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石炭ガス化発電、福島の復興に活用

東大特任教授の金子氏に聞く

編集委員 滝 順一

石炭をガス化してきれいに燃やす最新鋭の発電技術、石炭ガス化複合発電(IGCC)。東京大学生産技術研究所の金子祥三特任教授は福島県などの沿岸部(浜通り)に4カ所、総出力500万キロワットのIGCCを建設する「浜通りクリーンコールハイウエー構想」を提唱する。「脱原発」を宣言した福島県に新たな雇用の場を創出するとともに日本全体のエネルギー安全保障にもつながると主張する。

金子祥三・東京大学生産技術研究所特任教授

――IGCCは石炭を高温でガス化、そのガスを燃やして発電すると同時に排熱も回収し発電する複合発電システムですね。これを浜通りに建てる構想の狙いは。

「3点ある。まず日本はいま天然ガス輸入の拡大を急いでいるが、目の色を変えてお願いする限り、所詮は輸出国と対等の交渉にはならない。米国からシェールガスを買うとか原油連動の値決めを見直すとか、いろいろと努力は必要だが、最後は売り手と買い手の関係で決まる。天然ガスしかないと足元を見られたら不利なことは明らか。石炭というオプションを持つことが必要だ」

「石炭火力は二酸化炭素(CO2)排出が多いのが課題だが、IGCCは既存の石炭火力より15~20%排出を少なくでき石油火力並みに抑えられる。地球環境を考えればIGCCが望ましい。ただ新しい技術なので導入に踏み切るのは決断だ。不幸にして福島原発事故を経験した日本にとって、今は『これまで通りでいいじゃないか』という発想を断ち切って、挑戦するよい機会だ。災い転じて福となす発想で臨みたい」

「3番目は浜通りにインフラがあることだ。原発の電気を運んでいた500万キロワットの送電線があいている。また浜通りにはすでに常磐共同火力勿来発電所(福島県いわき市)、東京電力広野火力(福島県広野町)、東北電力原町火力(福島県原町)、相馬共同火力新地発電所(福島県新地町)の4つの石炭火力があり、石炭の荷揚げ施設や貯炭場を備えている。出力50万キロワットのIGCCを2基組み合わせた100万キロワットの発電所を勿来、広野、原町にひとつずつ、相馬には2つ建設できる。ほかにつくるより適している」

――50万キロワット級のIGCCは世界でもまだ例がありませんね。

「現在、25万キロワットのIGCCの実証機が常磐共同火力勿来発電所の敷地内にあり、4年間の実証試験を終えて、4月から商業運転に入る。米国では30万キロワット級が稼働しており50万キロワットは世界トップになる。IGCCの中核であるガス化炉(圧力容器)の直径は25万キロワットで5.3メートル。出力が2倍になっても6.3メートルで、基本構造は大きく変わらない。技術的にはすぐにでもできる」

 ――福島の復興支援にも貢献しますか。

「避難中の住民がふるさとに戻るには、除染だけではだめで、雇用を生み出す必要がある。建設のピーク時には約4千人の雇用が見込め、完成後も定期検査などで継続的に雇用が生み出せる。雇用効果は原発より大きいかもしれない。また世界トップの技術を世界に発信する場所になる。勿来の実証機には世界中から見学者が今も訪れている。日本の技術の粋を集めたIGCCは石炭をたくさん使う国向けに提供できる新たな輸出商品になるはずだ。浜通りを最新鋭技術のいわばショーウィンドーにできる」

――東京電力は火力の競争入札で新たな電源確保を目指しており、今はIGCC建設の好機と言えますが、値段だけの判断をすれば従来型の石炭火力が有利です。

「IGCCは既存の新鋭石炭火力(超々臨界圧石炭火力=USC)に比べて建設費は2割程度高い。しかしいったん発電を始めればコストは同等で、競争力がある。100万キロワットのIGCCの建設費は約2000億円。その2割の400億円を支援してもらえればいい。発電原価に換算すれば1キロワット時あたり2円を2年間だけ助けてもらえばいい計算だ。太陽光発電のために20年間にわたって1キロワット時あたり42円で買い取っているのに比べたら決して高くない。福島の復興策のひとつとして政府に検討してもらいたい」

――燃料の石炭も米国から安価に輸入できる道があるそうですね。

「米国西部のワイオミング州にパウダーリバー盆地という地域がある。これまで米東部の石炭火力向けに出荷してきたが、このところの米国の石炭離れ、天然ガス人気の中で需要が減り新たな買い手を求めている。燃えやすいいい石炭だが、灰分の融点が低く、従来の石炭火力では溶けた灰がボイラー内部にくっつくのがやっかいだった。燃焼温度が高いIGCCでは灰はさらさらの液体状になるので問題ない。勿来の実証機でもパウダーリバーの石炭を燃やした経験があり実証済みだ」

「継続的に日本へ輸出するメドがたてば、太平洋岸のバンクーバーやポートランドなどの港湾施設の自動化などにも投資が進み、価格が下がると期待できる。米国の石炭産業にとっては中国も含めてアジアへの道を開くことにもなる」

――IGCCは日本がリードする技術ですが、韓国の追い上げにも用心する必要があると聞きました。

「韓国電力が忠清南道泰安に30万キロワット級のIGCC実証機を建設中で今年11月にも完成すると聞いている。シェルのガス化技術のライセンスを受け斗山重工業が建設、政府が建設費の30%を補助している。まだ実証機の段階であり、日本は運転経験などで4年分のリードがあるともいえるが、もたついていたらいけない」

 「液化天然ガス(LNG)輸送船での経験を振り返れば決して油断できない。LNG船はかつて日本の独壇場であり、球形タンクを3つ持つMOSS型船(容量15万立方メートル)の建造に安住していたところに、メンブレン型(同26万立方メートル)という2倍の量を運べる新型船で韓国が参入し瞬く間に市場を奪った」

「新技術は実績がないのでなかなか売れないが、韓国は大統領が先頭に立って国ぐるみで最大のLNG輸出国であるカタールを説得して受注に成功、日本の優位をひっくり返した」

――IGCCは輸出商品になりますか。

「IGCCも新しい技術だから、最初は海外も導入には慎重だろう。だからこそ浜通りに実用機をつくり運転してみせることが大切だ。ガス化炉は比較的コンパクトなので国内で製造して持っていける。既存の石炭火力のボイラーなどは重工メーカーが現地生産する方向で、IGCCの方が国内での雇用創出など寄与が大きい。それに既存の石炭火力(USC)は遠からず中国が参入してくるに違いない」

「東京湾岸に天然ガス火力が多数建設されているが、仮に天然ガスの供給が細ったら使えなくなる。もし石炭ガス化炉を手中に収めてさえいれば、ガス化炉を設置して天然ガス火力の設備をIGCCに切り替えて使える。天然ガスと石炭の互換性が生まれる。さらに排熱を利用する固体酸化物型燃料電池(SOFC)を併設すると、ガスタービン、蒸気タービンに加えて燃料電池でも電気を生み出すトリプル発電が実現する。ガス化炉を日本のお家芸にすべきだろう」

 ■取材を終えて
 石炭火力はCO2排出が天然ガス火力に比べて多いため地球温暖化対策を考える上で新設は望ましくないと考えられてきた。しかし福島第1原発事故後の電力不足の状況下で天然ガス火力だけに過度に依存するわけにはいかず、石炭火力の新設を認めようとする動きが出ている。東京電力が示した入札条件は発電コストが1キロワット時当たり9.53円で、天然ガス(約11円)よりかなり低く、事実上、石炭火力の新設を求める内容になっている。
 電気料金の引き上げ幅を圧縮するためコスト重視の姿勢は理解できるが、長い目で見れば環境性能重視の視点も欠かせない。1キロワット時当たりのCO2排出量は普通の石炭火力だと900グラム、新鋭のUSCで820グラムなのに対し、IGCCは700グラム台だ。500グラム台の天然ガス火力に比べ見劣りするが、石炭を使うのが避けられないならIGCCを考慮すべきだろう。新たな輸出商品にもなりうるのなら国ぐるみの支援も選択肢だろう。
 なお金子教授はもとは三菱重工業でIGCCの研究開発に取り組んだ技術者で勿来の実証機の実現で中心的な役割を果たした。

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