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ノキア・マイクロソフト連合の前途、スピードがすべて

ITジャーナリスト 小池 良次

携帯電話端末世界最大手のノキア(フィンランド)は2月11日、米マイクロソフトとの提携を発表した。2010年9月、ノキアの最高経営責任者(CEO)に元マイクロソフトのスティーブン・エロップ氏が就任して以来、両社の提携は時間の問題と言われてきた。今回の提携で携帯電話の基本ソフト(OS)「Symbian(シンビアン)」を捨てる決断を下したノキアに対しては、「最後の賭けに出る」「マイクロソフトしか選択肢がなかった」など厳しい指摘が相次いでいる。エロップ氏はノキア低迷の本質に正面から向き合おうとしているものの、その道のりは決して平たんではない。

ノキアのシンビアン搭載端末は、現在も欧州や新興国で広く販売されており、OS別のシェアでトップの座を維持している。しかし、多くの調査会社は米アップルの「iPhone」やグーグルの「Android(アンドロイド)」搭載端末が急成長している状況を踏まえ、シンビアンがさらに劣勢に立たされると分析していた。

新市場であるタブレット端末向けでも、グーグルがアンドロイドの新バージョン「Honeycomb」を発表し、「iPad」で先行するアップルを追撃している。めまぐるしい環境変化に有効な対策を打ち出せていないノキアの将来には不透明感が漂っていた。

そうしたなか、かつてマイクロソフトでビジネス部門を統括してきたエロップ氏は「シンビアンを切り捨てる」という決断を下した。ノキア社内には長い歴史を持つシンビアンへの愛着があり、自力では決別に踏み切れなかった。その点、マイクロソフトから移籍してきた新CEOには何のためらいもなかった。

今回の提携でノキアはスマートフォンのOSに「Windows Phone 7(WP7)」を採用し、検索エンジンもマイクロソフトの「Bing」を標準で使う。一方でノキアは、地図情報やイメージング技術、モバイル決済サービスの「Nokia Money」などをマイクロソフトに提供する。WP7はスマートフォンOSで3%前後のシェアにとどまっており、ノキアとの全面提携は大きなメリットとなる。

「スマートフォンの敗者連合」

ただ今回のニュースは、ノキアとマイクロソフトという欧米の巨頭同士の提携でありながら、米国メディアから高い評価を得られていない。むしろ「スマートフォンの敗者連合」と受け止められ、急展開するスマートフォンやタブレット端末市場に「両社が追従するのは難しい」といった指摘が多い。

携帯電話業界の競争はそれほど激しい。スマートフォン時代の本格的な幕開けは、米国でiPhoneが発売された07年6月末だった。それまで米スマートフォン市場はカナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)の「BlackBerry」がけん引していたが、企業内のメールシステムと組み合わせた高級端末が中心で、一般ユーザーにはあまりなじみがなかった。

 そこに登場したiPhoneは、スマートフォンの大衆化を一気に進めた。それから4年ほどの間に、スマートフォンは高価格帯から中価格帯にまで広がり、iPadの登場によってタブレット端末の市場も生まれた。アップルの快進撃について行けているのは、グーグルとRIMだけといえるだろう。

提携相手に選ばれたマイクロソフトは、旧OS「Windows Mobile」の低迷に悩まされていた。スマートフォン「サイドキック」をヒットさせた米ベンチャーのデンジャーを買収するなど曲折を経てWP7にたどり着いたものの、シェア拡大の兆しは出ていない。

アップル対策の裏で差は広がるばかり

ノキアも、まったく無策というわけではなかった。08年6月には携帯電話会社やメーカーなどが出資していた英シンビアンを買収してシンビアン・ファウンデーションを設立。シンビアンOSのオープンソース化を始めた。これはiPhone用OS「iOS」への対抗策として成功しつつあったグーグルのアンドロイド戦略をまねたものだ。タブレット端末でも09年初めに米インテルとの提携を発表し、10年には通信機器関連展示会「Mobile World Congress」でモバイルOS「MeeGo(ミーゴ)」を大々的に発表した。

コンテンツ・サービス面でも、10年5月に米ヤフーと電子メール、インスタントメッセージング、地図情報、ナビゲーションなどの分野で提携。これによりノキアは地図サービス「Ovi Maps」をヤフーのサービスに統合するとしていた。

こうした対策を打ってきたノキアだが、オープンソース版シンビアンの開発は遅れ続け、MeeGoを搭載するタブレット端末も姿を見せないまま。アップルとグーグル、RIMの先頭グループに開発スピードと製品競争で差を広げられるばかりだった。

エロップCEOの最大の課題とは

アップルとグーグルが携帯OSを囲い込みの基盤として使う「アプリケーション・エコノミー戦略」に成功する一方で、RIMや米ヒューレット・パッカード(HP)、AT&Tなどは、次世代ウェブ言語の「HTML5」を使うウェブ・アプリケーション戦略を打ち出している。これから数年、トップグループでは脱アプリケーション・エコノミーを巡って、さらに厳しい競争が展開されるだろう。

こうした展開を見てきたIT系メディアやアナリストの目には、今回のノキアとマイクロソフトの提携はあまりに時機を逸しており、成功するとはにわかに信じがたいと映っている。

エロップCEOにとって、モバイル戦略を書き換えること自体は難題ではない。最大の課題は、競争力のある製品を短期間で開発して市場に投入するという端末メーカーの原点にノキアを立ち戻すことができるかどうかだろう。ノキアの迷走は、日本の携帯端末メーカーに貴重な示唆を与えている。

小池良次(Koike Ryoji)
 米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリストおよびリサーチャー。88年に渡米、93年からフリーランスジャーナリストとして活動している。サンフランシスコ郊外在住。主な著書に「クラウド」(インプレスR&D)など。

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