2019年7月23日(火)

車載用リチウムイオン2次電池で今、何が起こっているのか

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2010/5/24 9:00
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正極材料でコバルト酸リチウムを用いない理由は、熱安定性に劣るためだ。具体的には、過充電になった場合に、正極材料からLiイオンが抜ける際の発熱によって酸素を放出してしまう恐れがある。また、内部短絡などが起こって異常に高温になった場合にも、酸素を生じてしまう。こうした酸素と有機電解液とが反応すると、燃えてしまう恐れがある。

これに比べて、三元系とマンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムは熱安定性に優れる。熱安定性の高さは「三元系<マンガン酸リチウム<リン酸鉄リチウム」となる。特に、リン酸鉄リチウムは熱安全性が高いといわれている。その理由はこうだ。リン酸鉄リチウムは、オリビン系と呼ぶ結晶構造を備える。オリビン系材料ではリン(P)と酸素(O)が強固に結び付いているので、高温になっても酸素が放出されにくい。ただ、オリビン系材料は電気伝導性が低いことから、数年前までは電池としての利用は疑問視されてきた。

ところが、米Massachusetts Institute of Technology(MIT)やA123 Systems社などがリン酸鉄リチウムの粒径を小さくし、さらにカーボンで被覆するといった技術を開発し、これによって高出力用途に利用可能なLiイオン2次電池の正極材料として実用化の道が開けた。こうした熱安全性に優れる点や、リンや鉄といった材料がコバルトなどに比べて安価なことから、中国の車載用電池メーカーがこぞって採用に乗り出している。日本でも住友大阪セメントがリン酸鉄リチウムの量産を開始している。同社は、定置向け大型Liイオン2次電池の生産を2010年4月に開始したエリーパワーに材料を供給中である。

ただし、リン酸鉄リチウムにも悩みがある。Liに対する電位が3.4V程度と、他の材料と比べると低いのだ。そのため、セルにした際のエネルギー密度は、三元系やマンガン酸リチウムに比べて低くなってしまう。

そこで、リン酸鉄リチウムと同じオリビン系材料で、Liに対する電位を4.2V程度まで高められる材料として、リン酸マンガン・リチウム(LiMnPO4)の開発に注目が集まっている。最近では、リン酸鉄リチウムを量産中の住友大阪セメントが、放電電位4.1Vで比容量162mAh/g以上の特性を備えるリン酸マンガン・リチウムを開発したと2010年3月に発表している。

図5 東芝が開発中のLTOを用いたセル(日経エレクトロニクス2009年5月4日号の特集「ちょこっと充電」より)

図5 東芝が開発中のLTOを用いたセル(日経エレクトロニクス2009年5月4日号の特集「ちょこっと充電」より)

一方、負極材料では現在のところ、黒鉛が主流である(一部のハイブリッド車では非晶質系の炭素材料を用いている)。ただ、東芝や米ENERDEL社などが、セル電圧が低くなってしまうものの、安全性や低温特性に優れるチタン酸リチウム(LTO)を用いたLiイオン2次電池を手掛けている(図5)。このうち、東芝は2010年5月11日に開催した「2010年度経営方針説明会」において、電気自動車向けに同材料を用いたセルの供給が内定したと明らかにした。負極材料についても多様化が始まりつつある。

次世代の負極材料として現在、開発機運が高まっているのが、シリコン(Si)系材料である。Siは、黒鉛に比べて10倍以上の理論容量があるためだ。ただし、充放電の際に起こるLiイオンの脱・挿入で体積変化が400%も生じることから、充放電を繰り返すと負極の微細な構造を破壊してしまいやすく、車載用として必要なサイクル寿命を確保できないという課題がある。

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