有害化学物質の全廃、透明性を重視
ファストリの新田グループ執行役員に聞く
編集委員 滝 順一
衣料品ブランドの「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは製造プロセスにおける有害化学物質の使用・排出を2020年までに全廃する方針を発表した。国際的に環境保護活動を手掛ける非政府組織(NGO)、グリーンピース・インターナショナルと連携して取り組む。その狙いや内容を同社で企業の社会的責任(CSR)を担当する新田幸弘グループ執行役員に聞いた。

――グローバル・サプライチェーンの全工程で有害化学物質の使用や排出に関し情報を開示し、達成目標を定めて全廃していく計画ですね。具体的にはどう進めるのですか。
「まず対象とする有害化学物質のリストアップを4月末までに実施する。これまで社内でつくってきた内部基準や法令による規制に基づきつつグリーンピースとも協議して決める。アパレルの競合他社の取り組みも参考にさせてもらう」
「次に情報開示だ。製品製造を委託している工場の生産工程や排水段階において、リストアップした化学物質の使用、保管、排出などの状況を確認しネットなどを通じて公表する。検査や情報公開などの仕組み自体がきちんと機能しているかを監査する仕組みもつくる。国際的な監査機関に依頼し第三者の目でチェックする」
――工場は中国をはじめ海外にありますが、その点が実施上の困難ではないですか。
「中国には(ユニクロ製品をつくる)サプライヤーが約70社ある。競合他社に比べてその数は少ない方だ。単純に生産を委託するのではなくいっしょに製品開発に取り組める企業と組んでいるからだ」
「また化学物質を扱うのは縫製工場ではなく、染色などで化学物質を使用する素材工場が主な対象だ。中国で大手の10社、中国以外のアジア諸国の10社の合計20社で当社の製品の約80%を占めており、今年の5月末までに中国の10社、6月末までに中国以外の10社の状況について情報を開示する」
「中国企業の大手サプライヤーはすでに社内の規則に基づき取り組んでいるところが多い。中国では近年、環境問題への関心が強い。社会の要請にこたえて、客観的でグローバルな基準に基づき透明な検査と公開の仕組みを発注者の責任で築いていく」
「生産段階だけでなく物流プロセスでの化学物質利用についても検査を厳格化する仕組みを別途つくっていかなくてはならないと思っている」
――繊維の洗浄剤に使うアルキルフェノールエトキシレート(APEO)と、水をはじく撥水(はっすい)加工用のパーフルオロカーボン類(PFC)の2種類の化学物質に関しては廃絶方針を明確にしました。代替できる物質があるのでしょうか。
「内分泌かく乱の作用が指摘されるAPEOに関しては今年6月末までにサプライヤーに対し全廃を求める。化学メーカーとの共同開発で代替物質のメドがついた。同様にPFCも代替物質の候補はあり、当社はそれを使えると考えているが、グリーンピースはより高い基準を掲げており協議中だ。16年7月の廃絶を目指す」
――グリーンピースとの連携はどのようなきっかけで始まったのですか。
「有害化学物質の全廃に向けて社内では07年からリストアップ作業を始め、工場に対して社内基準に従った使用の制限などを進めてきた。昨年8月にグリーンピースの報告書において当社の製品から有害化学物質が検出されたとの指摘を受け、話し合いを開始した。有害物質の使用をゼロにしたいという方向性は一致しており、経営のトップ判断で有害化学物質の全廃を目指すキャンペーンに協力することを決めた」
――世界の代表的なアパレル企業がグリーンピースと連携して動いていますね。
「H&Mやナイキ、プーマなどは連合を組んで取り組んでいる。当社は独自にしっかりした対策を講じ情報交換など必要があれば他社とも協力を進めていきたい」
――生産プロセスで有害化学物質を使わないことを商品に表示することは考えていませんか。
「取り組み状況はウェブサイトで公開するが、製品表示については何も決めていない。欧米の顧客は原産地や生産法などの説明責任を企業に求めることが多いが、これまで日本の消費者はそれほど敏感ではなかった。しかしこれからはどうか。安心して購入してもらうにはどうしたらよいか、手法は考えていきたい」
化学物質規制では欧州連合(EU)が厳しい基準を課している。ファストリではそれより厳しめの社内基準を持っていたそうだが、今回グリーンピースとの連携でさらにもう一段、厳しい目標を掲げて全廃に取り組むことになった。新田さんは「限界に挑戦しないといけない。さらに高いチャレンジをすることで新しい商品が生まれる」と話す。これは柳井正会長を含めた「トップのコミットメント(約束)」だそうだ。
同社のニュースリリースによると、全廃の対象にする有害化学物質にはAPEOやPFC類以外に、フタル酸エステル、臭素系及び塩素系難燃剤など11の物質があがっている。代替品開発や新しい生産プロセスの実現を通じて環境配慮に優れた製品を生み出すことがグローバル市場での競争力になるのだろう。
グリーンピースは過激な環境保護活動で知られるが、このところグローバル企業に環境志向を競わせ、産業界を動かす形の運動を展開しはじめている。その点も注目される。
※「エコロミスト群像」は今回で終わります。
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