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半世紀ぶり地上に姿、渋谷に復活するか「春の小川」

ケンプラッツ
東京・渋谷駅周辺の再開発に伴い、2014年春、渋谷駅東口駅前広場の地下を北から南に流れる「渋谷川」の暗渠(あんきょ)が半世紀ぶりに地上に姿を現した。かつて渋谷川に流れ込んでいた支川は、唱歌「春の小川」のモデルともいわれる。再開発によって、現在はほとんど水がなく干上がった渋谷川に清流を復活させ、川沿いに新たな水辺空間を創出する。

渋谷川は、JR渋谷駅のすぐ東側を"最上流"とする長さ約2kmの二級河川だ。下流で名前が古川に変わり、長さ約4kmの開水路を通って東京湾にそそぎ込む。渋谷川のうち、バス乗り場などがある東口駅前広場を横断する250mほどの区間は、長らく暗渠となっていた。

2014年1月、この暗渠の内部を目にすることができるとちまたで話題になった。暗渠の蓋として架けられていた桁の一部が撤去されたからだ。

[左]蓋が撤去され、姿を現した渋谷川の暗渠。渋谷駅の東口駅前広場を南側から見る。2014年3月撮影(写真:赤坂麻実) [右]東口駅前広場を、広場の東側に建つ「渋谷ヒカリエ」から見下ろす。写真左端の緑色のネットが掛かった部分で、渋谷川の暗渠の蓋を撤去していた。2014年4月撮影(写真:山崎一邦)

この工事は、「駅街区開発計画」で実施しているものの一つ。同計画は都市再生特別地区の再開発事業として東急とJR東日本、東京メトロが東京都に提案し、都が2013年6月に都市計画決定した。

この再開発事業によって、渋谷駅の東口には高さ約230mの駅ビルとなる東棟が建つ。渋谷川は暗渠区間を現在よりも東側に移設し、駅前広場の地下に雨水の貯留施設を設ける。

駅街区開発計画の完成パース。渋谷駅を北側から見る。東棟の高さは約230m(資料:東急)

「東口アーバンコア」を水路が横断

移設する渋谷川の水路は、東棟と地上部、2013年3月に地下化した東急東横線の地下駅などを垂直につなぐ「東口アーバンコア」のそばを通る計画となっている。エスカレーターやエレベーターといった上下の動線を設ける東口アーバンコアの地下1階付近を水路が横断する。

再開発で計画する渋谷駅東口の断面図。東口アーバンコアのそばを渋谷川が流れる(資料:東急)

水路の構造は鉄筋コンクリート(RC)造のボックスカルバートで、内空断面は幅が約10m、高さが約4m。この水路への切り替えは2015年4月ごろを予定している。

2009年時点の渋谷川(左)と今後東側に移される渋谷川の流路(右)。東口駅前広場の地下には雨水の貯留施設も設ける(資料:渋谷区の資料にケンプラッツが一部加筆)

切り替え前の渋谷川は、東口駅前広場のほか東急百貨店東横店東館の地下1階部分を流れていた。東京都建設局河川部によると、渋谷川の流路を変更するのは「再開発の工事に支障がないようにするため」だ。

暗渠であり、かつ平常時に水流がない現状に合わせて、移設する約250mの区間は河川から下水道に法的な位置付けを変える。東京都は2009年6月に都市計画変更を決定。同区間の渋谷川について、都市計画河川の指定から外した。

東京都は、流路を切り替えた後のできるだけ早いタイミングで、管理を都の建設局河川部から下水道局に引き継ぐ。雨水の貯留施設などと組み合わせて、総合的な治水対策を講じる。

東口駅前広場の地下に設ける雨水の貯留施設は、RC造で平面が約20m×約50m、深さが約25mの大きさ。最深部が地下を通る東急東横線の軌道とほぼ同じ位置となるようにつくる計画だ。集中豪雨などで1時間に75mmの雨が降っても、雨水を一時的にためることで、渋谷駅周辺の地下街などが浸水しないようにする。

上流が下水道となり川が干上がる

元々の渋谷川は、渋谷駅から3kmほど北側にある新宿御苑の湧水などが水源。渋谷駅のすぐ北側で支川と合流した後、東口駅前広場のある場所を南に向けて流れていた。

合流する支川の一つが唱歌「春の小川」のモデルといわれる。かつて小川が流れていた小田急小田原線の代々木八幡駅近くには歌碑が残っている。

[左]渋谷駅から北西に1.5kmほど離れた小田急代々木八幡駅付近にある「春の小川」の歌碑 [右]JR渋谷駅の北側にある宮下公園自転車等駐車場。地下にかつて渋谷川だった暗渠があり、「渋谷川遊歩道」の看板が立っている(写真:いずれも山崎一邦)

その後、渋谷川は都市化の波にのまれていく。まず1934年、渋谷川の上をまたぐように、渋谷駅の東口に東急百貨店東横店東館(当時は東横百貨店)が開業した。

1964年の東京五輪を契機に、都市開発は一気に加速する。渋谷川は1960年から1970年ごろにかけて、東口駅前広場から上流側が支川を含めて暗渠となった。さらに、渋谷駅から300mほど北側にある宮下公園交差点付近から上流は河川から下水道の扱いに変わるとともに、雨水などは渋谷川と並行する明治通りの地下に敷設した下水道幹線を流下するようになった。

上流の下水道化に伴って、宮下公園交差点付近には分流堰を設置した。このため、分流堰より下流側にある渋谷川の水流は途絶。豪雨などで下水道幹線では処理しきれない大量の水が流れ込んだときだけ、分流堰を越えた水が渋谷川を流下するようになった。

平常時の渋谷川は現在、ほとんど水流のない状態だ。こうした経緯は田原光泰氏の著書「『春の小川』はなぜ消えたか」(之潮刊)に詳しい。

高度処理した下水で川の流れ復活

並木橋の下にある高度処理水の放流口。写真中央にある矩形の放流口から、1日当たり約2万m3を放流する(写真:山崎一邦)

長らく水の流れなかった渋谷川だが、1995年3月に水流が復活した。渋谷駅東口駅前広場から500mほど南にある並木橋付近に下水の高度処理水を放流し始めたからだ。渋谷川の同橋から下流側に水が流れるようになった。

これは東京都の清流復活事業によるもの。水を失った河川や用水路に水流を復活させる。

高度処理水は、東京都新宿区にある「落合水再生センター」から供給している。並木橋付近の護岸に設けた放流口から、1日当たり約2万m3(立方メートル)を放流している。ただし、並木橋より上流側に恩恵はなく、豪雨時以外はほとんど干上がった状態が現在も続いている。

護岸の壁伝いに水を流す

渋谷駅周辺の再開発の一つとして現在、JR渋谷駅よりも南側の渋谷川沿いのエリアで「渋谷駅南街区プロジェクト」が計画されている。同プロジェクトは、都市再生特別地区の再開発事業として東急が提案。東京都が2013年6月に都市計画決定した。

渋谷駅周辺の再開発の動向。図中の丸数字「2」がJR渋谷駅の位置、「4」が渋谷駅南街区プロジェクト(資料:渋谷区)

同プロジェクトでは、今でもほとんど水流のない渋谷川の並木橋から上流側に水辺空間を創出する。そのために今後、下水の高度処理水を放流するための管路を、並木橋から500mほど上流側に移設。護岸の壁伝いに高度処理水を流す「壁泉」と呼ばれる水景施設を整備する計画だ。

さらに、渋谷川をまたぐように2カ所の広場を整備して、イベントなどにも活用する。渋谷川沿いの600mの区間には遊歩道を設けて高木を植えたり、ツタで護岸を緑化したりする。

[上]渋谷川の護岸の壁伝いに水を流す「壁泉」の完成パース [下]渋谷駅南街区プロジェクトで、整備する渋谷川に関連した施設。図の上が東で、渋谷駅は左方向に位置する(資料:いずれも東急)

メダカやコブナの復活は難しい

清流復活事業に供給する下水の高度処理水は、沈殿処理や微生物を利用した反応処理といった通常の下水処理に加え、紫外線を使って殺菌処理したものとなる。「春の小川」の歌詞に出てくるメダカやコブナが泳ぐには、水質の問題はなさそうだ。

しかし、計画している放流量は1日当たり約2万m3で今と変わらず、メダカやコブナの復活には水量が足りそうもない。

護岸がコンクリートの3面張りとなった現在の渋谷川を北側から見る。写真の主に右側が渋谷駅南街区プロジェクトの対象エリア。左端は明治通り(写真:山崎 一邦)

渋谷区も清流の復活とはいえ、メダカやコブナが泳ぐ小川の実現までは想定していない。

まずは、水が流れる渋谷川沿いに、歩行者が快適に通行できる遊歩道を設ける考えだ。豪雨時の安全などを確保するため、歩行者が直接、渋谷川の水に触れることのできる親水空間の整備も難しいとみている。

都市再生特別地区では、地域のまちづくりの考え方と整合することなどを条件に、地域再生への貢献度に応じて容積率などが緩和される。渋谷駅南街区プロジェクトでは広場などの整備によって、容積率が現在の平均716%から1350%に緩和される。

川の再生をきっかけに賑わい創出

渋谷駅南街区プロジェクトにおいて、東急は計7棟のビルを建設する。2013年3月の地下化によって不要となった東急東横線の高架橋を生かして、国道246号の上空に渋谷駅と南街区とをつなぐ歩行者専用の横断デッキを整備することにしている。

[上]国道246号の上空に架かる旧東横線の高架橋(写真中央)。この高架橋を生かして、渋谷駅と南街区とをつなぐ歩行者専用の横断デッキを設ける 。最も上空に架かるのは首都高速3号渋谷線(写真:山崎一邦) [下]国道246号を横断する歩行者専用デッキの完成パース(資料:東急)

渋谷川の右岸には、旧東横線の高架橋の跡地がある。2014年4月末時点で高架橋の撤去をほぼ終えた状態だ。渋谷駅南街区プロジェクトは、都市計画決定した2013年6月時点で2018年3月末までが工期となる。一方、駅街区開発計画に位置付けられ、東口アーバンコアなどを設ける東棟は2020年の開業を予定する。

韓国ソウル市は2005年、暗渠だった清渓川(チョンゲチョン)を開水路の川に復元し、地下水などの放流を始めた。その結果、多くの人が訪れる観光資源となっている。渋谷川の水辺空間も、新たな賑わいの創出が期待される。

[左]東急東横線の高架橋があった跡地。橋脚などの撤去はほぼ終わっている。写真左側が渋谷川。4月上旬撮影 [右]さらに南側では、旧東横線の高架橋が残っていた。4月上旬撮影(写真:いずれも山崎一邦)

(フリーライター 山崎一邦)

[ケンプラッツ2014年5月7日付の記事を基に再構成]

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