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盛り上がるカーシェア、iPhoneで乗ってみた

夏の風物詩にもIT

 お出かけ需要の高まりとともに今夏、新手のレンタカー「カーシェアリング」が盛り上がりを見せている。ポイントは無人。予約から乗車、返却まで誰にも会わずに完結する。携帯電話のパケット通信網と常時接続された車載器や、ネットにつながった車両管理システムといったITが、そのサービスを支える。レンタカーと何が違うのか。メリットとデメリットは何か。アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の専用アプリから予約、延長、ドアロックの開閉まですべてを行うことができる未来志向のサービスを選び、お盆の帰省をしてみた。

2010年はまさにカーシェアリング元年。一言で説明すれば「15分、30分単位でチョイ乗りできる無人レンタカー」。それがカーシェアリングだ。

もともとは、車両流入規制(トランジットモール)を始めたスイスで、1980年代後半から広がった「マイカーを共有しましょう」という運動に端を発する。国内外で定義は若干異なるが、日本では事前登録が必要な会員制サービスで、1000~3000円程度の月額基本料に加えて、利用した分の時間課金と距離課金を支払うレンタカー、ということになる。

長時間の利用向けに、別途、レンタカーと同額程度のパック料金が設定されていることが多く、12時間で5000~8000円、24時間で6000~1万円が相場となっている。夜間帯の利用は、さらに割引率が高い。

事業者はいまのところレンタカー会社が多いが、新規参入組もいる。レンタカーと比べて煩雑なのは、免許証やクレジットカードの登録など、事前の会員登録手続きが必要な点。しかし、今年に入って各社とも、インターネットで申請すると、郵送で書類や利用に必要なICカードが送られてくる「オンライン入会」を導入したため、ハードルは下がった。

一度会員になれば、予約、利用、返却のすべてを各自が単独で行える。車両は各地の駐車場などを借り上げた「ステーション」に置かれている。会員は、パソコンや携帯電話などで最寄りのステーションと空き車両を検索し、予約。指定した時間になったらステーションへ行き、ICカードや携帯電話などで解錠。車両内にあるキーを得て、発車する。返却時は同様に、ステーションに戻って施錠するだけだ。

目標をはるかに超えて急成長

長引く不況や若者のクルマ離れを背景に、国内では都市部を中心に日常的な移動手段としてのマイカー需要が減少している。しかし、休日や大きな買い物時など、依然としてクルマが必要なシーンは残る。そうした隙間の需要を満たし、カーシェアリングは著しい成長を見せている。

最大手は、オリックス自動車の「オリックスカーシェアリングクラブ」。今年3月末時点でステーションが全国約730カ所以上、車両が1000台以上と最大規模を誇る。入会手続きを来店不要とした今年4月、新規入会が前年同月比240%増と大幅に伸び、会員数は5月に1万人を突破した。13年3月までに会員数5万人、車両台数2000台を目標としているが、前倒しになる勢いで推移している。

この8月からは時間課金のパック料金を最大30%引きとする「夏休み期間限定キャンペーン」や、一部のステーション・時間帯で時間料金を無料にする「お試し利用キャンペーン」を始めるなど、夏季需要に乗じて攻勢をかけている。

「タイムズ」を展開するコインパーキング大手のパーク24と、傘下のマツダレンタカー(広島市)が運営する「タイムズプラス」の会員も、10年6月に1万人を超えた。09年10月末に比べて4倍増。10年7月は、さらに3000人弱を集めた。この会員増を受けて、7月末時点で670台の車両を、今秋までに1000台規模へと増やす計画だ。

強みはパーク24が持つ全国約9400カ所、29万台分のコインパーキング。この敷地をカーシェアリング用途に転換することで、ステーション開拓の手間が省ける。同社は「14年10月末までに4000台規模へ増やす」としている。

都内を振り出しにエリア広げるカレコ

新規参入で孤軍奮闘しているのは、三井物産の子会社カーシェアリング・ジャパンが運営する「カレコ・カーシェアリングクラブ」だ。昨年末時点で約1000人だった会員数は、8月中旬で約4600人まで急増している。

全国に根を張るレンタカー事業がないため、当初は東京都目黒区や世田谷区など、都心部を中心にステーションを設置していたが、今年から神奈川エリアを拡充。7月からは千葉、埼玉など首都圏全域にエリアを拡大した。ステーション数、車両数ともに、今年に入って前四半期比1.5~2倍のペースで増やしており、8月時点で324カ所、333台となった。

「08年夏に三井物産の新規事業として立ち上げたときは、車両台数目標を『5年で1000台』としていたが、それが4年、3年とどんどん縮まっている。今年の盛り上がりを見るとさらに短くなりそうなので、いま目標を言うのは意味がない」

カレコを運営するカーシェアリング・ジャパンの鈴木大山社長はこう話し、首都圏を飛び出して全国にエリアを拡大する計画があることも示唆した。

カレコの特徴は、利用開始のドア解錠を、他社が広く用いるICカード方式ではなく、携帯電話やiPhoneから行う点。無人レンタカーは、いったいどんな仕組みで管理されているのか。8月中旬、入会手続きを済ませ、お盆の帰省ついでに体験してみた。

利用の30分前に予約、結果は?

日常の利用にとって、ステーションの数はそれほど意味を持たない。出張先や旅行先で頻繁に利用するのでなければ、自分の居住地域の周辺にステーションと車両がどれだけあるかが重要だ。

カレコを選んだのは、記者が住む世田谷区内に31カ所、自宅から徒歩10分圏内に3カ所のステーションがあるのも理由だった。ステーションの位置は各社のウェブサイトで公開されているので、入会を検討する人は事前に比較した方がよい。

さっそく、iPhoneに無料のアプリをインストールして予約へ。アプリを起動し、新規予約の画面で「エリア」「車種」「開始時間」「終了時間」を選択すると、車両管理サーバーに問い合わせ、該当するステーションと車両が表示される。極端な話、直前にステーションに行って車両を目の前にして予約しても、その時間帯に他の予約がなければ、すぐに乗ることが可能だ。

実際、利用の30分前に予約を試みたところ、お盆のピーク時期にもかかわらず、3カ所で3台の空きがあった。休日にレンタカーの空きがなく、何カ所も問い合わせる"レンタカー難民"状態で泣きを見ることが多かった記者にとっては、驚きの空車率。1500ccクラスの日産自動車「ウイングロード」を選択し、ステーションへと向かった。場所はグーグルの「グーグルマップ」で示してくれる。

iPhoneアプリでロック解除

目的のステーションは一般の月極駐車場の一角にあった。目立つように「careco」のロゴシールが地面に貼ってあり、ロゴ付きのコーンも立っている。当然、ドアはロックされているが、キーを持っているわけではない。

再びiPhoneのアプリを立ち上げ、「クルマの利用」を選択すると、予約内容が書かれたチケットのような画面の下に「利用開始」というスライドボタンが出現した。これを右に指でスライドさせると、「カチャ」と静かな音とともにドアのロックが解かれた。

仕組みはこうだ。利用開始時間の前後になると、iPhoneのアプリや携帯電話のサイトから解錠を指示できるようになる。リクエストは、カレコの車両管理サーバーで認証された後、携帯電話のパケット通信網を経由してクルマに取り付けた車載器へと送られる。車載器はドアロックの制御部分とつながっており、カギが開くという仕掛けだ。

車内にはマニュアル冊子が置いてあり、キーのありかが書いてある。車載器とつながったキーケースからキーを外すとワイヤレスキーが有効になり、ドアロックの操作やエンジンスタートが可能になる。ふと、車両盗難などセキュリティー面は大丈夫なのかと心配になった。

聞けば、仮に何者かが無理矢理ドアをこじ開けてキーを取り出しても、利用開始のリクエストを受けていない車載器の制御により、エンジンがかからない仕組みになっているという。同時に、ドアが開いたことがパケット通信網経由でカレコの本部に通知される。

また、車載器はGPS(全地球測位システム)のセンサーともつながっており、万が一、盗難でクルマが移動したときや、終了時間を過ぎても返却されなかったり、利用者と連絡が取れなかったりした場合は、カレコの本部側で車両位置を確認することもできる。ただし、GPSで車両位置を確認せざるを得ないようなトラブルは、これまで一度もないという。

誰にも会わずにクルマを拝借するという不思議な感覚に包まれながら、一路、実家へと走らせた。

「会員同士でシェア」を実感

乗ってみて気づいた一般的なレンタカーとの相違は、車内清掃の簡単な道具が目立つ場所に置いてあること。クルマを会員同士でシェアするというコンセプトに基づき、みんなできれいに使いましょうということだ。

むろん、定期的にカレコの社員が巡回してメンテナンスは行うが、タイミングによっては前回の利用者が返却してから誰も手を加えない状態で使うこともある。そのための「道具」だ。

考えてみれば、カーシェアリングでは自宅最寄りのステーションに置いてある同じクルマを使うことが多くなる。次回も、その次もこのクルマに乗るんだと思うと、毎回違うクルマを割り振られるレンタカーよりも、自然ときれいに使おうという意識が高まる。無人レンタカーはITだけではなく、シェアという考え方にも支えられたサービスなのだ。

給油も「会員同士で必要なときに、気づいたときにしてください」という考え方。車内には、ほとんどのガソリンスタンドで使えるカードが置いてあり、これを使って補給する。請求先はカレコの本部なので、単価を気にする必要はない。あとは一般的なレンタカーと変わりなく、快適に利用できる。

偶然、困った事態に遭遇しながらも、便利さを実感したのは帰路のことだ。

予想外の渋滞「終了時間に間に合わない」

帰路、帰省のUターンラッシュを外したつもりだったのだが、運悪く引っかかってしまった。東名高速道の上り線は大和トンネルを先頭に30キロ以上の渋滞。途中、予約時に指定した終了時間までにステーションに戻るのは絶望的だと分かる。

だが、サービスエリアでiPhoneのアプリを起動すると、「予約確認」の画面に「延長する」というボタンがあることに気づいた。タッチして、希望の終了時間を入力すると、車両管理サーバーに問い合わせ中のメッセージ。数秒後、予約確認画面の終了時間は延長されていた。

カレコの場合は、同じステーションの同一車両への予約は、前の人の終了予定時間より1時間後から可能になる。今回は運よく、後ろの時間帯に予約した人がいなかったため、だいぶ余裕をもって延長することができた。

仮に予約が詰まっていた場合は、端末から延長を希望しても受け付けてもらえない。どうしても返却が間に合わない場合はコールセンターに電話して、次の人に近隣の別の車両をあてがってもらうなど調整してもらう必要がある。

結局、延長を何度か繰り返して、無事にステーションへたどり着く。忘れ物がないかチェックして、ダッシュボードなどを付属のクロスシートで簡単に清掃。消臭スプレーも数回吹きかけておいた。キーを所定のケースにセットして、降車したところでiPhoneのアプリを起動。スタート時と同じように、今度は「利用終了」とあるスライドボタンをタッチすると、数秒後にロックがかかった。

会員数が急増しているといっても、まだレンタカーの足下にも及ばない規模だからだろうか、予約は断然、取りやすい印象。しかし、このペースで会員が増えたとき、満足いく状況が続くのだろうか。この点について聞いてみると、カーシェアリング・ジャパンの鈴木社長はこう答えた。

「会員の予約希望のリクエストに対して、どれだけマッチングできなかったか、ロスを把握する内部のシステムを準備している。このシステムにより、混雑してきたエリアには重点的にステーションや車両を拡充することで、利便性を維持したい」

レンタカーと料金を比べると

今回はカレコを利用したが、ドアロックの操作以外は概ね各社ともに似たようなシステムだ。他社は携帯電話やiPhoneのアプリではなく、個別に与えられるICカードを車両の特定部位にかざして解錠、施錠する方式をとっている。車載器がパケット通信網で本部につながっている仕組みは同じだ。

「利用者は必ず車両の前に行かなくてはならないので、ユーザーによる遠隔操作は必ずしも必要と考えていない。セキュリティー面を考慮して、ICカードという現物を選択している」(オリックス自動車)。

一度体験した限りでは、入会したことを抜きにしても、次回も利用したいと思った。現状では、利便性はかなり高い。

カーシェアリングのデメリットとして、長時間利用した場合の料金がレンタカーに比べて割高になることがよく挙げられる。だが、今回の時間課金は24時間で上限1万1000円というパック。同じクラスのクルマをニッポンレンタカーで24時間借りた場合、基本料金が1万395円で、これに保険料とガソリン代が上乗せになる。カーシェアリングの月額料金を考慮しても、今回はレンタカーより割安という結果だった。

利用者が増えればより安く

クルマを持たずにシェア。必要な時、必要なだけ、気楽にチョイ乗りするカーシェアリングの需要は、間違いなく高まっている。今後、さらに利用者が増えれば、競争原理が働き、スケールメリットも手伝って料金が下がっていくことが想定される。

みんなでもっとシェアすれば、もっと便利に。カーシェアリングは、ソーシャルメディア全盛時代のトレンドに乗るように、さらなる飛躍を遂げようとしている。

(電子報道部 井上理)

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