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触らない計測やクラウド健康管理、「医療費膨張」ITで抑止

医療IT

 「高品質」「多機能」だけでは、ヒット商品を生み出せない時代になった今、的確に市場のニーズや将来像を予測した上で、商品開発に取り組む必要性が高まっている。連載特集「未来を読む」では、新市場創出の期待が高い注目分野の動向を取り上げるとともに、高齢化や都市化などによって変わる消費トレンドなどを解説する。今回は、市場を起点にした技術ロードマップを体系的にまとめた技術予測レポート『テクノロジー・ロードマップ 2014-2023』(日経BP社、2013年11月)の著者の一人で、予防医療のトレンドに詳しい奈良女子大学 社会連携センター 特任准教授の梅田智広氏に、IT(情報技術)を用いた健康管理サービスや高齢者の在宅見守りサービスの将来展望などを解説してもらう。

医療費の増大は、日本をはじめ、少子高齢化が進む先進国に共通の社会的課題となっている。日本では、都市部を中心に一人暮らしの高齢者が孤立死する問題も深刻化している。

こうした課題を解決する手段として大きな関心を集める技術分野が、ITを用いた健康管理サービスや高齢者の在宅見守りサービスである。ITと医療を融合して病気になる前の段階で未然に防ぐ予防医療や、高齢者にほとんど意識させることなく遠隔地から様子を把握する環境を実現する。いずれも自立して生活できる健康年齢を向上させる上で大きな役割を果たす。

これらのサービスは、センサー技術や生活支援基盤システムなどを軸に今後、次第に融合していく。この数年で利用者を増やしているSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などと連携しながら、数年で社会に定着していくだろう。

健康管理向けのソフトウエアやインターネット関連サービスなどの市場規模は、2015年に日本国内で約900億円と見込まれている。高齢者向けの緊急通報や見守り・安否確認サービスの市場規模は、独居高齢世帯の増加と高齢者住宅の戸数増が市場成長をけん引し、2020年に約130億円に成長する見通しだ。

医療費は60年間で110倍に膨張

こうした期待が高まる背景には、増え続ける医療費の問題がある。平均寿命の伸長と高齢化に伴い日本の医療費は年々増加し、2012年度には38兆円に達した。その38%は国や地方自治体が負担しており、財政を圧迫している。国民一人当たりの医療費は、この約60年間で実に110倍となった。

病院での長期入院患者は増加しており、その費用は医療費の40%を占めている。臨床ベッド数は都市部を中心に足りない状況にある。厚生労働省は入院期間の短縮と在宅医療の促進に向けて取り組んでいるものの、今のところ十分な対応・対策は実行できていないのが現実だ。

ITを活用した健康管理や在宅見守りのサービスは医療費の抑制につながるだけではなく、将来的には家や施設、地域の生活環境をより快適・安心・安全なものに変える可能性を秘めている。新たなサービスの創生はビジネス機会を生み出し、地域自治体の活性化や健康・医療に配慮した街づくりが実現するだろう。

予防医療では、医療費高騰の要因になっている生活習慣病の罹患者を低減する方策が必須である。そのためには、日々、自己の状態を正しく知る技術、つまり体重や血圧、心拍のようなさまざまな生体情報を継続的にモニタリングできる技術やシステムの開発が求められる。これにより、「どれくらい病気になりやすい状態か」などが分かり、体調や意向に応じた健康の増進、病気の予防が可能になる。

センサー技術やスマホが後押し

この分野で活躍する技術の代表は、生体情報を計測する各種センサーである。センサー技術の進歩により、従来は主観的評価しかできなかった多くの生体情報が、いつでもどこでも気軽に計測できるようになり、個人が客観的に自分の健康状態を評価できるようになっていく。

急速に普及するスマートフォン(スマホ)やタブレット端末が、生体情報の計測環境の広がりを後押しする。センサーで計測した情報を、これらのモバイル端末経由でリアルタイムにインターネット上に送信できる環境が、新しいサービスを創出していくことになるだろう。モバイル端末向けに健康管理用のアプリを開発するツールの整備が進み、その結果としてアプリの数が増え、さまざまなニーズに向けたサービスの多様化が進んでいく。

生体情報は周囲の環境情報や生活情報と関連付けられ、インターネットのクラウド環境などで統合的に解析・評価されるようになる。この環境は、病気の予防や早期発見システムの実現へとつながっていく。「ヘルスインフォマティクス(健康情報科学)」などを用いた推論エンジンの開発が進み、商品やサービスに応用されるようになりそうだ。

進化する「触らない計測技術」

例えば、生体情報と、その日の天候を関連付けて、健康や生活のアドバイスするサービスなどが広がっていくだろう。人の体調は気圧、気温差など天候の変化に大きく左右される。この気象現象が人に与える影響を研究する「生気象学」の成果に裏付けられた解析に基づいて、摂取した方がいい食材や、お薦めの献立、栄養情報などを利用者に提示する。

こうしたサービスは、特に慢性的に不定愁訴(「頭が重い」「イライラする」といった自覚症状はあっても、検査では原因が見つからない状態)を持つが、健康管理意識が低い人にとっては導入を促す魅力的なツールとなりそうだ。

生体情報センサーは今後、身体に触れずに測る非侵襲計測、かつ無意識に計測できる方向に技術が進化していく。生体情報を活用する際の費用対効果を高めるためには、短時間かつ安価に計測できることが望ましいからだ。

一例を挙げると、血液成分検出では、血液を採取しないで計測(非観血)できる近赤外線を用いたセンサーの開発が進んでいる。コレステロール値や血糖値、老化の原因物質であるAGE(終末糖化産物)値を計測するセンサーである。非観血による計測は、結果が即座に分かることも採血に比べた大きなメリットになる。血圧についても腕に巻くバンド(カフ)を使わずに測定できるシステムが登場していくことになるだろう。

見守りサービスでは、生体情報の計測による健康管理サービスと融合させながら、SNSを活用した新しいタイプのシステムを実現する動きが活発になりそうだ。例えば、生体情報を用いた健康状態の評価を、あらかじめ登録しておいた家族や担当医にSNSを用いて通知するようなサービスである。

求められる費用対効果高いシステム

今後、健康管理サービスや見守りサービスでは、日本版のCCRC(終身型高齢者施設)への対応が進むだろう。ここでは、ネットワーク型とワンプレース型という大きく二つのタイプのシステムが登場する。

ネットワーク型は、在宅支援診療所や介護施設、デイセンターなどの複合施設と、地域の高齢者の住宅をネットワークでつないだシステムだ。この通信環境を活用して、個人の健康状態やニーズに応じたさまざまなサービスを提供する。ワンプレース型とは1カ所の自立型住宅の中で医療や介護、生活サービスの充実を図り、高齢者に新しい生き方を提案するシステムである。

こうした取り組みの成否は、費用対効果の高い健康管理システムや在宅見守りシステムの実現に掛かっている。加えて、利用者が効果を実感し、「恩恵(ありがたさ)」を感じられるサービスを実現することが、継続的な利用につながる。誰もが簡単に操作でき、科学的根拠に基づいた価値ある情報を提供するサービスの実現が求められている。

(奈良女子大学 社会連携センター 特任准教授 梅田智広氏)

[Tech-On! 2014年2月24日付の記事を基に再構成]

[参考]日経BP社は2013年11月、市場を起点にした技術ロードマップを体系的にまとめた技術予測レポート『テクノロジー・ロードマップ 2014-2023』を発行した。「市場の将来像」を描き、市場ニーズに合わせた商品機能を定義し、その機能を実現するための技術にブレークダウン。自動車、エネルギー、医療・健康、エレクトロニクスなど各分野でイノベーションを起こす合計90テーマを選定し、今後10年間(2014~2023年)を見通した。詳細は、http://www.nikkeibp.co.jp/lab/mirai/megatrend/techroad-ind.html

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