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いす好きを刺激する羽田空港

建築好きには、いす好きも多い。人が座ったり寝転がったりという機能は、建築もいすも同じだからかもしれない。

そんないす好きにはたまらない空間が東京都内に一つ増えた。羽田空港の第2旅客ターミナルビルにある商業エリア「UPPER DECK TOKYO(アッパー・デッキ・トーキョー)」だ。世界中のブランドから集めたおよそ200種類のいすが並ぶ。

羽田空港といえば、2010年10月21日にオープンした国際線旅客ターミナルビルが注目されがちだが、国内線の第2旅客ターミナルビルも南側の増築部分が10月13日にオープンし、広さが約2倍になった。UPPER DECK TOKYOは、増築した出発ロビーの吹き抜けに張り出すようにできた長さ約100mの細長い空間だ。

いすの中には、イームズのラウンジチェアやジョージ・ネルソンのマシュマロソファ、柳宗理のバタフライスツールといった美術館が所蔵するような「名作」もそろう。購入すると1脚数十万円もする高価ないすも少なくない。

UPPER DECK TOKYOは、誰でも自由にくつろげるのが特徴だ。空間全体がリビング・ダイニング・キッチンのようになっている。壁側にはテイクアウト型の飲食店を配置。お気に入りのいすに座って、出発ロビーを見下ろしながら食事や打ち合わせなどができる。

3階にあるUPPER DECK TOKYOの成否は、2階の出発ロビーを慌ただしく行き交う人を呼び込み、飲食店の売り上げを伸ばせるかどうかにかかっている。ビルを運営する日本空港ビルデングがあえて名作に投資したのは、客の呼び水ならぬ「呼びいす」としての効果を期待したからにほかならない。

日本空港ビルデングから依頼を受けてUPPER DECK TOKYOのデザインを監修したのは、NAP建築設計事務所代表の中村拓志氏。全体を4つのゾーンに分け、各ゾーンのテーマに合うように、構造やデザインの似たいすを選んだ。

例えば、すし店やうどん店の近くは「ジャパニーズ・ゾーン」として設定。日本のデザイナーやブランドが手掛けた木製家具などを中心に置いた。

見上げるとゆらゆら動く換気窓

UPPER DECK TOKYOには、建築好きのための見所がもう一つある。

いすに座って、出発ロビーのハイサイドサッシに視線を移す。そこには、ゆらゆらと開いたり閉じたりする自然換気窓がある。第2旅客ターミナルビルを設計した松田平田設計・NTTファシリティーズ・シーザーペリJV(共同企業体)が、増築部分で新たに採用した。

自然換気窓は、回転窓にバランスウエートを取り付けて回転軸の位置を上または下に偏心した仕組み。バランス式逆流防止窓とも呼ばれる。

例えば、バランスウエートと回転軸を上側に寄せると排気タイプの自然換気窓となる。室外が風下のときや無風のときは、バランスウエートの重みによって窓が自然と開き、室内の天井近くにたまった熱だまりを室外に排気する。逆に、室外が風上で外気が室内に吹き込むようなときは、窓が風圧を受けて自然と閉じる。室内の熱だまりがかき乱されない。

バランスウエートと回転軸を窓の下側に寄せると、排気タイプとは逆の機能を持った給気タイプの自然換気窓となる。

複数の自然換気窓を組み合わせると、新鮮な外気を室内に取り入れたり、室内の熱だまりを室外に排気したりして効率良く置換換気できる。その結果、空調の負荷を減らせる。1990年代半ばに体育館や工場で採用され始め、近年は学校やオフィスビルなどでも次第に使われるようになった。

UPPER DECK TOKYOでイームズに座り、コーヒーを飲みながら、風で揺れる窓を眺めて建物の息遣いを感じる――。こう言いたいところだが、実際の自然換気窓はこぢんまりしていて、動きを観察できる程度。窓に気が付かない人も多いだろう。

無論、設計者は客を呼び込むための仕掛けとして、自然換気窓を設置したわけではない。しかし、せっかくの動く窓だ。動けば目立つ。うまく工夫すれば、名作のいすと同様に客を集める「呼び窓」にできたかもしれない。

どうすれば自然換気窓を「呼び窓」に昇華できるか。そんなことを考えながら、出発前のひと時を過ごすのも一興だ。

写真で見るUPPER DECK TOKYOの名作いす

イームズラウンジチェア(Eames Lounge Chair)は米国のデザイナーであるイームズ夫妻が1956年にデザインした。ネルソンマシュマロソファ(Nelson Marshmallow Sofa)は当初、安価なソファを目指して開発したものの、製作するうちに張り地などが必要となり高価になってしまったという逸話がある。

柏戸イスは山形県出身の元横綱、柏戸に寄贈したことから名前が付いた。杉の根元の荒々しい木目を選び、積み重ねている。

バタフライスツール(Butterfly Stool)は2枚の板を左右対称に組み合わせてチョウが飛ぶようなデザインに仕上げた。クリップチェア(Clip chair)は折り畳み式になっている。

マイア(MAIA)は、ポリエチレン製のコードを編み上げたスイングチェアだ。

マルケッティ(Marchetti FG 622)はイタリア、マルケッティ社製の2人掛けのカウチ。ウォールナットの無垢(むく)のフレームが印象的。

出発ロビーには、カッシーナ・イクスシーに特注した12人掛けのソファを置く。

(日経アーキテクチュア 瀬川滋)

[ケンプラッツ 2010年11月15日掲載]

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