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電力自由化がつまずいた理由 新電力、わずか「3.5%」

経済産業省の電力システム改革専門委員会の議論が大詰めを迎えている。委員会が2012年7月にまとめた「基本方針」に基づいて、同12月までに経済産業省が提示した政策の具体案の検証作業が進んでいる(表1)。2013年1月の委員会では、発電部門から送配電部門を中立化する発送電分離を、送電部門を子会社化して電力会社から切り出す「法的分離」で実施することが大筋まとまった。

電力改革では発送電分離がとかく注目される。しかし、ビジネス目線で見たときに重要なのは電力会社(一般電気事業者)以外の企業にとっての事業機会の大きさや自由度だろう。

今回の電力改革では、家庭部門を含む全需要家に「選択の自由」を保障することを目指す。そのためには選択肢として、電力小売り事業者である新電力(特定規模電気事業者)の充実や電力サービスの多様化は欠かせない。発送電分離は電力会社と新電力の公平な競争を後押しする手法だが、問題は結果として本当に競争が促進されるかどうかにある。

というのは、既に家庭部門や小規模需要家を除いて、自由化は制度として実現している。だが、自由化されているはずの大口需要家向け市場で、十分に「選択の自由」があったとは言えない状態が続いてきたからだ。

卸電力取引は市場全体の「0.6%」

2012年1月に東京電力が大口需要家向け電力料金の値上げを発表した際、低料金を武器にしていた新電力が注目を集め、東電から乗り換えようとした需要家が殺到した。だが、このとき乗り換えを実現できた需要家はごくわずかしかいない。新電力にとっては電力会社から顧客を奪う絶好のチャンスだったわけだが、新規顧客に供給するための電力を調達できなかったのだ。

現在の部分自由化は、2000年に契約電力が2000キロワット(kW)以上の大口需要家を対象として始まり、2005年には同50kW以上にまで広がった。電力会社は地域の枠が外れ、域外に対しても供給が可能になった。しかし、域外供給の実績はこれまで、九州電力が中国電力管内にある広島のスーパーマーケットと契約した件などごく限られる。事実上、自由化部門においても電力会社の地域独占は温存されたままになっている。

電力会社間の競争が促進されない分、新電力に市場活性化の役割を期待したくなるが、自由化部門における新電力のシェアは今も3.5%しかないのが実態だ。自由化に合わせて電力会社や卸電力事業者、新電力などが電力を売買する卸電力取引所が立ち上がっている。しかし、市場取引量は小売り市場全体の0.6%に過ぎない。これは新電力にとって、顧客の要望や変動する電力需要に応じて柔軟に電力を調達する手段が限られていることを意味している。

制度上は自由化されていても、既存の電力会社が圧倒的な市場支配力を握り続けている限り、競争的な市場は成立しにくい。これが部分自由化の教訓である。

NTTファシリティーズや東京ガスなどが出資する新電力最大手、エネット(東京・港区)の池辺裕昭社長は、これまで政府の審議会などで「電力会社に取引所での売電・調達を30%程度以上義務づけるべきだ」と主張し続けてきた。新電力は自前の発電所のほか外部の発電事業者や取引所から電力を調達し、顧客に電力を販売する。池辺社長の主張は、電力会社が保有する優越的な供給力を市場取引を通して新電力などに配分しなければ電力市場は活性化しないというものだ。

「通信自由化」は新規参入者の優遇で成功

戦後、電力の安定供給の観点から地域独占を前提に整備されてきた日本の電力市場では、部分自由化を始めた段階で電力会社は既に全国の電力を賄うに十分な供給力を確保していた。新規参入者が電力会社に対抗するような大規模な発電所には投資しにくい環境だった。顧客も電力会社ががっちり握っている。電力会社から見れば、取引所を通して電力を調達したり、新電力に融通したりするインセンティブは乏しい。

過去の自由化政策の成功例として、1985年に始まった通信自由化が挙げられる。それまで電電公社(現NTT)が独占してきた通信市場に新規参入してきた第二電電(現KDDI)や日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)、日本高速通信(現KDDI)を「新電電」と呼んだ。

長距離通話の自由化が始まったとき、郵政省(現総務省)が取ったのは実質的な新電電の優遇だったとされる。というのは、NTTが新料金を発表した後に、必ずそれより安い料金を新電電が出すという流れが続いた。当時、許認可制だった通話料金を郵政省が新電電に有利になるように金額や認可タイミングを調整しているように見えたためだ。

当時、こうした「優遇」はかえって市場をゆがめかねない政策だとして経済学者などから批判が集まったが、自由化の翌年には長距離通話での新電電3社のシェアは3割を上回り、今日の競争市場につながった。これに対して、電力の部分自由化を進めてきた経産省は新規参入者への優遇策を一切取らなかった。結局はこれが"小ぶりな自由化"にとどまってしまった理由と言える。

今回の電力改革で発送電分離が鍵になるのは間違いないが、発送電分離だけで市場が競争的になる保証はない。そうした視点から政府が提示した改革案をつぶさに見ていくと、「同じ轍は踏まない」という意思が読み取れる。

まずは卸電力市場の活性化

政府案は、新電力の調達量増加につながる卸電力市場の活性化を「小売り全面自由化に不可欠の要素」と明記。まずは全面自由化に移行する前段階から電力会社には取引所への自主的な電力拠出を促すとしている。エネットの池辺社長が主張する義務化にまでは至らないが、電力取引の活性化に向けて一歩前進と言えるだろう。

政府方針に対して、各電力会社は取引所への「売り入札」の数値目標を既に表明しており、9社合計で年間370億kWh以上にのぼる。これは現在のスポット取引の4倍程度の規模になる。

電力各社が掲げた目標は自社が必要と考える供給予備力を除いた電源を全量、市場に投入する前提で算出したものだが、政府は予備供給力の見直しや市場運用の工夫でさらに市場投入を増やすよう求める考えだ。取引所への電力拠出が電力会社の自主的取り組みでは不十分と判断したときは、強制的な措置も検討するとしている。

新電力にはハードル高いベース電源の確保

他にも、新電力の新規参入や顧客開拓をしやくする施策の検討が進んでいる。

新電力が電力会社と競争するうえでハンディとなっていたものにベース電源の確保がある。ベース電源とは昼間の需要変動とほぼ関係なく、一定以上の需要を24時間賄う発電設備を指す。需要に合わせた出力調整力よりも設備利用率の高さや発電コストの安さが重要視される電源で、これまで原子力や石炭火力、一般水力が担ってきた。

だが、いずれも新電力や独立系の発電会社が新設するにはハードルが高い電源で、天然ガス火力などで代替しようとするとコスト競争力で負けてしまう。石炭火力については建設を目指す動きがこれまでにいくつかあったが、二酸化炭素(CO2)規制から国内での新設は難しくなっている。

そこで政府案は「部分供給」や「常時バックアップ」の促進を検討している。いずれも新電力に不足しているベース電源に相当する電力を電力会社などから調達しやすくする施策である。

部分供給は、需要家が複数の事業者(小売り)と供給契約を結べるようにするもので、ベース供給は一般の電力会社から、昼間の需要に合わせた負荷追従部分は新電力からと、分けて購入できるようにする(図1)。ベース供給を電力会社に任せることで、新電力は競争力のある負荷追従部分の電力供給に絞って顧客を開拓できるようになる。

常時バックアップは、新電力がベース電源など不足している発電量を一般の電力会社から長期的に買電する契約形態で、電力会社が持つベース電源への実質的なアクセスを可能にするよう制度を改める。

政府は、常時バックアップ料金をこれまでの全電源平均コストではなくベース電源コストを基本に算出するよう電力会社に求める。従来料金を下回る設定により新電力の価格競争力を高める。量的にも新電力の需要が拡大する場合は拡大量に応じて常時バックアップの利用枠積み増しを電力会社に対してルール化する。

その他、新電力の参入障壁になってきたとされる「30分同時同量ルール」なども見直す。変化する顧客の需要量に対して発電量を30分単位で一致させる出力調整規則で、違反に伴う高額なペナルティー(インバランス料金)が新電力には運用上の大きな負担になっていた。

産業界は電力事業に強い関心

改革案は支配的事業者である電力会社に一定の制約を課し、新電力を優遇する「非対称規制」の要素を多く盛り込んでいる。電力小売りの完全自由化が実現し、新電力などの新たなプレーヤーが活躍できる枠組みができれば、需要家のきめ細かなニーズをすくい上げた多様な料金メニューや、「デマンドレスポンス」などの節電サービスを組み合わせた新しいサービスの登場が期待できる(図2)。

既に発電への企業参入では、事実上の改革が始まっている。経産省は2012年9月、電力会社が火力発電を新設・増設・更新する場合は、電力会社が自前で建設するのではなく、原則、入札で決めた卸電力事業者が建設した発電所から電力を購入する形式に改めるガイドラインを公表した。

競争原理と民間の活力を生かして発電コストの抑制を目指す。電力会社から落札した卸電力事業者が余剰電力を新電力に売電することも認める。2012年11月、このガイドラインに沿って東京電力が公募することになった260万kWの大型火力建設の説明会会場には100社が集まり、電力事業に対する産業界の関心の高さを示した。

政府は電力改革に必要な法改正案を、今国会から順次提出していく。電力業界は改革先送りを求めて与党への働きかけを強めているとされるが、欧米に後れを取っている電力市場の自由化をこれ以上遅らせれば、日本のエネルギー産業の国際競争力を著しく削ぐことになりかねない。日本企業のビジネスマインドを日本の電力ビジネスに生かすことが今、求められている。

(日経BPクリーンテック研究所 中西清隆)

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