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シニア起業家「異種格闘」 再創業に注ぐ成功の教訓

かつて創業した企業を業界大手にまで育て、一線を退いた実業家がシニアになって再び起業魂を燃やしている。背景にあるのは前職で達成できなかった思い、時代の変化への高揚感などさまざま。ただ「第二の創業」には、果たせなかったことへのこだわりや社会貢献意識といった、実は事業に必要な基本要素が見てとれる。4人の挑戦から、事業のヒントを読み解く。

ゲーム会社→介護老人施設

原動力は社会貢献

千葉市の郊外に立つ分譲マンション、スマートコミュニティ稲毛。「アクティブシニアタウン」を掲げ、50歳以上で介護を必要としないことが入居条件という異色の施設だ。日本料理店が監修した懐石料理を出し、ダンスホールやテニスコートなど娯楽施設も充実。約1500万円からの初期投資は要るが、毎月の食費・サービス料は8万9千円に抑えた。

10年に開業し、入居者数は約200人。最大1千人のコミュニティーを目指す。「共同購入でコストを下げ年金の半分で暮らせるようにする。老後リスクを減らせば金融資産が消費にも回る」と、運営するスマートコミュニティ(千葉市)の宮本雅史会長(55)は力を込める。

宮本会長はゲーム大手、スクウェア(現スクウェア・エニックス)の創業者で、人気ゲーム「ファイナルファンタジー」を世に送った。30代半ばで経営から身をひき投資家に転身。「最後は社会に役立つ事業に」と思い定めたのがシニアタウンだった。

住民たちは陶芸やゴルフなど約20のサークルを立ち上げ日々を楽しむ。「1社だけでは高齢人口をカバーできない。成功事例となって参入を促し、10年後には当たり前のビジネスにしたい」(宮本会長)と意気込む。

名をなした経営者たちが「第二の創業」に挑戦している。前に育て上げた企業の株式公開で得た潤沢な資金や厚い人脈など、通常の起業に比べて優位はある。しかし、それだけではない。底流にはもうけに突き進むのではなく、社会への貢献を意識する姿勢が垣間見える。

さらにいくつかの事例を探ってみると、事業や起業に必要な3つの要素を示唆している。例えば「執念」の重要性を教えるのはメタモジ(東京・港)の浮川和宣社長(63)だ。ジャストシステム時代にやり残した研究にこだわるうちにタブレット時代が到来、すべての経営資源を投入してアプリ開発の成功につなげた。

「赤毛和牛」の生産を手がける神内ファーム21の神内良一社長

「理念」も欠かせない。神内ファーム21(北海道浦臼町)の神内良一社長(86)は黒毛に比べ珍しい「赤毛和牛」の生産を手がける。理由は「おいしいから」。この単純な説明の裏には北海道の農業の生産性を高め、日本の農業の競争力を高めるという理想が秘められている。従来は栽培や飼育していない種類に照準を絞って農畜産に取り組むのはそのためだ。

「発想の転換」で再度、挑戦するのが俺のフレンチ・俺のイタリアン(東京・中央)の坂本孝社長(72)。高級食材を安価で提供するために客の回転率を高める事業モデルはブックオフコーポレーションを設立したときの発想に通じる。中古書籍の評価という難しい作業を単純化し、商品回転率を高めて収益を確保する発想は当時も目をひいた。

日本の起業環境は厳しい。リスクマネーは乏しく、企業支援の制度も貧弱といえる。そんな中で、変化の兆しがある。シニアの台頭だ。日本政策金融公庫によると、起業数に60代以上が占める比率は、11年までの3年間は6.5~7.7%と過去20年で最高水準にある。

起業大国の米国でも、けん引役はシニアだという。大和総研によると11年に起業したベンチャー幹部の34%を55~64歳が占める。「日本でも大企業の苦境もあって技術や人脈を持つシニアが独立し、有望な起業家の母数が増えている」(奥谷貴彦研究員)

「第二の創業」の気概とノウハウがシニア層をはじめ、下の年代にも伝承されれば、日本の産業の活性化につながるかもしれない。

ブックオフ→欧風立ち飲み店

高回転で価格破壊

夕方4時、飲食店がひしめく東京・銀座や新橋の一角。「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」と掲げられた看板の下に行列ができる。外壁には一流店での実績を誇る総料理長らが腕組みした写真。フォアグラとヒレ肉のステーキが1300円など、高級食材を破格の安値で出す。昨年9月の1号店から、1年で9店にまで成長した。

高級食材を3千円台の客単価で出す、俺のフレンチ・俺のイタリアンの坂本孝社長

運営する俺のフレンチ・俺のイタリアンの坂本孝社長は中古本販売のブックオフコーポレーションの創業者。価格破壊の仕掛け人は高級料理店の現状に隙を見た。「1人5万円の接待費を出す業界はもうない。客が入らず、原価や人件費を削って質が低下している」

高級料理と一般客を結びつける策が「立ち飲み高回転」だ。高級店では20%前後というフード原価率が「俺の」では40~60%台と高い。それを補うため滞在時間が短い立ち飲み形式にした。一晩で客は3.5~4.5回転し、43人収容の店に月4千人が詰めかける。大量調達で仕入れ値を徐々に下げ、店の経常利益率は10%以上を確保する。

料理の質は人材が保証する。イタリアの二カ所のミシュラン三つ星店で修業した山浦敏宏・総料理長(45)は「喜ぶお客を前に材料に妥協せず作れて、料理人冥利に尽きる」と話す。初期の面接では「3万円以下の料理は作ったことがない」と席を立たれかけたことも。だが、1号店の成功が呼び水となり実績あるシェフが次々と入社した。

株式公開前に社員への株式譲渡を約束し、意欲を引き出す。「会社は働く社員のもの。総料理長らの独立も支援する」

外食店は一過性のブームで終わることも多い。「早く模倣店が出てきてほしい。競合がなければ慢心する」(坂本社長)。あえて銀座に集中出店し、各店に裁量権を与えて競わせる。来年3月には「俺の割烹(かっぽう)」と題し、伊勢エビやマツタケを使った和食の立ち飲み店も開く。

【俺のフレンチ・俺のイタリアン】
○伊・仏料理の外食チェーン。11年9月に約50平方メートルの1号店を開店、9店を構える
○坂本孝社長は1991年に中古本販売のブックオフコーポレーションを設立、2007年に不正会計で引責辞任

ジャストシステム→手書き変換アプリ

タブレット時代、世界に挑戦

9月末の公開以来、iPad向けの「仕事効率化」分野で首位を争い続ける無料アプリがある。「Note Anytime」。指やペンを画面に走らせて手書き文字を入力し、写真などを組み込むといった感覚的な操作で文書を作成できる。他の追随を許さないのは追加機能の「交ぜ書き」だ。「会ぎ開さい」と仮名交じりで書いても、的確に「会議開催」とテキスト変換する。

タブレットに直接文字を書き込める「7notes」を開発したメタモジの浮川和宣社長

開発したメタモジの浮川和宣社長は、かつてワープロソフト「一太郎」で国内シェアの7割超を握ったジャストシステムの創業者。ただ、後に米マイクロソフトの「ワード」との争いに敗れてシェアを落とし、09年には経営から退いた。

15人ほどの技術者を引き連れてメタモジを設立し、3カ月が過ぎた10年1月。浮川社長はニュースにくぎ付けになる。米アップルによるタブレット端末「iPad」の発表。キーボード入力を30年突き詰め、その限界を熟知するからこそ直感した。「紙とペンの文化を引き継ぐのはこれだ」

世界中のエンジニアとの、開発競争の号砲が聞こえた。浮川社長は進行中だったプロジェクトをすべて中断。メタモジが持つ能力と資源を、手書き文字入力のアプリ開発につぎ込んだ。高齢者などキーボードに戸惑う人たちは依然多い。「誰もがネットにつながる時代の支えになる」

11年2月に発売した手書き入力アプリ「7notes」は、今や「ギャラクシーS3」など先端スマートフォンに標準装備。進化形の「Note Anytime」は韓国のアップストアでも仕事効率化ジャンルで1位、米国では6位を記録した。「手書きに言語の壁はない」(浮川社長)。ジャストシステムで果たせなかった海外での成功に挑む。

【メタモジ】
○2009年設立のソフト開発会社。タブレット端末などで、手書きで文字を入力するアプリ「7notes」を開発
○浮川和宣社長は1979年にワープロソフト「一太郎」で知られるジャストシステムを創業。09年に会長を辞任

プロミス→北海道で農畜産

高級品で競争力磨く

空気に冷たさが混じり始めた11月の北海道。しかし、浦臼町の神内ファーム21の温室では、南国産のはずのマンゴーが赤く色づき収穫を待っている。「価値ある品で価格設定権を農家に取り戻す」が神内良一社長の信条。3年前から出荷するこの「冬マンゴー」は百貨店などで歳暮用に珍重され、今冬は約8千個を出荷する。2個セットで約1万3千円という高値だ。

2個セットで約1万3千円の「冬マンゴー」を生産する神内ファーム21の神内良一社長

来年からは白桃、富有柿、ブドウのピオーネも育てる。いずれも本来は寒冷地には向かず、温室の設備投資や燃料費がかさむ。それでも「雪に閉ざされる冬を克服すれば、北海道農業の生産性が劇的に上がる」(神内社長)と揺るがない。

畜産では熊本県などが主産地の、赤身が多い「赤毛和牛」にほれ込んだ。約800頭を放牧し、しゃぶしゃぶ用などの高級肉をネット直販中心に販売。11年に他の生産者らと品質を認証する財団法人を結成した。

神内社長は消費者金融のプロミスの創業者。戦時中、学徒動員で農作業に来た北海道に魅せられ、入植も志した。夢が実現したのは半世紀後の1997年。浦臼町で約600ヘクタールの土地を購入した。今や農場・牧場は道内に5カ所、宮崎県に1カ所。投じた資金は約130億円に達する。

スケールは一般の農家の枠を超えている。01年にはいち早くガラス温室で自動化した植物工場に挑戦。06年には次世代の農家を育てる「夢現塾」を開いた。敷地内に戸建て住宅を並べ計20組の夫婦が受講。研修しながら独立を目指す。

売上高は12年3月期で7億円弱。投資先行で黒字化は「5年以内が目標」という。地元には「資金あっての実験農業」とやゆする声もあるが、神内社長は「いずれ世界で食糧戦争が起きる。自給率を高める農業が不可欠」と種をまき続けている。

【神内ファーム21】
○1997年設立。北海道を中心に6つの農場・牧場を運営。総面積は約2000ヘクタール。飼育する黒毛・赤毛和牛は4000頭
○神内良一社長は62年に消費者金融のプロミスを創業。2001年に会長を退任した

(石森ゆう太)

[日経MJ 2012年11月11日付]

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