2019年8月17日(土)

政客列伝 椎名悦三郎(1898~1979)

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外相就任、日韓国交正常化成し遂げる 「飄逸とした仕事師」椎名悦三郎(4)
政客列伝 特別編集委員・安藤俊裕

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2012/8/26 7:00
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1962年(昭和37年)11月、岸信介は「十日会(岸派)」の解散を宣言した。派閥をいったん解散して後継者の福田赳夫を中心とした新派閥を作ろうとした。これに川島正次郎を中心としたグループが反発して岸派は分裂した。戦前の商工省時代から岸と二人三脚でやってきた椎名は去就に迷ったが、福田が後継者ということに納得がいかなかった。岸・福田の反池田路線にも同調できなかった。椎名は川島グループに参加する決断をした。川島と椎名は戦前の商工委員会からの付き合いで、椎名は後藤新平の甥であり、川島は後藤新平の東京市長時代の側近だった。

赤城宗徳、岸信介、川島正次郎、椎名悦三郎(左から)

赤城宗徳、岸信介、川島正次郎、椎名悦三郎(左から)

川島は財界と深いパイプのある椎名の参加を喜んだ。こうして川島を中心に椎名、赤城宗徳、藤枝泉介、浜野清吾、荒船清十郎、長谷川四郎、秋田大助ら衆議院議員19名で「交友クラブ(川島派)」が結成された。椎名は岸と袂(たもと)を分かった経緯について次のように記している。

「私は政治家になって間もない頃、一度岸さんに聞いたことがある。『原敬は"政治は力なり"と言ったが、"力"とは何だと思うか』とね。そしたら岸さん『力とはカネだ』と答えたよ。そんな風だから、あの人の政治資金というものの考え方が、根本的にぐらついている。よく政治ゴロみたいな連中が、南平台の私邸をうろうろするのを見かけたが、岸さんはまた何か無理をして後始末に苦労しているんじゃないかと、何となくにおいで感じるようになってネ。私は口に出して言わなかったが、そんなにおいが大嫌いなもんだから、次第に岸邸から足が遠のくようになってしまったんだ」

このころ、福田赳夫は党風刷新連盟を率い、派閥解消・党近代化を掲げて池田政権を激しく揺さぶっていた。池田首相と前尾繁三郎幹事長はこうした動きを封じ込めるため昭和37年、三木武夫を会長とする党組織調査会を設置し、党近代化問題を全党討議に付した。三木調査会では灘尾弘吉が団結小委員会の小委員長になった。椎名は灘尾小委員会に熱心に顔を出して討論に加わった。灘尾は後に「あの無精者(の椎名)が一回も欠席しないのに驚いた」と述べている。三木調査会は翌年10月、「一切の派閥の無条件解消」を柱とする答申をまとめて池田首相に提出した。

昭和38年11月の総選挙で椎名は小沢佐重喜に次いで第2位で当選した。通産大臣を経験したことで地元の選挙民も椎名が小沢と同等か、それ以上の大物政治家であるとの認識が広がり、前回選挙より1万票以上得票を増やした。この時の選挙を椎名は「初めて何一つ違反のない選挙をやり、すがすがしい気分だった」と述べている。

■本人も驚いた予想外の外相ポスト

昭和39年の自民党総裁選は3選をめざす池田首相とこれを阻止しようとする佐藤栄作が激しく争ったが、川島派は一致して池田を支持し、池田は佐藤を振り切って総裁3選を果たした。総裁選後の人事で大野伴睦の死後、空席になっていた自民党副総裁に川島正次郎が就任した。内閣改造では外相に椎名悦三郎が起用されて注目を集めた。椎名を外相に強く推したのは池田首相の最有力側近の前尾である。当時の外交の最大案件は日韓国交交渉だったが、両国間のメンツと複雑な国民感情が絡み合って交渉は一進一退が続いていた。

前尾は大局的な判断力があり、ハラが座っていて度胸がある椎名を外相の適任と考えたが、世間も椎名本人も当時は外相が適任とは思ってもみなかった。前尾の話を聞いた川島も「いくら何でも椎名君に外相は無理だ」と難色を示したが、池田首相は「面白い人事だ」と了承した。

椎名本人は「今回も通産かな」と予想していたが、川島副総裁を通じて外相を打診されて「冗談もほどほどにしろ」と答えたほどだった。組閣本部に呼ばれた際も池田首相に「あんまり人をからかうのもいい加減にしてくれ」と言ったが、池田はニヤニヤ笑いながら「いや、二人でやろう。オレも手伝うから一緒にやろうや」と説得した。

日韓交渉は請求権問題では昭和37年の大平外相と金鍾泌中央情報部長官との間で無償3億ドル、有償2億ドル、民間協力1億ドル以上という線で大筋合意していた。漁業問題でも両国農相会談で李承晩ラインを撤廃し、沿岸12カイリを韓国の漁業専管水域とし、その外側に共同規制区域を設け、日本は漁業経済協力を行うことでほぼ合意していた。韓国では野党や学生が「対日屈辱外交反対」を叫び、韓国の政情不安も絡んで交渉はしばしば中断した。

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