愛について君は何を知っている  ホンダの「ワイガヤ」(3)

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2012/8/2 7:00
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ワイガヤは、常にここからスタートする。ホンダでは、どんなテーマでワイガヤをするときにも、必ずホンダの存在意義まで立ち返って考えるのである。

■愛冷蔵庫と愛車

2番目の質問は「愛とは何か」である。これは、筆者が入社してすぐ、2回目のワイガヤで実際にテーマとなったものだ。当時の本田技術研究所の幹部が突然、大まじめに「愛とは何か」と我々新米技術者に聞いてきた。それでワイガヤのお題になった。読者の皆さんは、「クルマの開発と愛に何の関係があるのか」と思うだろう。筆者もそう思った。しかも若い男ばかりが7~8人、顔を突き合わせて語る状況は、とてもロマンチックとはいえない。

このワイガヤには説明が必要だろう。本連載の前々回〔ホンダの「ワイガヤ」(1)〕で、新米技術者向けの訓練編があることに触れた。愛についてのワイガヤは、訓練編の典型である。筆者が体験したそのワイガヤには本田技術研究所の安全部隊から10数人の技術者が参加し、そのほぼ半数がワイガヤ初心者の新米だった。このため、筆者を含めた若手と指南役の先輩技術者が本隊から離れ、初日は別室で愛について議論したのだ[注1]

1日といっても、男だけで愛について語るには長い。最初はたわいない冗談や、何でこんなことをやるのかといった不満などを話す。そして、愛とは「家族を大切にする心」とか「人を思いやること」という意見が出てくる。言っている本人も「そんなんじゃ駄目だ」と、よく分かっている。どこかで聞いた内容、つまり借り物の言葉だからだ。そのうちに、よく見聞きする愛という言葉について、自分たちは何も分かっていないことに気付く。

ワイガヤでは多くの場合、その内容を研究所の幹部に報告しなければならない。新車開発時のコンセプトづくりなど、逆に報告をまとめるためにワイガヤを行うこともある。すぐに結論が出るようなテーマではないので結論は必ずしも必要ないが、その場合は議論の内容を報告することが求められる。

最悪なのは、報告を終えたときに「それで?」と言われることだ。これは、報告内容が熟慮されておらず、議論も深まっていないと判断され、「さらに先の話を聞かせてくれ」ということを意味する。もちろん、報告すべき内容はすべて話し、その先はないので、「君たちはその程度か」と言われているような気になる。報告者としては相当つらい。愛について話しながら、そんな事態も考えてしまう。

そんなとき、誰かがスッとつぶやいた。「クルマは愛車っていうよな。でも、愛冷蔵庫とはいわない」

その瞬間、小さな何かがみんなの心に引っ掛かった。

「おい、ハードウエアには、前に"愛"が付く物と付かない物があるんじゃないか」

「クルマ以外にも、ギターやカメラは愛機っていうね。これって技術の分野やレベルの高さとは関係ない。愛犬、愛妻、愛唱歌ともいうから、想いの深さと関係している」。こうして、一気に議論が加速し始めた。

[注1] 本隊は、安全に関するテーマを別に議論している。ただし、訓練編のワイガヤは1日だけで、2日目からは本隊に合流して、安全に関する議論に参加するという段取りだ。
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