「41秒」が生んだ5億円効果 スマホ時代の動画活用術 - 日本経済新聞
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「41秒」が生んだ5億円効果 スマホ時代の動画活用術

 企業導入が本格化してきたタブレット端末。現状は顧客へのプレゼンやカタログ紹介などが中心だが、一歩進めて動画を取り入れる企業が増えてきた。広告・マーケティング分野でも動画を採用する動きが加速しており、2014年を「動画元年」と位置付ける業界関係者は多い。動画はアイデア次第で適用領域はいくらでも広がる。

商品の販促用に制作した、たった41秒の動画が5億円以上の広告効果に――。タイヤのネット通販を展開するオートウェイは2013年11月、冬用タイヤの販促動画を制作してYouTubeに公開した(図1)。

一風変わった表現手法がネット上でたちまち話題となり、動画の再生回数は累計700万回を突破。国内外の多くのメディアに紹介され、従来の広告展開では考えられなかった効果を引き出すことに成功した。広告効果に換算すると「5億円以上」の効果に相当するという。

これは極端な例に見えるかもしれないが、動画の活用で先行している米国では成功事例が相次ぎ報告されている。「500ドルで制作した動画をきっかけに口臭対策ブラシの販売数が100万本以上の爆発的なヒットを記録した」「靴の販売サイトで商品の説明動画を掲載した結果、コンバージョン(成約)率が最大30%向上して返品率も改善した」などである。

日本も例外ではない。文具や家具の販売を手掛けるプラスジョインテックスカンパニーも動画を積極的に活用する一社。同社は社内向けに会社の最新情報を5分で伝える動画を内製して毎週金曜日に配信するほか、2013年秋から顧客向けにも商品の特徴や使い方などを紹介する動画を配信している。

そろえた動画は数カ月で約370本。「今後1~2年以内に2000本規模に拡充する方針」(伊藤羊一・ヴァイスプレジデント)で、ゆくゆくは紙のカタログの代わりとしていく構想を描く。

スマホの普及が動画を日常に

「なぜ今さら動画なのか」と思う方も少なくないだろう。実際、動画の業務活用はこれまで幾度となく注目されてきたが、結局は日の目を見ることなく終わっていった。日経コミュニケーション読者モニターへのアンケート調査でも利用率は43.9%にとどまっている。

ただ、置かれた状況は明らかに変わりつつある(図2)。動画が再び注目される最大の要因は、高速通信機能を搭載したスマートデバイスの普及だ。

「従来はパソコンでの閲覧が中心で一定のスキルを求められたが、今やスマートフォン(スマホ)やタブレット端末を利用して指先一つで楽しめるようになった。中高生から主婦層まで、日常生活に溶け込み始めた」(メディアコンサルティングを手掛ける境治氏)。見る・見せられる側の抵抗感のようなものは薄れてきている。

動画制作のハードルも従来に比べて低くなった。動画は撮影や編集などに手間と費用がかかるうえ、相手にインパクトを与えるためには高度な技術が求められる。効果が不透明な割にコストがかかるイメージが強かったが、必要最低限の工程だけをパッケージ化して安価に提供する制作会社が増えてきた。

プラスジョインテックスカンパニーは編集だけを外部に委託することで、動画1本当たりの制作費用を数万円に抑えた。三和シヤッター工業のようにほとんどの動画を自社で撮影・編集している企業も存在する。配信自体もYouTubeなどで手軽に始められる環境が整っている。

動画のメリットは、文字や静止画に比べて伝えられる情報量が圧倒的に多いこと。営業活動に動画を活用するソフトバンクテレコムの幹部は、「商品やサービスの細かい内容を説明するよりも、映像で先にイメージをつかんでもらったほうが伝わりやすく説得力も高まる」と効果を話す。「百聞は一見にしかず」というように、複雑な商品やサービスも映像で実際の動作や音を確認してもらったほうが手っ取り早い。

適用領域と効果はアイデア次第

動画の適用領域は意外に多い。一口に「商品やサービスの紹介」といっても、顧客向けの単なる宣伝動画に限らない。使用方法まで具体的に説明すればサポートの負荷を軽くしたり、返品・解約率を低くしたりする効果も期待できる。

営業担当者がプレゼンに活用すれば格好の宣伝材料になるほか、同じ動画を販売店に配布すれば店員の教育や研修にも役立つ。動画の一部を切り出して株主や学生への会社紹介に転用する手もある。

最近目立つのは、営業ツールとしての活用である。前出のプラスジョインテックスカンパニーは、商品の特徴や使い方を紹介する動画を大量に制作して多面展開する。営業担当者がiPadで取引先への説明に活用するだけでなく、自社サイトに「JOINTEX-TV」というコーナーを設けて一般顧客向けにも配信する。

基本的には説明テロップとBGM(背景音楽)が中心の動画で、それでも伝わりにくい商品については社員が登場して身振り手振りで説明する(図3)。例えば導入部で一般商品にありがちな問題点を示しながら、自社商品の優位点を説明することで、開発の狙いや背景をきっちりと伝える。

使い方の紹介で愛着を深める

自社サイトで商品やサービスを紹介する場合も様々な手法がある。化粧品販売のオルビスは、顧客とのエンゲージメント(精神的な結びつき)を深める目的で工夫を凝らす。あからさまな宣伝は避け、「使ってみました」や「検証しました」といった切り口で使い方やコツの紹介を重視する。

例えば顧客から相談の多い悩みに着目し、「つり目」と「タレ目」のそれぞれのケースに応じた最適なメイク方法を動画で紹介している(図4)。「大人ニキビとサヨナラする方法」というテーマでにきびの発生メカニズムを皮膚科医が解説した動画のように、自社の商品名が一度も登場しないものもある。

KDDI(au)は、「顧客にスマホを楽しく使ってもらいたい」(カスタマーサービス推進部Webシステムグループの木林美帆主任)との考えから、同社の端末やサービスの操作方法などを動画で紹介する取り組みを始めた(図5)。

タッチパネル上で指を素早く動かすスマホ特有の操作方法は、文字や写真の説明で伝わりにくいためだが、動画の中には「Googleマップの使い方」や「LINEのバックアップ・移行方法」など他社アプリの紹介も含まれる。スマホで生活を楽しむための特集番組も展開し、顧客とのエンゲージメント強化を狙う。

冒頭で紹介したオートウェイはタイヤの走行テストをはじめ、これまで商品紹介動画が中心だった。ただ、話題となった動画については、「視聴者心理をとことん研究し、演出方法を極限まで追求した」(通販事業部企画制作課の岡本翔氏)。

冬用タイヤを装着しないで走行する雪道の危険性を伝える目的で、何か話題を作れないかと考えていたところ、「怖さ」つながりで雪女に例える表現方法に至った(図6)。「タイヤは衝動買いする商材ではないので売り上げが急に伸びたわけではない」(同)が、タイヤのネット通販自体が広く一般に認知されていないこともあり、予想以上の効果を得られたとする。

もっとも、オートウェイの例はTwitterやFacebookによる口コミ効果が大きく、誰でも簡単にまねできるわけではない。ただ、動画はTwitter などのソーシャルメディアと相性が良いとされる。最近では「バイラル動画」と呼び、口コミで話題となることを狙った動画制作も注目を浴びている。

(日経コミュニケーション 榊原康)

[日経コミュニケーション2014年3月号の記事を基に再構成]

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