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地道なソーシャル活用で飛躍 アプリ「LINE」のプロモ戦略

ブロガー 藤代 裕之

サービス公開から10カ月で世界3000万、国内1300万ユーザーを突破した、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)向けの無料アプリケーション「LINE(ライン)」。スマホのユーザー同士なら無料で通話やメールができるようになる人気アプリだ。

提供するのは、検索サービス「NAVER」やポータルサイト「livedoor」を展開するNHNジャパンである。短期間で多くのユーザーを獲得できた背景には、ソーシャルメディアを活用した地道ともいえるプロモーションがあった。人気タレントの登場やキャンペーン攻勢など、外部からは華やかに見えるプロモ戦略の内側に迫った。

先着10万人を対象にしたキャンペーンに2万人しか集まらず

NHNジャパンのプロモーション担当、矢嶋聡氏(左)と金子智美氏

LINEの成長スピードは驚異的だ。1000万ユーザーの獲得までにミニブログの「ツイッター」は26カ月、SNS(交流サイト)の「フェイスブック」は28カ月かかっている。それがLINEは6カ月で達成した。

急進するスマホ市場に合わせたタイミングだけでなく、人気タレント「ベッキー」のテレビCM、キャラクターぬいぐるみプレゼントのキャンペーン、スヌーピーやガチャピン&ムックなどのキャラクターを展開したスタンプ機能などでも注目を集めている。だが、スタート時のプロモーションは試行錯誤の連続だったという。

「スピードを重視して公開したので、無料通話もスタンプ機能は、開発はしていましたが公開時はない状態。どうやって広げるのか結構、苦労した記憶がある」。LINEのマーケティングを担当している矢嶋聡氏は打ち明ける。

NHN内では2011年初から新たなサービス開発の検討を行ってきた。海外のアプリ動向から、ゲームやカメラ、コミュニケーションに人気があると分析していた。そこに東日本大震災が起こり、身近な人とのクローズドなコミュニケーションが重視される風潮になった。同社もこの部分に注目し、4月末から開発を始めた。さらにスマホ市場の急激な伸びを見てトップ判断でスピードを重視。11年6月にグループチャットのサービスとしてスタートした。

「使ってもらえれば魅力は分かってくれる」と、認知度の向上にプロモーションチームは知恵を絞った。プレスリリースやメディア取材のほか、学生のイベントにも協賛してクラブでのイベントで学生が作ったCMを流したりした。社内の部署ごとの対抗で、社員がLINEにユーザーを招待する紹介キャンペーンを行うといった取り組みもあった。

たとえば7月13日には、先着10万人を対象にLINEを利用してアンケートに回答したユーザーにアマゾンのサイトで使える500円券をプレゼントする、というキャンペーンを実施した。一気にユーザーを拡大する作戦だったが、2万人ぐらいしか集まらず散々な結果だった。

このような状況のなか、並行して活用したのが「広告」だった。スマホのアプリ内で表示する広告はもちろん、携帯電話ショップ店頭でのダウンロード推奨やメールマガジンでも宣伝した。矢嶋氏は「スマートフォンのように急激に伸びている市場では、時間をお金で買うことも大切になる。初期の広告によってユーザーの基盤をつくることができた」と振り返る。

ユーザーの反応が薄くとも、常に発信し続ける

ユーザーとのコミュニケーションを担当する同社の金子智美さんは、ソーシャルメディアのユーザーに「かねとも」として知られる。「使ってもらえれば、"ハマル"のは分かっていたが、友達にオススメするのが難しい。特にメールとどう違うのという反応が多かった」と印象を持った。

「LINE」のブログで常に情報発信

金子さんは、LINEやNAVERの公式ブログを利用し、キャンペーン開始と同じ7月13日にキャリアが提供するSMS(ショート・メッセージ・サービス)開始のタイミングに合わせて、LINEとの違いを表にして説明した。19日には、フリーペーパーに紹介された開発者のインタビューを利用して「誕生の裏側」を紹介する。

さらにブログと合わせて1万8000人のフォロワーがいるツイッター(@naver_jp)や、リアルのイベントも活用。NAVERの2周年パーティでLINEを使ったゲームを実施して、ユーザーにサービスを使ってもらう機会を用意した。

「本当に流行るのか」という懐疑論も社内の一部にあったなかで、広告やプレスリリース、ソーシャルメディアとイベントを組み合わせたプロモーションが行われた。その後、8月に中東やアジアでダウンロードが急増しはじめたことで、懐疑論が確信に変わり、テレビCMの実施へとつながっていく。

ユーザーからの反応が薄く、試行錯誤な時期でも「発信し続けるというのが大事」と金子さんは言う。LINEに関するプレスリリースは6月末の開始から、1000万ダウンロードを達成する12月末まで15本、ブログは19本を公開した。

ソーシャルメディア上の悪い評価も全社で共有する

プロモーションは公開時に注目されるが、むしろ公開後のほうが大切だという。NHNではユーザーの反応を見ながら、「PDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション)」を回す。企画や戦略、開発、デザイン、カスタマー対応などの担当がチームとなって、ユーザーに利用されるように改善し、新たなキャンペーンを検討していった。このときに参考になったのがソーシャルメディア上の反応だったという。

金子さんは、ツイッターやフェイスブック、ソーシャルブックマークを日々チェック。コメントしている人やキーワードを集約しレポートしていった。これらは「人力」で行う。「毎日、レポートしていて、企画する側も他の部署も、それが当たり前になっている」と金子さん。開発者は「開発」だけ、プロモーション担当は「プロモーション」だけと動きが別々になるのではなく、金子さんが作成したソーシャルメディアのレポートは開発担当にも共有され、参考にされた。

11年12月に無料通話機能を出した際には、開発チームから通話品質に関して反応を知りたいという依頼があった。良い評価のほかに、「タイムラグがある」なども悪い評価もあった。こうしたコメントをレポートして社内で共有していった。

ユーザーに「顔」が見える存在としてアピール

積極的にソーシャルメディアを利用しようとするのは、同社のこれまでの経緯に背景がある。NAVERは韓国では最大の検索ポータルだが、日本市場からは05年に一度撤退している。その後、再び日本市場に参入し、09年に日本で検索サービスを開始、10年にライブドアを買収して存在感を増していく。

検索事業では、日本で大きなシェアを占めるグーグルやヤフーと差異化するにあたり、「ソーシャル」をキーワードにした。さらに理系のエンジニアで博士のような「グーグル」、大企業で顔が見えないサービス「Yahoo!JAPAN」というようにライバル各社にイメージを設定した一方で、NAVERには「顔が見えて親しみがある」と設定して、差異化を図ろうとした。こうした点から、「ソーシャルメディアを使ってユーザーと一緒にサービスを成長させていく」という基本路線が出来上がった。

金子さんは広報としてNAVERの「顔」となる役割を担った。ツイッターでユーザーの声をひろい、ブログでNAVERに関する書き込みがあればコメント欄にメッセージを書き込む、という作業を地道に続けていった。さらにオフ会などのイベントで顔が見える関係をユーザーと築いていった。これらの方針は会社として徹底され、今でも企業ホームページのトップには社員の顔が使われている。ソーシャルメディアによるプロモーションでは、「ユーザーとのつながり」「エンゲージメント」といったさまざまな表現を使う例は多いが、NHNのように実際にここまで徹底している企業はあまりない。

ソーシャルメディアによるコミュニケーションによって、次第にユーザーを見る目が磨かれていった。金子さんは「ユーザーさんがどういう人達なのかをちゃんと見て知るようにしている。LINEを使ってくださるお客さんのツイッタークライアントは何か、どんな書き込みをするのか、傾向を確認している。同じようにスマートフォンを使っていても、アプリの数も違えばリテラシーも違う。そうなると案内する言葉も変わってくる」と言う。

失敗もあった。「ツイッターでコミュニケーションを取り始めたころ、若い女の子だと思ったら、本当はおじさんで怒られたといった勘違いがたくさんあり鍛えられた。アニメアイコンを使うのはだいたいおじさん」と笑う。

躍進の裏側には、長く地道に続けてきたユーザーとのコミュニケーションと試行錯誤、そしてそれを貫く会社の方針がある。LINEの事例は、ソーシャルメディアによるプロモーションの効果に悩む多くの企業に参考になるに違いない。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。学習院大学非常勤講師。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。

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