右肘靱帯の修復手術、ヤ軍・田中は避けられるか - 日本経済新聞
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右肘靱帯の修復手術、ヤ軍・田中は避けられるか

ヤンキースに激震が走った、といっても過言ではない。メジャー最多の12勝を挙げ、投手陣をけん引してきた田中将大(25)が8日のインディアンス戦後に右肘の痛みを訴えた。磁気共鳴画像装置(MRI)検査の結果、「右肘内側側副靱帯の部分断裂」と診断された。リハビリには6週間かかり、リハビリがうまくいかなかった場合には手術も選択肢に入ってくる。手術になれば、通称トミー・ジョンといわれる靱帯の修復手術になるだけに心穏やかではないだろう。

マット・ハービーとの共通点

真っ先に思い浮かぶのはマット・ハービー(メッツ)のケースだ。1989年3月生まれの25歳、日本なら田中と同学年に当たる投手だ。2012年後半に彗星(すいせい)のごとく登場し、13年オールスターの先発マウンドにも立った。地元ファンが誇れる数少ない期待の星が昨年8月24日の試合後、右肘の痛みを訴え、靱帯の部分断裂が判明した。

しょげかえりながらも「リハビリで戻る」と繰り返したハービーだったが、2カ月後に手術した。現在、来季開幕を目指してリハビリの最中だ。

ハービーは言う。「(少々の違和感や疲労について)投手は皆そんなもんだと思った。ましてや僕の場合、7月からあった違和感は前腕部、手首に近いあたり。それ以外はいつも通りだったから」

田中とハービーには共通点がある。それぞれのチームで好成績を挙げ、彼らへの依存度が非常に高かった。しかもデビューして1~2年目。2人とも大リーグでは新人のような存在で、「やらねばならない」という意識は強かったろう。

登板時の「不安」が駆け巡る

手術を避けるのは難しかったのだろうか。「いや、精神的な問題だった。手術を回避するつもりで懸命にリハビリしていた。断裂した箇所は小さかったから、戻れたと思う」とハービー。しかし、リハビリの途中で「次に投げたとき、ブチっていったら……」という思いが頭を駆け巡り、「手術がベストの選択と思うようになった」。

15日(日本時間16日)のオールスターで先発したアダム・ウェインライト(32、カージナルス)のようなケースもある。マイナー時代の04年、リハビリによって右肘靱帯の部分断裂から復帰した。「断裂は小さかったし、全く問題なかった」。その後、06年ワールドシリーズ制覇に貢献し、07年から4年連続で2桁勝利し、10年には20勝を挙げた。しかし、11年春に再び靱帯を断裂していることが判明し、手術した。

トミー・ジョン投手が手術を受けたのが40年前、今季は手術を受けた選手が過去最多のペースにある。野球に関するあらゆるデータを集めた米ウェブサイト「Baseball Heat Maps」によると、マイナーリーグの選手も含めてすでに60人を上回る。

スプリットボールの影響は?

日本人投手の場合、「スプリットボールの投げすぎが影響している」といわれているが、上原浩治(レッドソックス)、ダルビッシュ有(レンジャーズ)らはこの意見に対し疑問を呈する。11年に手術を受けた松坂大輔(メッツ)は手術する2年ほど前から痛みがあったが、「そのころは変化球より、速球を投げたときの方がしびれた」。ダルビッシュも「スプリットは指のかかり具合がツーシームくらい浅い。(米球界でスプリットの代わりに投げさせる)チェンジアップを投げるときは薬指がボールにかかるので、こちらの方が負担は大きい気がする」と指摘した。

さらにダルビッシュは続けた。「中4日では投げた後の腫れも治まらない。最低でも5日はほしい。6日あれば腫れは確実に消える。米国のボールは滑りやすく、しっかり持とうとすると肘にストレスがかかる」。ただ、中5日では年間登板回数が減って投手は年俸は下がるだろうし、ボールの変更は契約メーカーを巻きこむため簡単に解決できる問題ではない、と付け加えた。

「手術のリスク減らす9カ条」

彼らの指摘はかなり的を射ているようだ。今年5月、トミー・ジョン手術の権威、ジェームス・アンドリュー博士は「手術のリスクを減らす9カ条」を示した。大別すると「正しいフォーム」「休養」「疲労のサインを見逃すな」の3つに整理できる。「速球派はリスクが高い」としたが、米球界でいわれている「子ども時代からのカーブの多投」「高いマウンド」については影響を否定。子ども時代からの多投はいけないが、プロ選手のスプリット、球数制限への言及はなかった。

松坂は「(田中が)登板後に痛みを訴えたのだから、投げることはできるのだろうが、痛みに敏感に反応したのは賢明だった。僕は痛みを我慢できたので投げたけれど、いいことではない。不安がある間は投げない方がいい」という。

アンドリュー博士も提言の中で、過度な「手術信奉」をけん制していた。だが、リハビリによって断裂した靱帯がつながるわけではない。このため「手術するのではないか?」という記事が次々と出てきている。「本当に個人の問題なんだ。自分が一番いいと思うこと、気持ちに従うしかない」とハービー。6週間のリハビリ期間を経て、田中はどう感じるのだろうか。

(原真子)

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