんのおやじのスピーチが印象に残っているが、「無駄なやつは一人もいない」と関係する話をよく覚えている。こんな内容だ。

「うちはバイクとクルマを造っているが、人によって向き不向きがあるはず。この分野で全員が100%の能力を発揮できるわけじゃない。輝くダイヤになるやつもいるけど、石のままのやつもいるだろう。だけど俺にとっては石もダイヤも同じくらい大事なんだ。だからみんな、一生懸命ベストを尽くしてくれ。ところで、今日はあんまりダイヤがいないなぁ(笑)。でも大体な、おまえら。人にぶつけるときは石の方が便利なんだぞ」。そこで、みんながドッと沸いた。あ、おやじは心底そう思っているんだなと分かったからだ。

そして、みんなベストを尽くした。

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