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ネットのネガティブ評判、企業はどう対処すべきか

ブロガー 藤代 裕之

ソーシャルメディア上にネガティブな評判が急速に広がった時にどう対応すればよいか。企業にとって重大なこの問題への対処法を知るために、7月に行われた参議院選挙でのソーシャルメディアの使われ方や影響を検証することは意味がある。

ヤフーが読み切れなかった東京選挙区の当落

選挙は、めまぐるしく状況が変わる短期決戦のためマーケティングやプロモーションの実験場ともいわれる。ホットリンク(東京都千代田区)の協力を得て、同社の企業向けソーシャルメディア分析ツール「クチコミ@係長」を利用して、東京選挙区を検証した。公示日の7月4日から投開票日前日の7月20日まで、同選挙区に出馬して初当選した俳優の山本太郎氏と現職で落選した鈴木寛氏に関する書き込みや報道ぶりを改めて分析すると、当事者がどう向き合うべきなのか参考になることが多くあった。何をすべきで、何をしてはいけないのか。

山本氏はテレビ露出はほとんどなかったものの、ツイッターの書き込みや検索数は選挙戦の後半から急激に伸びている。マスメディアの力に頼らず、短期間でこれだけ伸ばしたのはきわめて異例だ。

ヤフーは検索サービスのビッグデータを基に参院選の獲得議席を予測し、9割を的中させたが、外れのひとつが東京だった。ヤフーによると、山本氏は投開票日の4日前から検索数が急増し、全国の各政党名の検索数を超えるほど検索が集中したという。

山本氏に関連するツイッターの書き込みを分析すると、「魂の熱い声は本当に心に響く」「泣きました」「本気」といった共感を得ている書き込みが多い。山本氏陣営は演説時、聴衆に拡散を依頼したり、積極的に有権者と写真撮影したり、口コミを広げるため工夫していた。街頭演説というリアルイベントをてこにして、有権者の共感を呼び起こし、ポジティブな口コミをソーシャルメディアで加速度的に広げた。20万のフォロワーを生かし切ったと言えそうだ。

20万フォロワー 山本氏、ソーシャルの勢い

ホットリンクの内山幸樹社長は「選挙はマスメディアの影響力が大きいが、口コミにもほんのわずかの成功事例がある」と指摘する。その実例の一人が山本氏だ。

一方、鈴木氏は、ツイッターの書き込みも検索も低調が続いた。街頭演説の際の事件が報じられたときに増えたものの、その後すぐに減少している。投稿サイトのハフィントンポストは7月11日にネット選挙について記事をまとめている。記事の冒頭で鈴木氏を民主党きってのIT通として取り上げ、「ソーシャルで影響力を持つ人たちの応援ツイートも多い」と紹介している。ただ、実際のソーシャルメディアの口コミを見る限り、影響力は乏しかった。

炎上対応を誤った鈴木氏陣営

むしろ、ソーシャルメディアを生かし切れず、当選が遠のいた。鈴木氏の評判が悪化し始めたのは、東日本大震災時に放射性物質の拡散を予測するシステム「SPEEDI」のデータ隠しに関与したという指摘がネット上で広がったのがきっかけだ。鈴木氏は7月16日にホームページに緊急メッセージを掲載し、デマ拡散の防止を呼びかけたが、今回のデータ分析によるとむしろ逆効果で、17日辺りから、「謝っていない」「がっかり」「態度が良くない」という意見が増えている。

不確実な情報が急速に拡大するのはソーシャルメディアの特徴で、ネガティブ情報を打ち消したいと考えるのは政治家も企業も変わらないだろう。炎上事案に対して、どう対処すべきか、状況によって変わるので正解はない。ただ、鈴木氏側の判断が正しかったのかは疑問が残る。

ツイッターのフォロワーは山本氏の20万に対して鈴木氏は6000と桁違いだ。真っ向勝負を挑めば、山本氏の情報発進力の方が上回る。鈴木氏は山本氏が選挙の争点とした原発問題に踏み込まず、スルーして、別のアジェンダで支持拡大を狙うべきだったのかもしれない。

ネガティブキャンペーンに対応しない選択肢

その判断のタイミングは街頭演説中に顔を殴られたことが一般に伝わり、注目を集めた15日だった。しかし、その直後の16日に緊急メッセージを出し、原発問題という山本氏の土俵で戦うことを選んでしまった。ソーシャルメディア上の口コミを分析していれば、別の選択肢を選ぶことも可能だったはずだ。各種ツールが発達した今、リアルタイムに近い状況で口コミの推移や評判を知ることはできる。

一方で、山本氏は鈴木氏陣営を攻撃しながら、ネガティブな印象を与えるニュース記事などを「原発反対派候補への圧力」と位置付け、支持を呼びかけた。このような手法を冷ややかに見る人も多かったが、原発問題に興味を持つ層が一定数いることはわかっており、その層に響いた可能性が高い。山本氏が獲得した票は66万6684票で、東京選挙区の当日有権者数(1077万7333人)の6%を獲得したに過ぎない。ただ、参院選はそれだけの得票で当選できる選挙なのである。

訴求したいマーケットやユーザーに専念せよ

両候補の戦いはソーシャルメディアで口コミを広げたい企業や団体にとってさまざまな教訓を残している。マーケットの数パーセントを狙う場合は、山本氏陣営の戦いは大いに参考になる。リアルイベントの共感と、ソーシャルメディアで影響力を持つ人の協力を得る事でマスメディアに頼らず、口コミを広げ、行動に結びつける事ができる。

ソーシャルメディア上でネガティブキャンペーンを仕掛けられた場合は、ソーシャルメディア上の発信者の影響力を見極めること、ソーシャルリスニングで反応を把握しておくこと、が必須になる。状況によってはネガティブキャンペーンに対応することが相手を勢いづかせることにつながってしまうこともある。これらを防ぐためには、自らが訴求したいマーケットやユーザーを把握し、その反応を見ておくことが重要になる。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。

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