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百貨店系高級スーパーがディスカウント店に Pマートの実力

消費者の節約志向が強まるなか、低価格をウリにした価格訴求型スーパーマーケットが脚光を浴びている。イオンなど大手GMS(総合スーパー)も低価格スーパー「ザ・ビッグ」を多店舗化。既存の格安スーパーに対抗し、ディスカウント市場に攻勢をかけている。

競争が激化するなか、本格展開に乗り出したのが、Jフロントリテイリング傘下のピーコックストアだ。「大丸ピーコック」などスーパーマーケット84店を関東・関西・中部地区で展開する同社は2009年4月、大阪府吹田市の大丸ピーコックをディスカウントストア「Pマート」に業態転換。当初は実験店に位置付けていたが、ローコスト経営のビジネスモデルにメドがついたことから、多店舗化に乗り出す。

大丸松坂屋百貨店のグループ会社として百貨店のイメージを継承する高級スーパーが、低価格市場に参戦した理由と戦略を追った。

節約志向の強い団塊ジュニア世代に照準

阪急山田駅から徒歩約5分。Pマート山田店は万博記念公園のすぐ西側に立地し、大阪のベッドタウンとして発展してきた千里ニュータウンにも近い。ホームセンターのコーナンとマクドナルド、古本店が隣接するロードサイド型食品スーパーだ。近隣には、イカリスーパーや阪急オアシス、イオンなど高級スーパーからディスカウントまでが進出。北摂エリアのなかでもスーパー激戦地といえる。

ディスカウントストアへと転換したのは、至近に強力な競合店が出店したのがきっかけだ。2003年11月、阪急山田駅前に複合商業施設「デュー阪急山田」が開業。ユニクロやトイザらス、スポーツオーソリティ、ブックファーストといった専門店に加え、核テナントとしてイオングループの食品スーパー「コーヨー」が進出してきた。それに伴い、新築高層マンションが建ち、住民も増加したが、コーヨーの出店はピーコックにとって大きな痛手になったという。

「駅前に顧客が奪われ、売り上げが年々厳しくなっていった。消費の二極化が進んでいることもあり、節約志向に対応して業態転換した。ディスカウントストアは、郊外のロードサイドという立地特性にも合っている」と、Pマート山田店の岡林久義店長は語る。

ピーコックから業態転換するにあたり、同店では中心ターゲットを生活防衛意識の高い団塊ジュニアに設定。年齢は30~40代で年収500万円以下、40~60代で年収500万円以上をターゲットとするコーヨーやほかのスーパーと差別化を図る戦略だ。実際に来店する客層は、もともとの顧客だった60代以上に次いで30代が多いという。

商圏はスーパーマーケット業態より広い2キロ圏内を設定。幹線道路沿いでクルマによるアクセスが良いことから、土日にクルマで訪れる客が多い。万博公園など周辺施設の利用者が来店するのも大きな特徴だ。

ワケあり、型落ち…大量仕入れで原価を抑えた特価品で差別化

Pマート山田店を訪れて、まず驚かされるのが安さだ。ディスカウントストアだから当たり前のことだが、ここが大丸ピーコックだったと思うと、価格のギャップから来るインパクトは大きい。従来のピーコックに比べると、価格は1~2.5割ほど安く設定されている。

ピーコックとの大きな違いは、EDLP(Every Day Low Price)を掲げていること。つまり「毎日がお買い得」の商品が品ぞろえの基本になっている。例えば、モヤシが19円、木綿・絹ごし豆腐が48円。そば・うどんも28円と、節約生活に欠かせないアイテムを毎日、他店よりも低価格で提供する。さらに、98円の漬物・菓子・飲料や、88円の野菜・アイスクリームなど均一商品が充実しているのも特徴。安さだけでなく、品ぞろえの豊富さもアピールしている。

従来店にはなかったのが「ワケあり商品」や「型落ち品」などの特売品。賞味期限間近のものや切り餅などシーズンオフ商品を大量仕入れで原価を抑え、メーカー希望価格の半値からそれ以下で販売する。こうした特売品が同店では売り場の約3分の1を占める。

「他店であればエンド(棚什器の端のスペース)で販売するようなものを、スペースを取って展開している。ターゲットの顧客に喜んでもらうのが品ぞろえのポイント。探す楽しみを提供し、お得感を感じてもらうことでリピーターになってもらえる」(同)。

同社では、基幹店舗の品ぞろえについて「こだわり2、ボリューム6、価格訴求2」を基本にしている。それに対して、同店では「ボリューム6、価格訴求4」で構成。旧店舗で約7000品目あった商品を約3800品目まで絞り込み、回転率の高い生活必需食品を中心にそろえる。さらに、ワケあり商品などの一括仕入れや新規メーカーとの取引、店舗直納などで価格訴求の比率を増やしている。

陳列の工夫で作業を効率化し、低コスト運営を徹底

薄利多売のディスカウントストアとはいえ、同店では3~5%の営業利益率をめざしている。仕入れ方法の工夫により原価を抑えたとしても、旧来店舗のままの態勢やオペレーションでは利益は出ない。販売管理費をいかに削減するかは、低コスト経営の根幹にかかわってくる。

そこで、従業員を29人に減らし、人件費を約2割削減。陳列の工夫などで作業の効率化を図り、従来より少ない人員で売り上げを伸ばす仕組みを整えた。パート従業員を有効活用する態勢づくりも行っている。

例えば、売り場にないはずの物流用コンテナや品出し用カート、梱包用段ボールが什器代りに使われている。さらに、通常はバックヤードで保管される在庫が棚什器の上に置いたまま。入荷時の状態のまま島陳列したり、ショーケースに定番商品を大量陳列したりなど、大丸ピーコックではあまり見かけない光景だ。店頭在庫の大半を売り場で管理することで、品出しの時間を短縮化している。単品の大量陳列は商品のボリューム感を演出することにもつながるという。

当然、広告宣伝費も削減している。集客の手段となるチラシの配布回数を月2回に減らし、ポイントカードも廃止。広告宣伝費は以前の半分以下に抑えられている。ほかにも、2カ所の冷蔵庫を1カ所に集約したほか、売り場の天井照明を一部消灯するなど低コスト運営を徹底する。この結果、対売上高営業利益率は3%台に達した。さらにコスト削減を図り、「最終的には5%まで高めるのが、今後の目標」(同)という。

PB台頭、コンビニ生鮮、食品宅配―― 低価格だけでは生き残れない

オープン以降の売り上げは、毎年2ケタ増で伸びているという。ただし、1年目は前年比15%増と大きく伸ばしたものの、利益が出ずに苦戦。2年目で赤字を解消し、3年目は震災特需で生活必需品が売れ、新規客が増えた。今年度上期はややペースダウンしたものの、利益率は3%を確保。下期は、6月1日にオープンした兵庫県灘区の「Pマート甲南店」と合わせて、売上高で前年比25%増を見込む。

郊外立地の山田店と異なり、甲南店は都心の人口密集地で、激安店の競合が多い。そのため「こだわり」の商品も一部取り扱っている。「今後は、競合や市場特性、立地条件に合わせて品ぞろえを変えていく方針」と岡林店長。同社の計画では、年内に首都圏と関西の不採算店4店をディスカウントストアに業態転換する予定だ。その後は新規出店も視野に入れ、関東にも拡大していく。

ただ、ディスカウント市場も競合が激化している。イオン、セブン&アイ・ホールディングスといった流通大手が、PBを武器にした小型スーパーやディスカウントストアを多店化。コンビニが本格的な総菜を展開し始め、ホームセンターや100円ショップでも保存食品を販売している。価格の二極化を背景に、業種を超えた顧客争奪戦が始まっている。

Pマート山田店がある北摂エリアでも、今年春、快進撃を続けるディスカウントスーパーのサンデーが進出した。

「ネット通販や食品宅配なども既存業態にとっては脅威の存在。そのためにも、3年に一度は品ぞろえ、価格を見直す必要がある」と岡林店長。企業の規模や商品の安さだけでは生き残れない下剋上の時代。百貨店系低価格業態がどこまでシェアを拡大できるか。

(ライター 橋長初代)

[日経トレンディネット2012年7月30日掲載]

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