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ライフネット生命なぜ人気 異端過ぎるネット販促の源流

ブロガー 藤代 裕之

「セツヤクエスト-節約の冒険者たち-」。人気ゲーム「ドラゴンクエスト」風のホームページに王冠をかぶって登場するのはインターネット専業のライフネット生命保険の出口治明会長。「あー、ネットで変な企画をやっている保険会社ね」。そう思った人がいたらライフネット生命の狙い通りだ。同社が繰り出すユニークな企画は、生命保険という「一生もの」の商品を売るための周到な戦略に基づいている。

多摩川の河原でハトが保険を選ぶ

「セツヤクエスト」は若い世代にお金のことを考えてもらう企画。10月23日から、ブログサービスを提供しているはてな(京都市)、ライフネット生命、マネーフォワード(東京・渋谷)の3社共同で始めた。節約体験をブログに書いたり、ツイッターに投稿したりすると賞金やアマゾンのギフト券が当たる。日本テレビの番組「進ぬ!電波少年」で懸賞生活をしていたタレントのなすびさんが参加している。

このようなライフネット生命のユニーク企画の源流は2009年にさかのぼる。当時29歳のマーケティング担当者が立案した「ハト企画」だ。ニュースサイト「デイリーポータルZ」に「ハトが選んだ生命保険に入る」という記事が掲載された。デイリーポータルZはニフティが運営する面白サイト。内容は、多摩川の土手で、保険金額を書いた豆の入った3つの皿を置き、ハトが選んだ金額の保険に入るというもので、出口氏らがシャツ姿で登場した。

マーケティングを担当する中田華寿子常務は「開業間もない時期で何でもやろうという時期だった。ただ、生命保険という社会性の高い商品なので、苦情が殺到してしまうのではないかというリスクもあった」と振り返る。

信頼性が求められる保険会社のプロモーションは、テレビCMなどで好感度の高いタレントを起用してイメージを向上させるものが多い。しかし、同社はベンチャーで保険料を安くすると打ち出したこともあり、広告宣伝には多くの費用がかけられなかった。ハト企画からは数十人の申し込みがあり、その後の加入者ヒアリングでも企画が認知されていたことが分かった。

他社がやらないことをやる

一風変わったインターネットを使った調査を公表して話題にもなった。人気マンガ「ドラゴンボール」に関する調査では、生命保険加入を勧めたいキャラクターをランキングした。1位になった孫悟空について、「チチさんと結婚し第1子となる孫悟飯さんを出産した当時(20歳と想定)では、月額1,092円となります」と保険料を試算した。

マーケティング部の関谷誠氏は「大事にしているのは、他社がやらない、やれないこと、やりたがらないこと」という。単に話題になることを狙っただけではない。同社がターゲットとしている20代、30代の顧客が良く知るドラゴンボールを選んで認知を高めた。「セツヤクエスト」のドラゴンクエスト風、なすびさんの起用もターゲット顧客が引っかかるネタとなっている。これらユニーク企画は自社内だけでなく、他社からの提案で実現することもある。

だが、ユニークな企画を行って認知が高まっても、商品の販売に結びつかなければ意味はない。ライフネットはどのようにして契約に結びつけているのか。

「面白い」から「加入」への導線

生命保険は試し買いのできない大きな商品だ。中田氏は「就職や出産、身近な方が病気になった時など、生命保険には加入するタイミングがある。認知を高めて、生命保険の申し込みに至るまで、情報発信を重ねて複数回接触しないと、申し込んでみようかなということにならない」と指摘する。露出を拡大してもその時に興味がなければ意味がない。難しいのは顧客によって保険勧誘のタイミングがそれぞれ異なるということだ。

同社が考える加入への導線はこうだ。ユニークな企画やテレビCM、経営陣の書籍などでライフネット生命の存在を知って記憶にとどめてもらい、保険加入が必要になったタイミングで思い出してもらう。その対応のために、地道なSEO(検索エンジン最適化)やオンライン広告で誘導を下支えする。同社のサイトは社名検索でたどり着く人が圧倒的に多いという。

試行錯誤を繰り返し、さまざまな情報を重ねて消費者に届けるという同社の戦略が生まれた。

駅周辺でチラシ配布も

マス広告とソーシャルメディアの取り組みを組み合わせているだけでなく、リアルも展開する。出口会長は10人以上聴衆が集まれば全国どこでもセミナーを実施する。中田氏は最初反対したという。「50人ぐらいいないと効率が悪いかなと。でも、10人と話すと濃いコミュニケーションができて、口コミで広がっていく」ことが分かった。

街頭でのチラシ配布も行っている。上場時や開業5周年時など何らかの節目の際に、本社の最寄り駅である東京メトロの麹町駅や半蔵門駅で、社員がおそろいのTシャツを着て配布する。若手経営者として知られる岩瀬大輔社長は「会社も自分も、まだまだ知名度は低いのだと思い知った」と自らのチラシ配りの体験を同社発行の情報誌につづっている。

同社はインターネット専業のため顧客とのリアルの接点が少ない。セミナーやチラシ配布は潜在的な顧客と触れ合う貴重な機会だ。さらに、ブログやツイッターで社員が顔を出して情報発信することで、顧客や見込み顧客との接触を増やしていく。出口会長はツイッターで2万9000フォロワー、岩瀬社長は4万2000フォロワーを持つ。両者の発信力を生かして、日々、自社を潜在顧客に浸透させていく。

ニッセイ基礎研究所の調査によると、生命保険会社の選択理由は、(1)企業の信頼性・透明性、(2)販売チャネルの親しみやすさ、(3)保険料の安さ、(4)身近な情報の確からしさ、となっている。(2)には、一般の生命保険会社でいえば、外交員と知り合いだったり、熱心だったりするという理由が含まれる。リアルとソーシャルにおける社員の顔が見える活動は、ライフネットにはいない外交員の代わりという意味もある。

口コミはつくれない

口コミに関して注意していることは操作をしないことだ。「(口コミは)意図的にはつくれない。本当に共感して書いてくれている文章は人を動かすパワーがある。ネガティブな文章もあるが、それを消すこともない」と中田氏。開業から5年が経過し、次第に保険金や給付金の支払いが増えており、会社の置かれた状況も変化している。「保険の良しあしは支払うときまで実感できない。支払い手続きの簡便さやスピードなど、保険を利用された方の口コミが広がる取り組みをしていければ」と次の目標を語っていた。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。

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