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内なる力、結集を

米戦略国際問題研究所上級顧問・日本部長 マイケル・グリーン氏

2011年3月11日に発生した(東日本大震災、津波、そして福島第1原子力発電所事故の)3重の災害は米国も揺さぶった。戦略的には、オバマ米政権は日本のアジアでの勢力と影響力が低下し、中国がそのすき間を埋めようとするのではないかと深く懸念した。人道レベルでは、外国青年招致事業(JETプログラム)や観光客、軍のサービスなどで日本に滞在していた何十万人もの米国人が支援の手を差し伸べ、義援金の総額は地震発生後1カ月以内で2億5千万ドルに上った。

米戦略国際問題研究所(CSIS)は経団連と共同で、東日本大震災の復興支援プロジェクト「復興と未来のための日米パートナーシップ」(委員長:米ボーイングのジム・マクナーニー最高経営責任者)を設立。日本の再生と、日米の連携の一段の強化に向けた最善策の立案を支援するため、災害救助や保健衛生、原子力技術、市民社会に関する米国の専門家が集まった。米軍と自衛隊は「トモダチ作戦」を通じ、日米同盟史上最大の共同作戦に着手。東北地方の被災者の苦悩を和らげ、近隣国に日米の緊密な同盟関係を印象づけた。

今回の経験によって日米同盟は強化された。米民間調査団ピュー・リサーチ・センターの最近の世論調査によると、85%の日本人が米国に対し好意的な感情を抱いているという。今後の課題は日本自身がさらに強く再生できるかどうかだ。3月11日の大震災により、日本の実力の一部が明らかになった。第1にソフト・パワー。赤十字社を通じ日本に過去最高額の義援金を送った韓国をはじめ、102カ国を超える国々が援助の手を差し伸べた。第2に、技術力。皮肉にも、日本製の重要部品の納入が遅れ、世界のサプライチェーン(供給網)が寸断されたことで証明された。韓国のある主要財閥のトップは、代替調達できないこうした重要部品の生産に乗り出し、突発的な事故が起きた場合などに対処しようと考えたが、日本と競争するのはあまりにも大変なために断念した、と私に打ち明けた。第3に、日本の若者の力。30万人が東北地方の復旧を手伝うボランティア活動に参加するまでは、理解されていなかった(こうした若者は結局、気力に欠ける「草食系」ではないことが判明した)。第3は、自衛隊の高い能力。この100日間にわたり東北地方での危険で迅速な復旧活動を担ったことで、世界に示された。

一方、日本が直面している試練も大きい。日本の政府債務残高の国内総生産(GDP)比が高いため、海外格付け機関は日本政府のさらなる借り入れにより、インフレやほかの問題が生じる恐れがあると警鐘を鳴らしている。フクシマでの課題を考慮すると、エネルギー戦略の見直しも迫られるだろう。中でも、政治は「ねじれ」状態から抜け出せず、指導力への信頼も失われている。

私が望む復興シナリオは、日本の政治が恒久的な膠着(こうちゃく)状態に陥らずに済むことだ。つまり、今回の危機をきっかけに、明確なビジョンを示し、総選挙で国民に信を問うことで自らの政治生命を賭すことを厭わない、勇敢なリーダーが現れることだ。(小泉純一郎元首相以来、誰も選挙で国民の信任を得ていない。2009年の総選挙でさえ、次に何をするのかではなく、自民党を政権の座から追い出すための信任投票でしかなかった。)この明るいシナリオでは、政治家は真の成長戦略を打ち出す。職場での女性の地位を向上させ(複数のエコノミストによれば、これにより日本のGDPは年0.05%増加する)、輸出増加や日本経済の競争力向上につながる貿易協定の交渉権限を政府高官に与える。一方、東北地方は日本の製造業を維持するだけでなく(さもなければ将来の地震のリスクを避けるため、海外シフトが始まるかもしれない)、税の優遇措置や新たな情報技術(IT)インフラへの投資を通じ、海外直接投資を呼び込める。3.11後の新ビジョンでは、自衛隊は国際平和に貢献し、米国やオーストラリア、インドなどと協力して日本の海洋権益を守るという、これまでよりも大きな役割を担う。日本が福島第1原発(事故)を独自に検証することで、国内での原子力発電への信頼を回復するだけでなく、民間の原子力企業の透明性と説明責任について新たな国際基準を提唱するきっかけになる可能性がある。

このシナリオは果たして実現するのだろうか。実現する可能性はあるが、外圧を通じてではなく、日本の中から実現に向けた動きが生じなくてはならない。いずれにしろ、米国民は日本との緊密な連携を求めている。日本人の3.11への対応がどれほど感動的だったかを目の当たりにした後では、これは米国の国民的感情だ。戦略的には、日本にはさらに強く再生してもらわなくてはならない。世界もそう求めている。

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