2019年8月21日(水)

日米外交60年の瞬間 第3部

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「アジアの孤児」論も サンフランシスコヘ(55)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2012/9/1 7:00
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61年前のあさっての話である。1951年9月3日午後4時、サンフランシスコ滞在中の吉田茂首相は、全権および全権代理を前に訓示した。

外交官出身の吉田を別にすれば、必ずしも外交舞台になれているとはいえぬ人たちである。吉田は、自身が会議に臨む決意を述べるとともに、日本全権として恥ずかしくない態度をとるようこまごまとした注意をした。敗戦国の首相としての思いがあったのだろう。

■問題点の筆頭は「賠償」だった

華やかな外交舞台の始まりを前に、サンフランシスコ講和条約が当時の日本に投げかけた問題点を考える。順序は当時の日経報道による。いまからみれば、それ自体が興味深い。

第一に、賠償問題である。池田・ドッジ会談でも少し触れたように、講和後の日本は厳しい経済問題に直面することになっていた。米国の対日経済援助は打ち切られ、そのうえに連合国財産補償と元利1500億円に達する外債処理を抱え、加えて賠償の義務を負うからである。

フィリピン、インドネシア、ビルマなどが講和に参加すれば、これら諸国との間に賠償方法、賠償額、支払い期間について協定を結ぶことになる。問題は賠償総額であり、イタリアが現物、生産物、役務を含め総額3億6000万ドルの賠償責任を負った例が参考とされた。

日本は当時既に1億6000万円(戦前の貨幣価値)の施設、機械を中間賠償として関係国に引き渡していた。外務省は各国との交渉にあたり、この点を主張することにしていた。

賠償支払い期間も難しい問題だった。期間は短い方がいいようにみえるが、年間の負担額が大きくなり、財政を圧迫する結果になる。イタリアの場合は7年だった。

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

第二は、中国との講和である。この時点では日本は中国との間で2国間の平和条約を結ぶことになっていた。それが米英の意見だったからだ。北京の中華人民共和国か台北の国民政府かの判断は、日本に委ねることになっていた。

日本の判断に任せるとはいっても、中共と呼ばれていた中華人民共和国は、米兵が朝鮮半島で戦っている敵国であり、当時の国際情勢からすれば、吉田内閣が北京政府を選ぶ可能性は乏しかった。したがって外務省は、国府を台湾統治の政府と限定承認したうえで平和条約を結ぶことを考えていた。

第三は、ソ連との関係である。ソ連も中共もサンフランシスコ講和条約に参加しないことがこの段階では確実だった。講和条約つまり平和条約が結ばれない限り、戦争状態は法的には終わらない。中国とは国府との間で条約を結ぶとすれば、ソ連とはどうなるのか。北方領土問題の文字は、当時の新聞にはないが、領土問題は当然ながら、すでに存在した。

サンフランシスコ講和会議で北方領土問題がどう扱われたかは、後に触れる。いずれにせよ、ソ連つまり現在のロシアとの間では平和条約は2012年現在、いまだ結ばれていない。結ばれる見通しもない。

■ソ連、中国の影

ソ連といえば、サンフランシスコ講和会議が始まる9月4日、東京の連合軍総司令部が面白い発表をした。北朝鮮領内に砲兵、戦車、装甲車で援護された多数の白人がいるというのだ。「ソ連のかいらい軍」との表現を総司令部は使っている。

一方、北京政府との関係を重視する動きもあった。社会党の鈴木茂三郎委員長は、やはり4日、仙台で記者会見し、次のように語った。

「インド、ビルマなどが平和条約に調印しないため日本は経済、外交ともアジアの孤児になる。また貿易上の死活のカギを握る中共やアジア諸国が調印しないということは日本にとって重大な問題だ。政府は台湾の国民政府を承認するというが、この政府と中共が貿易を再開するとは思われない。社会党はビルマ、インドの不調印後に単独講和を提案する使節団を出す一方、中共貿易を打診する視察団を送りたいと考えている」

「アジアの孤児」の表現は、最近でこそ聞かれなくなったが、冷戦時代には日本の左翼陣営に多用された。

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