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ヨウ素補給にうがい薬や昆布が不適な理由

震災に伴う原子力発電所の事故をきっかけに、放射線被曝(ひばく)による健康被害と、その予防について関心が高まっています。

原発事故で漏洩し得る放射性物質には、様々なものがありますが、特に健康への影響が大きいとされるのが、ヨウ素(I)、セシウム(Cs)、ストロンチウム(Sr)です。これらは、呼吸などを介して体内に取り込まれ、内部被曝の原因になります。

今回、このヨウ素、セシウム、ストロンチウムについて、資料を調べましたのでお知らせします。

 資料の中では、複数の単位が用いられています。一般には、1Gy[グレイ]=1Sv[シーベルト]で換算していますが、資料によっては、1Gy[グレイ]=0.8Sv[シーベルト]で換算しているものもあるようです。

放射性ヨウ素(131-I)の危険性

ヨウ素は、甲状腺に集積する性質があり、摂取された10~30%くらいが甲状腺に沈着します。放射性ヨウ素が甲状腺に多く取り込まれると、甲状腺癌(がん)を発症する可能性があります。実際、チェルノブイリの原発事故では、当時0~5歳だった人の甲状腺癌発症率が高いことが報告されています。これは事故により、131-Iが大量に散布され、それを乳牛が食べてそのミルクを摂取し生物学的濃縮が起きたのだと考えられています。

なお、この甲状腺癌は、予後が非常に良いことも報告されています(5年生存率98.8%、10年生存率95.5%)。

安定ヨウ素剤の効果、必要量、副作用について

安定ヨウ素剤による甲状腺癌の発症予防効果については、次の二つのメカニズムが紹介されています。

【1】非放射性ヨウ素を投与してその血中濃度が高まることで、相対的に放射性ヨウ素の血中濃度が低下し、甲状腺への取り込みが減少する(競合的阻害)

【2】血中の非放射性ヨウ素の濃度が上昇することで、甲状腺ホルモンの合成に抑制がかかり、ヨウ素の取り込みが減少する

安定ヨウ素剤によるブロック効果は、被曝24時間前摂取で93%、被曝2時間後摂取で80%、被曝8時間後摂取で40%、被曝24時間後摂取では7%と、時間により大きな差があります。

必要量は、年齢によって異なります。 ※ヨウ化カリウム丸は1錠50mg。

1)新生児:ヨウ化カリウムとして16.3mg(ヨウ素として12.5mg)

2)生後1カ月~3歳未満:ヨウ化カリウムとして32.5mg(ヨウ素として25mg)

3)3歳以上~13歳未満:ヨウ化カリウムとして50mg(ヨウ素として38mg)

4)13歳以上40歳未満:ヨウ化カリウムとして100mg(ヨウ素として76mg)

5)40歳以上:不要 妊婦の場合は4)と同様

副作用は、この量では大きなものはないとされています。

2011年3月12日に、日医工が約25万人分のヨウ化カリウムを福島県の卸に無償で出荷したことが報告されています。ですから現時点では、ほかの地域では品薄になっている可能性が高いと考えられます。

ちなみに、2001年の論文には、敦賀湾での事故を想定して、「ヨウ化カリウム錠26万錠、ヨウレチンは0.75mg錠相当で2万8000錠など、10万8000人分が備蓄されている」と書かれています。有機ヨウ素であるヨウレチンでも、ヨウ化カリウムを代替できる可能性が示唆されていますが、具体的な摂取量については触れられていません。

うがい薬や昆布が予防に不適当な理由

インターネットなどで、安定ヨウ素剤の代わりに、ヨウ素を含むOTC(Over The Counter:オーバー・ザ・カウンター)薬や食品を摂取すれば甲状腺癌が予防できるという"俗説"がありますが、いずれもこの目的で使用するには適当ではありません。

「うがい薬」に含まれるポビドンヨードは、経口摂取(飲み込むこと)は認められていません。そもそも37%程度のアルコールを含んでいますし、添加物が消化管を荒らす可能性もあります。さらに有効量を取るには、14.3mLも服用する必要がありって現実的ではないので、不適切とされています。

「ヨードチンキ」にも、エタノールが70%以上含まれていて、小児の服用には適しません。しかも、単体のヨウ素(I2)が含まれるため、消化管を荒らすなどいろいろな悪影響が考えられるので、避けるべきだとされています。

「消毒用イソジン」も、ポビドンヨードやマクロゴールを含むことから適さないとされています。

「ルゴール液」には、フェノールが含まれるので、不適当です。

「コンブ」にはヨウ素が多く含まれているため、予防に有効なのではないかとする意見もありますが、成人での有効量を摂取するには、産地にもよるようですが、乾燥コンブを50g程度を摂取する必要があり、現実的ではありません。ましてや、本当に必要な小児には適さないでしょう。

放射性セシウム(137-Cs)の危険性と排泄促進剤

セシウムは癌治療のガンマ線源として重要なものですが、被曝の程度がひどいと致命的となります。半減期が8日間のヨウ素と比して、セシウムは半減期が30年と非常に長いため、摂取してしまうと人体への影響も大きくなります。

こちらは、体内への取り込みを防御するための薬剤はありませんが、排泄を促進する薬剤はあります。2010年12月に発売されたばかりの、放射性セシウム体内除去剤であるラディオガルダーゼ〔一般名:ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物〕です。

高校の化学で習ったことを思い出す方も多いでしょう。青色の色素でもあります。イオン交換および結晶構造内への吸着の原理でセシウムと結合し、腸管からの再吸収を妨げることによってセシウムを体外に排泄(せつ)します。そうした薬ですので、ラディオガルダーゼを服用した患者の排泄物には、放射性物質(放射性セシウム)が多く含まれることになります。

製造元の日本メジフィジックスは、本剤をドイツから緊急輸入し、福島に送ることになっています(2011年3月14日時点の情報)。

酸化還元型のイオン交換能を利用し、放牧飼育される家畜(牛など)の飼料に加えると、乳や肉の汚染を抑えることができるので、チェルノブイリ原発事故の後、土壌処理が困難な牧草地で家畜に投与されました。この薬剤は、原発近くの人しか用いることはないでしょう。

放射性ストロンチウム(89-Sr、90-Sr)の危険性

ストロンチウムにも健康被害のリスクがあるとされていますが、摂取の防御も排泄促進も難しいようです。90-Srに関する情報はあまり得られませんでした。89-Srは医薬品として存在し、骨転移による疼痛緩和に用いられますが、骨髄抑制の副作用があります。放射性でないものは、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)薬として開発されています。

【参考資料】
『安定ヨウ素剤取扱いマニュアル』財団法人原子力安全研究協会(2003)
医学のあゆみ 2009;234(4):306-310
日衛誌 2008;63:724-734
臨床と研究 1997;74(7)
日本集団災害医学雑誌 2001;6:100-104
ラディオガルダーゼ 添付文書、インタビューフォーム
メタストロン 添付文書、インタビューフォーム

[日経メディカル オンライン 2011年3月17日掲載]

笹嶋勝(ささじま・まさる)
 大学病院でDI(医薬品情報管理)業務の責任者として8年間勤務した後、現在は、薬局チェーン「日本メディカルシステム(東京都中央区)」の学術部門長として勤務。東京薬科大学薬学部客員教授。(注:本記事は「日経DIオンライン」の連載「笹嶋勝の『クスリの鉄則』」を転載したものです)

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