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グーグル・グラスで人命救助、火災現場で眼前に建物情報

ウエアラブル端末時代の幕開け(3)

 「ポスト・スマートフォン(スマホ)」として、にわかに注目度が高まっている身に着ける情報端末、いわゆるウエアラブル端末。その代表的な存在と言えるのが、米Google(グーグル)が開発を進めているメガネ型端末「Google Glass(グーグル・グラス)」だ。すでにGoogle Glassを試用した一部の開発者からは、「デジタル・ライフが一変した」との声も聞こえてくる。本当にそうなのか、もし普及したら我々の生活をどう変えていく可能性があるのか――。Google Glassを購入して「グラス生活」を送っている、米シリコンバレー在住のベンチャークレフ代表・宮本和明氏に、Google Glass が我々の生活に与えるインパクトを解説してもらう。連載第3回は、火災や交通事故など人命救助におけるGoogle Glass活用の可能性を紹介する。

Google Glassは消防活動でも使われている。消防隊員はGoogle Glassを装着して現場に急行し、消防活動で必要な情報にハンズフリーでアクセスする。パトロールにGoogle Glassを導入する警察も出てきた。米国の消防と警察がGoogle Glassの可能性に着目し、実証実験を開始している。

火災現場の場所を表示

ノースカロライナ州ロッキー・マウント市は、Google Glassを消防活動に導入し、その有効性を検証している。消防隊員のパトリック・ジャクソン氏は、ソフトウエア・エンジニアでもあり、Google Glass向けに自らアプリを開発し、消火・救助活動に展開している。

火災が発生すると、消防隊員が装着しているGoogle Glassにアラートが配信され、火災現場の情報がカード形式で表示される。消防隊員はGoogle Glassで火災現場を確認し、現場に急行する。上の写真はその様子で、消防隊員が着装しているGoogle Glassに、火災現場の住所と地図が表示され、位置を確認しながら消防車を出動させる。

Google Glassで建造物の構造把握

現場に到着すると、消防隊員は、音声でGoogle Glassを操作する。下の写真はそのデモで、隊員は「show the floorplan」とGoogle Glassに音声で指示し、建造物レイアウトの表示を要求する。

グラスにはフロアー・マップが表示され、消火活動や人命救助の手順を決める。消防隊員は、建造物の位置については、音声で住所を入力するか、カメラで建造物を撮影して入力する。

また「find a hydrant(消火栓)」と指示すれば、Google Glassは近くの消火栓の場所をディスプレイに表示する。建造物の危険個所を表示したり、建造物所有者の連絡先情報を表示する機能も計画されている。

酸素マスクをしたままでGoogle Glassを着装する方式や、煙の中で火災が起きている位置を表示する機能も検討されている。火災現場では、Google Glassをハンズフリーで操作できることは大きな利点となるのだ。

交通事故現場では車両切断手順を表示

交通事故現場ではGoogle Glassを使って救助活動を行う。大破した自動車から搭乗者を救助する時、Google Glassにその手順を表示する。

下の左写真はそのデモの様子で、事故現場で隊員は「show extraction diagram」と音声で指示し、搭乗者を救助するため、自動車を切り開く場所の情報を表示する。これに続いて、隊員は自動車の型式と製造年を音声で入力する。

上の右写真は「2001 Ford Expedition」と車種を入力したところで、Google Glassはこれらの入力情報に基づいて、自動車を切断する場所をグラフィックスで表示する。隊員は、指示された部分(赤色の太線)を大型の電動はさみで切断し、自動車の屋根を取り外し、搭乗者を救助する。このアプリは個人により開発されたものであるが、全米の消防署が関心を示しており、大きな反響を呼んでいる。

ニューヨーク市警が評価を開始

Google Glassは警察でも採用の動きが広がっている。ニューヨーク市警察(NYPD)は、Google Glassを2セット入手し、パトロールで活用する方法の検討を始めた(下の写真)。Google Glassの具体的利用法については公表していないが、ニューヨーク市警察がGoogle Glassを採用する方向に向かっており、全米の警察からその活用法に注目が集まっている。

Google Glassでパトロールの様子を録画するのには、2つの目的がある。1つは不審者との対応で証拠ビデオを残すこと。もう1つは、警察官が行き過ぎた行為をしていないかを記録するためである。Google Glassは治安維持と犯罪対応の透明性を示すツールとして期待されている。

着装してハイウエー・パトロール

ジョージア州バイロン市警察は、Google Glassのフィールド・トライアルを開始した。警察官はハイウエーでパトロールする際、パトカーのダッシュボードに搭載したカメラで、停止させた車両への対応の様子をビデオ撮影している。

バイロン市警は、パトカーのカメラに加えて、警察官がGoogle Glassを着装し、停止させた車両とドライバーへの対応の様子を撮影する。Google Glassを使うと、警察官の目線で撮影され、ドライバーとの応対が克明に記録される。

Google Glassで撮影された映像は、位置情報と共に、リアルタイムでセンターにアップロードされ、市警は活動状況を一元管理する。Google Glassで撮影された映像は鮮明な上、警察官の目線での撮影されてているため、高い評価を受けている。一方、Google Glassのバッテリー容量が十分でないため、警察官はシャツのポケットに補助バッテリーを入れ、Google Glassに接続して運用している。

Google Glassのようなヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)は、もともと軍事ミッションで利用するために生まれ、イラク戦争などで使われてきた。消防や警察など、危険と隣り合わせの任務でも、ハンズフリーで情報にアクセスして任務を遂行する必要があり、Google Glassの採用は自然な流れともいえる。

消防や警察におけるGoogle Glassの実証実験は始まったばかりで、過酷な環境で使用するには不足している機能もある。しかし、Google Glassは人命救助や治安維持で活躍できる大きな可能性を秘めている。

宮本 和明(みやもと・かずあき)
米ベンチャークレフ代表 1955年広島県生まれ。1985年、富士通より米国アムダールに赴任。北米でのスーパーコンピューター事業を推進。2003年、シリコンバレーでベンチャークレフを設立。ベンチャー企業を中心とする、ソフトウエア先端技術の研究を行う。20年に及ぶシリコンバレーでのキャリアを背景に、ブログ「Emerging Technology Review」で技術トレンドをレポートしている。

(米ベンチャークレフ 宮本和明)

[ITPro 2014年2月25日付の記事を基に再構成]

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