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ソフトバンク4Gのネットワーク詳細、運営会社が公表

ソフトバンク傘下の通信事業者であるWireless City Planning(WCP)は2012年1月18日、同社が運営するTD-LTE(AXGP)方式の移動体通信サービスに関する報道関係者向けの説明会を開催した。WCPのAXGPサービスについては、ソフトバンクモバイルがMVNO(仮想移動体通信事業者)としてWCPから設備を借り受け、「SoftBank 4G」のサービス名で2012年2月に商用サービスを開始する予定。

WCPは、旧ウィルコムの次世代PHSサービス「XGP」部門を分社化して引き継いだ通信事業者。ウィルコム時代の2009年10月から、一般ユーザー400人を対象として東京近郊でXGPの商用サービスを実施しているが、これを2012年1月末で終了し、新たにAXGP(Advanced XGP)方式の通信サービスを2011年11月1日に始めている。AXGPについては、以前からソフトバンクモバイル 代表取締役社長の孫正義氏が「中国やインドなどで実用化が検討されているTD-LTE方式と100%の互換性を確保している」と表明している。

WCP自身は一般ユーザーへのサービス提供を行っておらず、現時点では事実上試験サービスの状態にとどまっている。AXGP方式のサービスを一般ユーザーが実際に使えるようになるのは、ソフトバンクモバイルがMVNOとしてAXGPのネットワークを使い、「SoftBank 4G」の商用サービスを提供する2012年2月以降の見込み。

SoftBank 4Gの商用サービスが始まる2012年は「4G元年」であるとする

「FDDは電波の利用効率が悪い」と批判

説明会に登壇した同社執行役員CTOの近義起氏は、PHSやXGP、AXGP、TD-LTEなどが採用する時分割複信(TDD)と、W-CDMAやCDMA2000、LTEなどが採用する周波数分割複信(FDD)とを比較した技術解説を行った。「音声通話を主な用途として開発されたFDDは、上りと下りのそれぞれで同じ幅の帯域を確保する必要がある。しかし大半のユーザーは下りのトラフィック(データ量)が圧倒的に多く、上りの帯域が有効活用されていない。また、上り帯域と下り帯域の間には干渉防止用のガードバンドを設けなければならず、そのガードバンドだけで帯域の20~30%を無駄遣いしている」と語り、FDDを基にした通信方式は、データ通信用としては効率が悪いと批判した。

近CTOはさらに、「TDDは上り・下り共通の周波数帯を使い、時間ごとに上り/下りを切り替える。下りに割り当てる時間を長めに、上り用の時間を短めに設定すればよく、その間のガードタイムも通信時間の10%以下にとどめられ、電波の利用効率が高い」と語り、TDDの利点を強調した。

また、中国移動通信、英ボーダフォン、インドのバーティ・エアテルとソフトバンクがTD-LTEの商用化を準備していることに触れ、「各社の現行ユーザー数を合算すると10億人を超える」として、世界的にも主要な通信規格となり、基地局や端末のコスト低減が期待できるとしている。

W-CDMAやCDMA2000、LTEなどが採用する周波数分割複信(FDD)は、上りの帯域が有効活用されず、上りと下りの間に設けられるガードバンドも無駄になっているとした
TD-LTEサービスを計画している中国移動通信や英ボーダフォン、インドのバーティ・エアテルにおける現行サービスのユーザーは10億人を超えており、TD-LTEも多くのユーザーの利用が見込めるとする

従来方式のXGPと今回のAXGPの違いについて近CTOは、「直交周波数分割多重(OFDM)やTDDなど基本的な技術は共通だが、端末に搭載するチップセットなどは、大きなところに合流しないといけないということで、TD-LTEとプロトコルの共通化を図った」と説明。また、AXGPとTD-LTEとの違いについては、「プロトコルは同一だが、基地局半径の小さいマイクロセルで普通にTD-LTE方式をやろうとすると複数の基地局からの電波が干渉して動作しない。干渉を防ぎつつ多数のマイクロセルを設置できるよう、ウィルコムのノウハウをネットワーク側に実装した」としている。

AXGPの理論上の最大通信速度は下り110Mbps、上り15Mbps。ただし、ソフトバンクモバイルがSoftBank 4Gのサービス開始時に提供する端末は、下り最大76Mbps/上り最大10Mbpsにとどまる。下り最大110Mbps対応の端末の発売時期については、「チップセットのベンダーが鋭意対応しているところで、2012年内に商用端末の試作機が出てくる見込み。そこから先は端末メーカー待ちということになる。2012年のクリスマスシーズンや2013年の春商戦には、何らかの製品が出てくるだろう」(近CTO)としている。

AXGPサービスの開始当初に利用可能な端末はデータ通信端末のみだが、2013年3月末までにAXGPのネットワークでスマートフォンを利用できるよう、ネットワークに「CSフォールバック」と呼ばれるプロトコルを実装する。これは、スマートフォン宛てに音声通話の着信があった場合に、(1)AXGP網で着信通知をスマートフォンに届ける(2)スマートフォンは自らが接続するネットワークをAXGPから3Gに切り替える(3)3Gの回線交換方式でスマートフォンと相手の音声通話を確立する――という手順で、音声通話を実現するものである。AXGP対応のスマートフォンの発売は、AXGP網がこのCSフォールバックに対応完了した後になるとみられる。

AXGPの商用サービス開始当初に発売予定のモバイルルーター「ULTRA WiFi 4G 101SI」。下り最大76Mbps/上り最大10Mbps

2013年3月までに政令指定都市をカバー、ただし地方部は「3Gに任せる」

AXGPサービスのエリア展開については、「2013年3月末までに政令指定都市の99%をカバーする。各政令指定都市の周辺も含め、2013年3月末時点で人口カバー率92%を予定している」(近CTO)とした。2月の商用サービス開始時点では、東京・名古屋・大阪・福岡・札幌の各都市の一部をカバーする予定。

近CTOによると、一般に無線通信のトラフィックは都市部に極端に集中する傾向が見られるとする。例えば全国的には東名阪の3大都市圏に集中し、東京都内でもトラフィックの9割は23区内に集中している。さらに23区内でも、渋谷など多くの人が集まる繁華街のトラフィックが突出しているとする。また、トラフィックの70%以上は屋内からのものであるとする。

こうした状況を踏まえ、「まずはトラフィックの多い都市部をカバーしていく。なるべく既存の基地局用スペースを活用しつつ、マイクロセルでアンテナを設置していき、将来的にはフェムトセルなどを活用しながら屋内のアンテナを整備していく」(近CTO)というのが同社の方針だ。

一方で、説明会の質疑応答において近CTOは、2013年度以降のエリア整備について質問を受け、「面カバーは3Gに任せて、我々は都市部をカバーする」とコメント。近CTOのプレゼンテーションで示したスライドでも、地方部は3Gでカバーする方針を示している。全国でくまなく利用可能な高速サービスとは位置付けず、AXGPと3Gのデュアル対応端末などを前提として、AXGPは公衆無線LANなどと同様に都市部におけるネットワークの混雑を分散させるサービスとして位置付けていることを明らかにした。

東京周辺のAXGPのサービスエリア
名古屋周辺のAXGPのサービスエリア
大阪周辺のAXGPのサービスエリア
札幌・福岡周辺のAXGPのサービスエリア

ネットワークはマイクロセルで整備、3Gとのアンテナ共用も

同社はAXGPを、PHSやXGPと同様にマイクロセルで展開する方針としている。「世界中で多くのオペレーターがマイクロセルをやりたいと思っているが、基地局の設置場所の確保が難しくなっている。既にマイクロセルを持っていることは大きな強み」(近CTO)と語り、ウィルコムがPHSのエリア展開に伴い確保した16万カ所の基地局用地が貴重な資産であるとした。説明会場にはPHSとAXGPの共用アンテナを展示し、AXGP用に追加の基地局スペースが不要であることをアピールしていた。将来的にAXGPの高速化やユーザー増加に対応する際も、既設基地局のアンテナ増設が最短で3カ月程度で迅速に行えるとした。

なお、ソフトバンクグループでは旧ウィルコムのPHSアンテナを一部撤去してソフトバンクモバイルの3Gアンテナに転用しており、これに伴いPHSのアンテナは2万~3万局減少しているとみられる。これについては「PHSのアンテナは撤去したものの、基地局用スペースそのものを撤収したところはほとんどなく、3G・AXGP共用の基地局用スペースとして活用可能」(近CTO)と説明した。

アンテナの形状が3G(左)よりシンプルなAXGP(右)は、将来のアンテナ増設も容易だとする
説明会場では、PHSとAXGPの共用アンテナを展示していた

アンテナを30~50カ所ごとに集中管理し、干渉低減やコスト削減を図る

また、AXGPのネットワーク構築に当たって、通常は個々の基地局ごとに1基設置する無線制御装置(BBU)を、アンテナ30~50カ所ごとに1カ所に集約して管理する構成を採ることを明らかにした。NTT東西の電話局(加入者交換局:GC)当たり1カ所にまとめ、代わりにBBUと各アンテナの間はNTT東西の光ファイバー(ダークファイバー)を借り受け接続する。

「30~50カ所のアンテナを協調制御することでアンテナ同士の干渉を大幅に低減でき、干渉による速度低下や圏外を減らして安定した良好なネットワークにしやすくなる。また、アンテナの設置場所にBBUを置かずに済むためアンテナの設置スペースや電源確保、設置する機器の重さといった課題が少なくなる、BBUを2重化して障害に強くできるなど利点が大きい。基地局の設置コストは1/3~1/5になるのではないか」(近CTO)として、通信帯域と信頼性を確保しつつコストを下げられるとアピールした。

なお、同社ではこうしたBBUの集中管理方式を「クラウド基地局」と呼んでおり、全国規模でこうした仕組みを導入するのは世界初だとしている。「既に当社が展開済みのネットワークのうち、データセンターに電源やスペースがないなどの理由でやむを得ず分散になっている場所を除き、95%はクラウド基地局になっている」(近CTO)。

各基地局のアンテナを制御する無線装置(RRH)。通常はアンテナのすぐ近くに置くが、WCPのAXGPサービスではアンテナ30~50カ所分のRRHを集約する。写真の機器は中国ZTE製で、ほかに中国ファーウェイ・テクノロジーズ製のRRHも展示していた
30~50カ所のアンテナを制御する無線制御装置(BBU)を1カ所にまとめ集中管理する。アンテナとBBUの間はNTT東西の光ファイバーを借り受ける
BBUを集中管理することで、アンテナ同士の干渉を大幅に減らせるとする。左図では通信速度の低い青い地点が散見されるが、BBUを集中管理した状態の右図では干渉による速度低下がほとんど見られない
Wireless City Planning(WCP) 執行役員 CTOの近義起氏

SoftBank 4G以外のMVNOは「ネットワークが広がってから」

WCPは既に、自社のAXGPネットワークを利用するMVNOを広く公募している。しかし当面は、グループ会社であるソフトバンクモバイルのSoftBank 4Gが唯一のMVNOとなりそうだ。ソフトバンクモバイル以外の事業者とのMVNO契約については、「具体的にいつ、何社がといったことは申し上げられないが、鋭意いろいろな方と交渉している。ネットワークがある程度広がらないと魅力的にならないので、時間がかかるかもしれない」(近CTO)との見解を示した。

(日経パソコン 金子寛人)

[PC Online 2012年1月18日掲載]

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