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KDDI、"大盤振る舞い"の真相 固定連携で描く青写真

ジャーナリスト 石川 温

1月16日に、KDDIが「au発表会」を開催した。通例では「au新製品発表会」というタイトルだが、今回は「新しいau」を披露する場として位置づけた。急成長するスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)に固定通信を連携させたKDDIならではのモデルで、競合するNTTドコモとソフトバンクとの違いを明確に打ち出した。

社名を「au」に変更することさえ検討した

KDDIは新たな戦略を展開するにあたり、10年近く使ってきたauのロゴマークを刷新した。

新しい「au」のロゴを発表したKDDIの田中孝司社長

調査からauブランドに対して、消費者のうち特に若年層が「かっこわるい。魅力を感じない」といったイメージを抱いていることが分かっており、早急な対策が求められていた。

新しいロゴは筆記体をベースとしたもの。田中孝司社長は「これまでとは違って、(文字が)つながっている感じがいいでしょう」と紹介した。「つながっている」という言葉は、「ネットワークがつながりやすい」というところにもかけている。ロゴマークの刷新は発表当時は賛否両論があるもの。ネット上でも「前の方がいい」という声が少なくない。しかしNTTドコモのロゴ刷新もそうだったように、いずれ見慣れてくるだろう。

実はKDDIでは、企業カラーのオレンジを変更することや社名そのものを「au」に変更する案も検討したという。固定と移動体の両方を一体化するブランドとしてauを使うことはできても、法人向けなどで「KDDI」ブランドが定着していることなどから、結局auの社名採用は見送ったという。

今回の発表の目玉は、固定と移動体を融合させた新プラン「auスマートバリュー」だった。KDDIが提携するFTTHおよびCATVサービスとauのスマホ契約をひもづけることで、最大2年間月額1480円(2年経過後は月額980円)を割り引くもの。固定回線には最大10回線までひもづけることが可能で、4人家族がauのスマホに契約すると月額5920円の割り引きを受けられる。

固定回線を移動体販売の武器に

田中社長は、2010年の社長就任以来「3M(マルチデバイス、マルチユース、マルチネットワーク)戦略」を掲げてきた。今回の取り組みはまさに"KDDIらしさ"を発揮した戦略といえる。

これまでパートナー関係を結んできた全国のFTTH事業者やCATV事業者などと、スマホ時代なってさらに関係を強化。移動体と固定を組み合わせることで、誰もが魅力的に感じるサービスを築きあげた。

「スマホの通信料が高い」と不満を持つユーザーが多いなか、auスマートバリューで月額1480円が安くなるというメリットはかなり強いインパクトを持つ。米アップルの「iPhone」の販売競争で「安さ」をアピールするソフトバンクモバイルにも一矢報いた格好だ。

提携する固定通信事業者は、スマホという売れ筋商品を持つKDDIと組むことで、契約者増につなげられる。auスマホとのセット販売でCATV回線などを売るといった販売戦略も現実のものになる。

1回線あたり1480円を値引くことは、KDDIの「減収要因」ととらえられる可能性がある。「安易な値下げは携帯網の混雑につながるのではないか」という指摘もあった。しかし、今回の戦略はKDDIにとってメリットがはるかに多い。

まず考えられるのが第3世代携帯電話(3G)回線のトラフィックを緩和できること。「スマホユーザーが増える中で、通勤時間帯の都心部と夜間の住宅地のトラフィックが膨大に増えている。都心部は公衆無線LANスポット、住宅地はFTTHとCATV網で解消させていきたい」(田中社長)

小型の無線LANルーターを手に持つKDDIの田中孝司社長

多くのスマホユーザーが自宅でも3G回線で通信していることが、携帯ネットワークを混雑させる要因の一つになっている。固定網との連携により、安価かつ高速にスマホを使えるというメリットをユーザーに訴求できれば、トラフィックのオフロードが可能になる。

無線LANルーターを家庭内に設置することで「約40%のトラフィックが固定網に流れることがわかった」(KDDI経営管理本部の明田健司IR室長)。固定網につなぐユーザーが増えるほど、KDDIはモバイルネットワークにかかるコストを低減させることが可能になる。

移動体と固定とのセット割引は、NTTドコモは規制があって対抗できないが、ソフトバンクはADSLとのセットで対抗できる。KDDIはFTTHとCATVだけをセット割引の対象としADSLは対象外とした。「KDDIでもADSLを手がけているが、もう営業をしておらず、主力はやはりFTTH。ADSLではオフロード効果が見込めないため、auスマートバリューの対象から外した」(明田IR室長)。

ソフトバンクがKDDIに対抗するために、ADSLサービスとスマホのセット販売をしてくるかもしれない。他社の次の動きに注目が集まる。

「家族が同じ携帯会社」のメリットを再定義

家族内でのauへのシフトが加速する可能性も考えられる。「スマホを、CATVやFTTHと提携するauにすれば安くなる」という魅力を訴求できるからだ。今回の新プランは、ズバリ「家族」にターゲットに絞ったものといえる。

数年前までは、「家族で同じ携帯電話会社にすると、基本料が安くなる」というプランによって、家族をひとつの携帯電話会社にまとめることの利点が明確になっていた。しかしMNP(モバイル番号ポータビリティー)制度導入以降は、一人でも基本使用料が半額になるというプランが一般化。「家族が同じ携帯電話会社」であることのメリットが家族間の通話料金無料程度しかなくなってしまった。

そんななか登場した「auスマートバリュー」は、家のFTTHまたはCATVサービスがauと提携していれば、auのスマホを選ぶだけで得になるよう設計されている。月額にして1480円だが、家族4人で2年間で計算すると総額14万2080円にもなる。一人でもauに乗り換えればそれだけでも、2年間で3万5520円安くなる計算。スマホの料金が高いといわれているなか、「みんなauにすれば、それだけ安くなる」というメリットは計りしれない。

スマホのラインアップ充実も効果的

KDDIが発表したスマートフォン新製品5機種

ここで効いてくるのが、auのスマホラインアップに他社の人気ブランドがそろったことだ。昨年10月のiPhone取り扱い開始に続き、今回の発表会ではソニー・エリクソンの「Xperia acro」の後継機種に加え、NTTドコモで人気の韓国サムスン電子「GALAXY」、さらには韓国LG電子「optimus」といったグローバルブランドを並べている。

ソフトバンクのiPhoneユーザーや、ドコモのXperiaやGALAXYユーザーは、auに乗り換えたときに、これまでの操作性や利便性を損なうことなく同じブランドのスマートフォンを選べて、なおかつパケット料金を安くできる。従来型携帯電話(フィーチャーフォン)のころとは異なり、スマホでは携帯電話会社に縛られたサービスがほとんどなく、携帯電話会社を乗り換えやすい。スマホユーザーが増えている今だからこそ、「auスマートバリュー」のメリットが生きてくるのだ。さらに「INFOBAR」の新モデルやモトローラ・モビリティーの「RAZR」といったau限定の端末も用意している。

"大盤振る舞いな値引きは、KDDIにとって減収要素になるのではないか"、と今回の戦略を不安視する声もある。これに対し明田氏は「減収になることはしない」と明言し、販売現場でのメリットを明らかにした。

「現状、FTTHサービスを売るときに、販売店に奨励金が支払われている。販売店はその奨励金を原資にパソコンや他の家電商品とセットにして、回線を販売している。これは本来の奨励金が別のもの使われてしまっている状態。auスマートバリューは、その原資をauスマホに割り当てる」――。

パソコンを安く買うためにFTTHサービスに契約する消費者がいると、KDDIの回線は増えるものの奨励金はパソコンの値引きに使われることになり、KDDIとしての効果は希薄になってしまう。FTTHサービスを売る際にauスマートバリューで契約者をとれれば、FTTH回線だけでなくスマホ回線が売れて、ユーザーがauスマホを使って購入するコンテンツ決済代行手数料やコンテンツ販売でも稼げるようになる。

国内の総世帯数である約4900万のうちau利用世帯は約1400万で、auスマートバリュー対象事業者の利用世帯は約910万ある。au利用世帯でかつauスマートバリュー対象事業者の利用世帯は約270万あり、この世帯数分は減収につながる可能性がある。このため今後の課題は、新規のau利用世帯と固定網利用世帯を増やすことになる。

田中社長はよく「ゲームチェンジ」という言葉を口にする。モバイル中心の回線数を増やすこれまでのビジネスモデルから、固定回線を含めてARPU(1人当たり平均月額利用料)を引き上げるモデルへと脱却を図ろうとしているのだ。

自ら「スマートな土管屋」の姿を提示

KDDIはさらに「スマートパスポート構想」を掲げ、ひとつのID(現「au one ID」。3月1日から「au ID」)の下でauスマートバリューと、アプリ取り放題のサービスやストレージ機能などを月額390円で提供していく「auスマートパス」を組み合わせる。auスマートパスの第1弾はスマホ限定だが、将来的にはタブレットやテレビなどに対象デバイスを拡げる計画がある。

ひとつのIDを使い、スマホやテレビ、タブレットがつながる世界は、まさに先週米国ラスベガスで開催された家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」で紹介されていたモデルに近い。サムスン電子やLG電子などは「スマートテレビ」として、テレビにスマホやタブレットが連携するモデルを提案していた。ここではデバイス間の連携が簡単かつスムーズにとれるかが、成長の鍵となる。

米国では、テレビ局などのコンテンツ制作側がインターネット展開に積極的なため、メーカーも対応製品を作りやすい。グーグルやアップルというスマホで先頭に立つ企業もテレビへの進出を模索している。

IDを中心にスマートフォンやタブレット、テレビを連携させようとするauのスマートパスポート構想は、米国企業が模索するトレンドに近いと感じられる。ただ米国の図式をそのまま日本に持ってきても、「日本のテレビ局が消極的」ということもあり、成功は難しい。しかしKDDIは音楽配信サービスなどで日本のコンテンツ業界に強いパイプを持つ。日本でスマートフォンとテレビを融合させるには、KDDIのように通信事業者の立場にいる企業が最も適しているように思う。

モバイルとFTTH、CATVといった通信サービスを抱え、さらにコンテンツ業界にも顔が利くKDDI。このポジションをスマートパスポート構想で昇華させ、新たな成長につなげることが重要だ。

スマホ時代に通信会社は、通信回線を提供するだけの「土管屋」になってしまうという危機感を募らせている。今回は、新しいauとして「スマートな土管屋」としてのあり方を自ら提示したように見えた。

石川温(いしかわ・つつむ)
 月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著に「スティーブ・ジョブズ 奇跡のスマホ戦略」(エンターブレイン)など。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

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