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震災の教訓生かす、食品加工団地の電力を統合制御

気仙沼プロジェクト

 東北を代表する食品加工メーカーが集積する宮城県気仙沼市の赤岩港では、電力システム改革を先取りするプロジェクトが進んでいる。新電力(PPS)が、地域のメガソーラーから工業団地向けに低コストで電力を調達し、地域エネルギー管理システム(CEMS)を活用して需給バランスを保つ構想だ。再生可能エネルギーの出力変動を電力卸市場とデマンドレスポンス(需要応答:DR)を使って使いこなす試みだ。
写真1 復興が進む気仙沼の赤岩港水産加工団地

宮城県気仙沼市の沿岸は、東日本大震災による津波で甚大な被害を受けた。赤岩港では漁港施設の他、水産加工関連の工場が集まる工業団地も津波をかぶり、建物が破壊された。東北復興では、「単に元に戻す復興ではなく、地域を活性化させる新たな価値を生み出す」ことが、政府や自治体の共通認識になっている(写真1)。

気仙沼市は赤岩港の復興を機に、経済産業省の支援を得て、水産加工団地をスマート化する「赤岩港・エコ水産加工団地プロジェクト」を策定した。具体的には、生産設備などを監視・制御する工場エネルギー管理システム(FEMS)を各工場に導入し、それら複数のFEMSを統合制御する地域エネルギー管理システム(CEMS)を構築。工業団地全体のエネルギーの需給を最適に管理する計画だ。これまでの事業性調査の結果をもとに、今夏までに最終的なプランが固まってきた。

東北電力より低コストで電力を調達

同計画のマスタープランは、千葉県柏の葉のプロジェクトにも参画するスマートシティ企画(中央区)が担っている。同社を中心に赤岩港工業団地に生産拠点を持つ食品加工関連9社が何度も集まって議論を重ね、費用対効果の高いプロジェクトを練ってきた。

新電力は、発電電力を顧客に託送する際、送電線を持つ東北電力から30分間に電力の供給と需要を一致させる「30分同時同量ルール」が課せられており、違反するとペナルティを支払わねばならない。エナリスはCEMSを活用して、荏原環境プラントに課せられる30分同時同量ルールの達成をサポートする。

エナリスの池田元英社長は、「天気予報の情報を元に太陽光発電の発電量を予測するノウハウが蓄積されてきた。事前にメガソーラーの発電力を予測しつつ、需要とのギャップ分の電力を電力卸市場などから機敏に調達することで、30分同時同量を達成することは、それほど難しいものではない」と自信を見せる。

加えてエコ水産加工団地プロジェクトでは、CEMSを活用して、水産加工工場に対してデマンドレスポンスを要請して需要ピークを削減することも計画しており、最も低コストで需給をバランスさせる手法を探る計画だ。

電力使用状況を全社員が閲覧可能に

赤岩港には、震災前から、三陸を代表する水産加工関連企業の9社13工場が立地していた。被災から2年たち、周辺地区に比べて工場の建て替えが早く進み、操業を始めている(写真2、図1)。また、2014年8月には、隣接した地域に第二赤岩港工業団地(仮称)がオープンする。

写真2 操業を再開した赤岩工業団地にある八葉水産の工場
図1 赤岩工業団地の見取り図。9社13工場が被災したが、操業を再開した(出典:スマートシティ企画)

それぞれの工場団地の契約電力量は4000kWで、立地企業がフル操業すれば、合わせて8000kW程度の電力需要になると見られる。

各工場に導入するFEMSは、工場の生産設備、冷凍冷蔵庫、空調、照明などの設備の電力使用状況を常に監視し、全体の使用電力が契約電力量を超えないように制御する。電力の使用状況を宅内表示パネルなどにリアルタイムで表示して「見える化(可視化)」し、エネルギー管理者や経営幹部だけでなく、全社員が閲覧できるようにする計画だ。

震災後に停電が長引いたことによって、冷凍保存していた生鮮魚類などの原料が溶け出して腐敗し、大きな損害を出した。これを教訓に、食品工場のスマート化では、停電時のエネルギー安全保障の視点を重視し、蓄電池や自家発電機の導入を目指した。当初の計画案では、自営線を敷設し、「特定供給制度」を利用したマイクログリッド(小規模系統網)の構築や、各工場に太陽電池や大容量蓄電池を設置する構想も検討した。

だが、「事業性評価の結果、いずれも初期投資の回収に時間がかかりすぎることが分かり断念した」と、スマートシティ企画の青山英明事業推進部部長は打ち明ける。

停電時にはPHVから給電

特定供給によるマイクログリッドにした場合、自営線のコストが高いなど、供給電力を安くできないことが判明したのだ。蓄電池は、時間帯別の電気料金を考慮した上で料金が安い時間帯に蓄電し、高い時間帯に利用すれば、日常的にも経済メリットを出せる。しかし、初期投資を回収するのに10年前後かかるとの事業性評価となった。

そこで、マイクログリッドや蓄電池の導入は見送り、代替としてプラグインハイブリッド車(PHV)を各工場に導入し、PHVに搭載された蓄電池を非常時に活用することになった。

当初の計画案に比べ、導入設備が減りシンプルな構成になったが、それでも工場にとって利点は多い。CEMSと連携して新電力から電力を調達することで電気代が削減され、FEMSによるピークカットすることなどの効果で、導入設備の投資回収期間は、数年に短縮され、費用対効果が向上する見込みだ。

赤岩港工業団地に工場を持つ八葉水産(宮城県気仙沼市)の清水敏也社長は、「FEMSによる使用電力量の見える化によって、経営者だけでなく、従業員全員が、常にエネルギーコストを意識しながら働くことの意義は大きい。節電効果とともに経営への参加意識が高まり、事業運営が洗練される」と、FEMSの見える化の効果に期待する。

新電力からの安定供給実現へ

工業団地の企業にとっての利点は、エネルギーコストの削減だけではない。目的の一つであった災害時の対応力も増した。PHV導入により、停電時にPHVの蓄電池から工場の事務所に給電することで、ある程度の電力を確保できる。

「津波で停電した時に最も困った点は、事務所の電話さえ使えず、冷凍庫用の電源を確保できなかったこと。停電時にPHVから数時間でも給電してもらえれば、冷凍庫の電源確保などの緊急対応を外部に手配できる」。

大容量の蓄電池の導入を見送ったことで、停電時に冷凍庫の電源を長時間、賄うことはできなくなったが、冷凍庫の扉を開けなければ、庫内温度の上昇は緩やかで数日間は溶けないという。事務所機能さえ維持できれば、食材の品質低下による損害は防げるという。

電力システム改革により、電力卸市場が活発化し、新電力でも安定した電力供給を実現できる可能性が高まる。赤岩港エコ水産加工工業団地プロジェクトは、こうした制度改革を先取りし、シンプルなCEMSを連系した事業性の高いモデルとして注目される。

(日経BPクリーンテック研究所 金子憲治)

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