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ネット「炎上投稿」の憂鬱、企業の巨大リスクに

ブロガー 藤代 裕之

ソーシャルメディアでの問題投稿を発端とする「炎上」トラブルが止まらない。テーマパーク、コンビニエンスストアや飲食店で迷惑行為を行う若者が写真を投稿したり、官僚や政治家が暴言を吐いたりと、原因となる人々の年代や職業は問わない。きっかけはささいなことかも知れないが、過去の行為がネット上で問題となり激しい指弾を浴びる恐れもある。いつ、誰が、炎上するか分からない状況は、企業や組織にとって大きなリスクとなる。

ピザ生地を顔面に張り付ける写真をアルバイト店員がツイッターに投稿し炎上してしまった=共同

いつどこでも発生しうる「炎上」

悪ふざけしてコンビニやステーキ店の冷蔵庫に入る従業員。若者の投稿写真に対して「不衛生きわまりない」とインターネット上で炎上する傍ら、別の議論も起きていた。「人々はなぜ炎上行為を行うのだろうか」――。

コンビニ店長を名乗る人気ブログ「24時間残念営業」は、ネットという概念が理解できない人たちがいると指摘する。その中で、あえて「低学歴の世界」という表現を使ったことで、要因を学歴に求める意見が広がった。しかしながら、テーマパークでの迷惑行為を行ったのは神戸大学や同志社大の学生だ。復興庁の官僚のツイートが問題になったときは、「高学歴エリートの暴走」との意見も出ていた。

このような理由を探す意見が続出するのは、「炎上すると個人情報がさらされたり、アルバイトを解雇されたりする。リスクが高いのに、あえてそのような行為をすることが理解できない」という心情の表れだろう。

今回も、コンビニでは加盟店との契約解約及び当該店舗の休業、ステーキ店ではアルバイト従業員の解雇と退店が決定されている。少し前に話題となったテーマパークへの迷惑行為では大学生が書類送検され、その中の一人については、犯行内容が凶悪な場合や刑事処分がふさわしい場合に行われる検察官送致(逆送)となっている。

ソーシャルメディアを長く利用している人は、これまでに多くの炎上を見て、どのような結果を招くのかを理解している。だが、友人や知人など狭い範囲でコミュニケーションを行っている人々にとって炎上は「他人事」だ。

逆説的にいえば、ソーシャルメディアで迷惑行為や犯罪行為を行えば、自分自身にも大きな問題となって跳ね返ってくる、という社会的な共通認識が広がっていけば、携帯電話の普及にともなって起きたトラブルと同じように沈静化していくことが予想される。

事前にアドバイスし自覚を促す

ただ、トラブルに対応せざるを得ない企業や行政などの組織にとっては、共通認識の成立を待っているわけにはいかない。大学でも学生の将来を考えると対策は必要だ。

 これまで、企業や行政などの組織が進めてきたのはガイドラインの作成だ。多くが法令遵守やマナーを守るという呼びかけだが、総務省が6月末にまとめた「国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たっての留意点」には、「思想信条や宗教等、衝突を招きやすく、細心の注意を払う必要のある事柄を話題とする場合には、特に慎重な発信を心がけること」という一文も入る。表現の自由に配慮しているため、「心がけ」にとどまっているが、より具体的に「燃え易い話題を避ける」というなアドバイスも有効となるだろう。

国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たっての留意点

また、組織のことは書かないように、と直接的に求めるのも一つの方法だ。

ソーシャルメディアは使い方次第では有効なツールとなる。その情報発信力を生かして商品やサービスの魅力を広げていくというマーケティングを見据えて緩やかなガイドラインにしている企業は多い。しかし、業務と私的利用を明確に区分したほうがリスクは低くなる。仮にそう決めたら、隠れて匿名で組織の事を書き込んでいるのを見つけたら警告するなど、踏み込んだ対応も求められるだろう。

一方、積極的に取り組む場合も、組織と個人の責任を区分しておきたい。朝日新聞社は、ツイッターのプロフィール欄に、「個人の考えである」ことや「リツイートやリンクは同意を意味しない」ことを明記させている。発信者の自覚を促すこともできる。

ソーシャルメディアの利用研修では、ツイッターなどを実際に使ってみるのもよい。「見られている」ことを意識させるだけでも違う。また、公開設定などの基本事項を確認しておけば、間違って拡散することもなくなる。

完全な抑えこみは困難

ただ、いくら研修を実施し、ポリシーを定めても、炎上を完全に抑え込むのは難しい。以前にコラム「相次ぐ大学生のネット炎上、『燃やす側』の大人に責任はないのか」でも少し触れたように、問題発言や問題行為を発見し、騒ぎを大きくしようとする人々が存在しているという問題がある。

ソーシャルメディアにはログが記録されるため、過去の発言や行動も残っている。何かソーシャルメディアで騒ぎになると、過去の書き込みも検索され、問題視される。匿名であっても、アカウント名や書き込み、位置情報サービスのチェックインなどから実名が特定されることもある。

 対策が難しいのは、問題発言や問題行動の範囲が、あらかじめ定義されているわけではない点だ。発信者側がそう思っていなくても、情報の受け手が「問題」だと思えば批判を受けることもあり得る。

いくら慎重に言葉を選んでいても、何が問題になるかは情報を発信した時点では判断できない。例えば食べ歩きが趣味の人が、自身が訪れた飲食店について書き込んだとしよう。仕事のことには触れず、日常的なことを記述していても「ラーメンのことばかり書き込んでいて、職務への真剣さが足りない」という批判が起きることもあり得る。炎上発生を前提とした対応を事前に決めておくことが重要になる。

素早い「鎮火」の方策を探る

どのような問題が起きたら、どのような対応を行うのか――。その対策を事前に決めておくことが必要だ。ソーシャルメディアで対応するのか、記者会見するのか、プレスリリースでとどめるのか、できる限り具体的に検討しておきたい。

一連のトラブルで、各社がいち早く従業員の解雇など処分を発表したのも、炎上の拡大を食い止めるためだ。マスメディアは対応策を発表すれば、続報を展開することが少ない。ただ、再発時にさらに厳しい処分を求められる可能性がある。

いち早く炎上のきざしを見つけて素早く「鎮火」させることで、騒動を小さくできることもある。そのためには、自社名やサービス名を検索キーワードに設定したソーシャルリスニングの実施や、コールセンターやカスタマーセンターなど顧客と接する部門と広報やコンプライアンス担当部門の連携もカギになる。

もうひとつ、この手の炎上議論で忘れられがちなのが、ソーシャルメディア各社の取り組みだ。

交流サイト(SNS)運営者側には「我々が提供しているのはプラットフォーム。問題があったとしても、それは利用者の自己責任だ」といった態度があるとすれば、そこにも問題がある。

携帯電話のマナーキャンペーンのように社会全体に共通認識を浸透させるための努力が不可欠だ。組織内での研修でもそうだが、公開設定などは複雑で、仕様の変更が頻繁に行われることもある。利用者がトラブルに巻き込まれないように、分かりやすい情報の提供やデフォルト(初期設定)の変更で対応していくべきだ。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。

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