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小資源国のレッテル剥がせるか、「燃える氷」の夢と現実

日本近海で、新エネルギー資源として期待される「メタンハイドレート」から天然ガスを商用生産するための開発が活発化している(図1)。2013年3月、独立行政法人JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は、愛知県の渥美半島沖の海底にあるメタンハイドレートから天然ガスの生産に成功した(図2)。

図1 実験生産の様子。地球深部探査船「ちきゅう」を使っており、右端の突起部に生産したガスを燃やすバーナーがある(写真:JOGMEC)
図2 実験地点と、メタンハイドレートの存在を示すBSR(海底擬似反射面)の分布。今回の実験地点付近の海域だけで、日本の2011年におけるLNG輸入量の約11年分の天然ガスを含むメタンハイドレートがある(図:経済産業省)

2013年4月からは、新潟県の佐渡島周辺など日本海沖での生産を目指した調査を始める。現在、国内の天然ガス生産は、消費量に対してわずか3%と輸入に依存している。埋蔵量は、日本近海の比較的採取しやすい場所だけでLNG(液化天然ガス)輸入量の5.5年分と見られている。メタンハイドレート開発は、国産天然ガスの安定的供給のみならず、海洋での資源開発という新しい海洋産業の創出につながる可能性がある。

日本政府は2013年4月、今後5年の海洋政策の柱となる「海洋基本計画」の原案を公表した。ここでは、メタンハイドレートについて「2018年度をメドに商業化の実現に向けた技術整備を行う」と早期実用化を強調。メタンハイドレート開発を通して、「新たな海洋産業の創出」を掲げている。

メタンを含む氷状物質

「ハイドレート(hydrate:水和物)」は、水分子で構成されるカゴ状の結晶構造をしている。このカゴ内に別の分子を取り込める。メタンを取り込んだハイドレートが「メタンハイドレート」である。

図3 生産したガスを燃やしているバーナー(写真:JOGMEC)

メタンハイドレートは「燃える氷」と呼ばれることもある(図3)。人工のメタンハイドレートは白くて冷たい氷のような物質で、火を近づけると燃えるからである。メタンハイドレートが包含するメタンは、天然ガスや石油と同じく植物や動物に由来する有機物からできており、都市ガスの90%以上はメタンを利用している。

メタンハイドレートの魅力は、メタンの採取効率が高いことと、天然ガスなので石油や石炭に比べて「クリーン」なエネルギー資源であること。例えば、1m3(立方メートル)のメタンハイドレートを分解させると、160~170m3(0℃、1気圧の条件)のメタンガスが得られる。燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出量は、石炭の約半分、石油の7割程度と少ない。

メタンハイドレートは、低温高圧下で存在する。例えば1気圧でマイナス80℃以下、10気圧でマイナス30℃以下、100気圧では12℃以下が、存在するための条件となる。自然界では、北極圏や南極圏などの永久凍土層や数十気圧がかかる深海の水底に埋蔵の可能性がある。

石油や通常の天然ガスは、地下および海底2000~4000mに存在するが、地中深くは高圧だが地熱で高温になるのでメタンハイドレートは存在できない。日本近海で、メタンハイドレートの埋蔵が確認されているのは、水深数百mの海底である。

探査にハイテク船や高精度センサー

メタンハイドレートの埋蔵場所を特定する方法は、石油探査の方法と原理的に同じだ。石油探査では、埋蔵している可能性のある場所に振動を与え、周囲に設置した振動センサー(加速度センサー)で反射波を拾う。この反射波を分析して地底の様子を推定する。

振動センサーには、比較的高価な「MEMS(微小電子機械システム)」という技術で加工されたセンサーが使われている。メタンハイドレート探査によって、こうした高精度なセンサーの応用が広がる可能性がある。

図4 ガス生産部の概念図。仕上げ区間に減圧法を適用している(図:経済産業省)

天然ガスの回収方法については、いくつかの方法がある。2013年3月の渥美半島沖での生産では、海底から採取したメタンハイドレートから、安定的かつ継続的に水とメタンを分離した。分離には「減圧法」と呼ばれる手法を使った(図4)。地底あるいは海底の高圧状態から一気に圧力を下げて分離を促す手法だ。

4月からの日本海での調査では、海底の比較的浅い地層のメタンハイドレートから天然ガスを安価に回収することを狙う。4月5日に経済産業省が開催した「メタンハイドレート開発実施検討会(第24回)」では、無人潜水調査船などを使って地質・地形を調査することが明らかになった。無人潜水調査船は、HD(高精細)カメラ、ロボットアーム、観測機器などを搭載するハイテク船だ。

シェールガスもライバル、コスト低減が課題

メタンハイドレートから天然ガス(メタンガス)を回収するコストは、すでに公開されている将来見通しでは、直近の天然ガス価格よりも高い。メタンハイドレート資源開発コンソーシアムによると、2007年までに試算した生産コストは、比較的深い層に存在するメタンハイドレートから産出する場合に1m3当たり46円~174円だった。ここ数年での日本における天然ガスの市場価格は、1m3当たり10円~30円前後である。

海底表層から産出する場合には、この試算よりコストを抑えられるとの見方はある。またメタンハイドレートの本格的な商業化を目指している約10年後のガス価格は、現時点では見通せない。しかし、生産コストを引き下げる技術が「メタンハイドレート産業」の競争力を左右することは間違いない。

コストが重要になる背景には、頁岩(けつがん=シェール)層と呼ばれる硬い岩盤に含まれる「シェールガス」の開発が米国などで進んで、天然ガスの国際価格の引き下げ要因となっていることがある。シェールガスを日本に輸入する場合には、LNG化する液化設備が必要であり、さらに輸送コストがかかるため、国際価格がそのまま即座に日本市場での価格に反映されるわけではない。それでも長期的にはメタンハイドレートのライバルとなり得る。

将来的に、採算に見合うコストでメタンハイドレートから天然ガスを回収する技術を開発することに成功した企業は、海外でのメタンハイドレート開発事業にも参画しやすくなる。政府は事業化を支援し、メタンハイドレート開発を海外展開が可能な「大型インフラ産業」として推進していく狙いである。

(Tech-On! 三宅常之)

[Tech-On!2013年3月14日の記事を基に再構成]

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