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進化する電子ペーパー、色表現が豊かに

電子機器の姿を変える表示技術(1)

 紙やフィルムのように柔らかいディスプレイ、人の心を揺さぶるディスプレイ、表示だけでなく操作や入力も可能なディスプレイ――。今、電子機器の概念を変えるような新しいディスプレイ技術が続々と登場している。本連載では全3回で、世界が注目する最先端のディスプレイ技術について解説していく。第1回の今回は、大幅に進化している電子ペーパーを採り上げる。

新しいディスプレイ技術によって、電子機器の顔ともいえる見た目の印象や、大きさ、厚さなどがことごとく変わり、新しい応用市場が生まれる――。このような期待を抱かせるディスプレイ技術が、米国ロサンゼルスで2011年5月15~20日に開催された、ディスプレイ関連で世界最大の国際会議「SID 2011」[注1]において相次いで披露された(図1)。

従来の機器を見ると、テレビも携帯電話機もパソコンも、大きさは違えど製品によらずおおむね似通った姿形をしている。この要因の一つは、ディスプレイにある。

現在のディスプレイは硬くて四角い。このため、機器の表示部は、板のような形にする必要があった。ところが、SID 2011で発表された、紙やフィルムのように柔軟性があるディスプレイは、こうした状況を一変させる可能性が高い。「表示部は硬くて四角い」という制約がなくなることで、機器の形状の自由度が飛躍的に高まるからだ。

SID 2011では、表示の付加価値を高めたり、表示と入力を組み合わせたりすることで、機器の顔や形を変えようとする取り組みにも注目が集まった。前者は、3次元(3D)映像や高コントラスト比の有機EL技術によって映像の奥行き感まで表現し、映像を見た人の心を揺さぶるような機器を実現しようとするアプローチである。後者では、タッチ・パネルの薄型化や多機能化の発表が相次いだ。

以降では、SID 2011でディスプレイ関連技術者の視線を集めた、そして電子機器の将来に大きな影響を与えそうな技術を紹介していく。

「きれいな」カラー電子ペーパー

柔らかくて曲げられるフレキシブル・ディスプレイの開発では、今回、ソニーが発表した二つの電子ペーパーの話題で持ちきりだった。

一つは、曲がるカラー電子ペーパーである[国際会議での講演番号:16.3]。プラスチック基板を使って、厚さ150μm、重さ20gの薄型・軽量を実現した。米E Ink社製の電気泳動方式の前面板を使用し、表示を行う。

これまでのカラー電子ペーパーは、なんとか色は出せるものの「暗く、くすんでいる」という印象だった。しかし、今回のソニーの開発品は、こうした印象を払拭(ふっしょく)するような画質の高さを備える。色再現範囲はNTSC比13%(NTSC方式のテレビ放送で送れる色の範囲の13%をカバー)、反射率は10%、コントラスト比は10対1を超える(図2)。ソニーが発表後のオーサーズ・インタビューで試作品を披露したところ、その画質を高く評価する声が多くの来場者から出ていた。

このような画質を実現できたのは、「TFT(薄膜トランジスタ)基板とカラー・フィルタを、高精度で重ね合わせられるようになったことが貢献している」(ソニー)という。

TFT基板とカラー・フィルタの重ね合わせの誤差は5μm以下。高精度の重ね合わせによって、一つの画素(ピクセル)を構成するサブピクセル同士の距離、つまり重ね合わせの誤差を吸収するためのマージンを縮小できた。その結果、画素ピッチに対して画素自身の面積を大きくでき(開口率を高められた)、色再現範囲や反射率を確保できたとする。

開口率を高める上で、ソニーは今回、プラスチック基板上に単純にTFTを形成するのではなく、ガラス基板を支持用の基材として使用した。製造時の基板のハンドリングを容易にして、基板の位置ズレを抑えるためである。支持用のガラス基板上に接着剤を塗布してプラスチック基板を貼り付け、その上にアモルファスシリコン(Si)TFTを180℃以下の低温プロセスで形成した後、このプラスチック基板をガラスの基材からはがすという作製手順になる。

折れ曲がる動作に歓声

もう一つ、来場者の熱い視線を集めたフレキシブル電子ペーパーの発表も、ソニーによるものだ[同22.4]。曲率半径5mmまで曲げられるのが最大の特徴である。

同社は前述のカラー電子ペーパーと同様に、発表後のオーサーズ・インタビューで試作品を披露した。折れ曲がる動作を見た来場者からは、悲鳴にも似た驚きの歓声が上がった(図3)。

このような動作を可能にするために、ソニーは2010年のSIDで発表した"巻き取り可能な有機ELパネル"と同様に、駆動素子として有機TFTを採用した[注2]。有機TFTの半導体層も同じく「PXX(peri-Xanthenoxanthene、ペリキサンテノキサンテン)誘導体」を用いた。半導体層とすべての絶縁層は、溶液によるスピン・コーティング法で製造している。最高プロセス温度は150℃と低いため、有機TFTをフレキシブル基板上に直接形成できる。

試作したフレキシブル電子ペーパーは白黒表示で、E Ink社製の電気泳動方式の前面板を使用した。画面サイズは13.3型、画素数は1600×1200、画素寸法は169μm×169μm、精細度は150ppiである。開口率は94%、コントラスト比は10対1、階調数は16。電子ペーパー全体の厚さは120μmである。 (次回は7月29日に掲載)

[注1] 正式名称は「49th SID International Symposium, Seminar & Exhibition」である。
[注2] 『日経エレクトロニクス』の2010年6月28日号のpp.61-69にある記事「FPDの前途に漂う暗雲を新技術で振り払え」を参照。

(Tech-On! 田中直樹)

[日経エレクトロニクス2011年6月13日号の記事を基に再構成]

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