2019年8月18日(日)

日米外交60年の瞬間 第3部

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日米暫定駐兵協定の骨格明らかに サンフランシスコへ(11) 日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2011/10/29 7:00
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井口貞夫氏=朝日新聞社提供

井口貞夫氏=朝日新聞社提供

マッカーサーが米議会で感動的な演説をしたほぼ半日後の日本時間1951年4月20日午前11時から、ダレスは東京でいくつかの重要な会談をこなした。最初の客は、参院議長である佐藤尚武だった。第1部で紹介した工業倶楽部の昼食会にも参加した外交官出身の政治家である。

■ダレス、要路と相次ぎ会談

11時半にはクラットン駐日英代表部首席代理がやってきた。これは対日講和をめぐる意見調整である。独立を回復していない日本には外国の大使館がなかったことがクラットンの肩書でわかる。大使館でも公使館でもなく、代表部だったのだ。

午後3時からは、自由党の幹部と会った。益谷秀次総務会長、佐藤栄作幹事長、植原悦二郎顧問、大野木秀次郎参院議員会長、仲内憲治渉外部長らと1時間会談した。4時半からは民主党の苫米地義三最高委員長、三木武夫幹事長、千葉三郎政調会長らである。対日講和をめぐる日本国内の政治的合意を求めるための外交活動である。

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

事務当局間でも動きがあった。総司令部(GHQ)のシーボルト外交局長と井口貞夫外務次官は午後2時から30分間会談した。井口はこの会談で日本側から提出すべき資料をすべて提出した。話し合いは満足のいく内容だったと井口は記者団に語っている。

井口が提出したのは、米軍駐留の延長を内容とする、当時、日米暫定駐兵協定と呼ばれていたものであり、現在の日米安保条約と地位協定のような内容だった。

対日講和は日本の独立のための条約であり、安全保障だけでなく、経済関係の分野も含まれる。大蔵、通産、運輸省も関係資料を提出することになっており、英国の対日経済制限、フィリピンの賠償要求に対する日本側の考えを数字をあげて示すことにしていた。

■日本に廃棄の権利ない協定案

ダレス訪日は事務レベルの作業を促した。共同通信は20日、日米暫定駐兵協定の「予想される内容」という記事を配信した。緻密に取材した結果書いた原稿であり、その時点での交渉の中身をうかがい知ることができる。紹介しておこう。

・この協定は日本が継続的かつ効果的な「自衛」と相互援助の条件を備えたときに恒久的な地域的、集団安全保障に発展せしめ、太平洋地域における民主主義、個人の自由および法の支配の原則の上に築かれた国民の自由と共同の遺産および文明を擁護する目的で取り決めたものである。
・日本が武力攻撃を受けた場合は、それは日本に駐留する米国軍隊ならびに米国に対する攻撃と認める。日本は協定の円滑なる実施を行うため、日本に駐留する米国軍隊に協力するために必要な施設、その他の便宜を供与する。
・日米合同委員会=この協定の実施に関する事項を審議するため、日米両代表により構成される合同委員会を設け、細目について討議を実施する。
・米国軍隊の駐留する地域=日本は米国軍隊に供与する地域ならびに施設は太平洋の安全ならびに日本防衛のために必要な限度にとどめることを原則とするが、米国軍隊が必要とする防衛上の措置に即応するため、日米合同委員会は協議の上、具体的にその範囲の画定ならびに施設を決める。
・日本の協力義務=日本は日本に駐留する米国軍隊の防衛措置に協力するため暫定的安全保障協定の内容と関連する一切の立法を制定する。
・裁判管轄権=米国は次の犯罪に対し裁判管轄権を有する。(1)米国軍隊の駐留する地域内で行われた一切の犯罪。但し加害者、被害者とも日本人である場合および日本の安全に対する犯罪で日本人によって行われたものを除く。(2)地域外における犯罪。加害者、被害者ともに米国軍人である場合および米国の安全に対する犯罪で米国軍人によって行われた場合。加害者、被害者のいずれか一方が米軍人である場合。犯罪が軍務執行中であることが証明された場合。
・逮捕権=米国が米国軍隊の駐留する地域内では逮捕権を自由に行使し得るが、地域外では日本の便宜を相互的条件のもとに請求することができる。
・民事、刑事裁判手続=米国は地域内では自由にこれを行使できるが、地域外では日本の便宜を相互的条件のもとに請求することができる。
・便宜供与=日本は日本に駐留する米国軍隊に対し、軍事的に必要な地域およびこれに付属する施設を無償で貸与する。ただし駐留地域外の土地、建物などの使用については原則として有償とするが、細目は日米合同委員会で決める。
・協定の有効期間=この協定は米国の日本国に対する通告によって廃棄される。廃棄にあたっては1カ年前に通告される。
・効力発生=この協定は対日講和条約の効力発生と同一時期に発効する。

これらが交渉の結果どうなったかは後に検証しよう。裁判管轄権などは、現在も沖縄を中心に日米地位協定の改定を求める動きがある問題である。それにしても、この案は日本側に協定廃棄の権利がない。この一点だけをみても、今日の視点からすれば、相当に不平等な内容である。

歴史を先取りしていえば、だからこそ、60年の安保改定がなされた。

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