諫早湾干拓、「ギロチン」開門見えず 期限まで半年

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2013/6/16付
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国営諫早湾干拓事業(長崎県諫早市)の潮受け堤防排水門を巡り、2010年に福岡高裁が命じた開門調査の開始期限まで残り半年。国は確定判決に従って12月21日の期限までの開門を目指すが、地元の自治体や営農者らは反対姿勢を崩さず、見通しは全く立っていない。開門の差し止めを求める別の訴訟も進行中。諍(いさか)いの海が波静かになる兆しはない。

開門調査の開始期限まで半年となった潮受け堤防排水門(長崎県諫早市)

開門調査の開始期限まで半年となった潮受け堤防排水門(長崎県諫早市)

「海水が入り込めば塩害で農業は立ちゆかない。断じて開門は許さない」。干拓地でキャベツを栽培する農家、荒木一幸さん(36)は語気を強める。開門に反対する営農者らの団体は16日、諫早市役所前で2千人規模の抗議集会を開く。

国は開門の準備を進める。農業用水として使ってきた堤防内の淡水調整池に海水が入るため、海水淡水化施設の建設など対策工事費を今年度予算に計上。5月、一部工事の契約を業者と結んだ。

ただ、着工のメドは立たない。淡水化施設から農地に水を運ぶパイプラインは長崎県や地元住民の所有地に埋設する計画だが、住民らは「一切協力しない」との立場だ。

突き放す長崎県

半世紀以上、国と"二人三脚"で干拓事業を進めてきた長崎県も、突然開門に転じた国に歩み寄る気配はない。中村法道知事は「工事が前に進むことはないだろう」と突き放す。

一方、貝類やノリの収穫減に苦しんだ有明海の漁業者らは、「ギロチン」と呼ばれた潮受け堤防が潮流や水質を変化させたことが原因として開門を訴え、確定判決を勝ち取った。その漁業者らからは今、「開門期限が迫っているのだから、国は反対を押し切ってでも対策工事を進めるべきだ」との声も上がる。

干拓地で収穫したキャベツをトラックに載せる荒木一幸さん(長崎県諫早市)

干拓地で収穫したキャベツをトラックに載せる荒木一幸さん(長崎県諫早市)

しかし農林水産省によると、公共事業である干拓事業は既に完成しており、確定判決を受けた対策工事は土地収用法の適用外。強制的な土地買収はできないという。

開門まで「罰金」

林芳正農相は2月に現地を訪問。中村知事に「国は判決で開門義務を負っている」と述べ、地元の理解を得る努力を続ける考えを強調したが、現状は厳しい。確定判決の弁護団長、馬奈木昭雄弁護士でさえ「6~7月に工事に着手できなければ間に合うわけがない」と、12月に開門できない可能性を視野に入れる。

事態が動かないまま開門期限を迎えた場合、馬奈木弁護士らは国を相手取って「間接強制」を申し立てる構えだ。民事訴訟での決定に相手側が応じない場合、裁判所が「制裁金」の支払いを命じて決定に従うよう促す仕組み。認められれば、国は開門まで"罰金"を払い続けることになる。

農水省幹部は「12月開門に向けて精いっぱい頑張るしかないが、長崎県側の信用を完全に失っており、状況は厳しい。日々、焦りが増している」と明かす。

林農相は1月に東京で中村知事と面会した際、10年末の民主党政権による福岡高裁判決の上告断念について、こう漏らした。「何であんなことをしたのか、という思いはある」

国営諫早湾干拓事業 1950年代に構想が持ち上がり、89年に国が着工、2008年に完成した。農地造成と高潮などの災害防止を目的に、有明海の諫早湾奥部を全長7キロメートルの潮受け堤防で閉め切り、約680ヘクタールの農地と農業用水に使う淡水調整池を整備した。排水門は潮受け堤防の南北2カ所にある。総事業費は約2500億円。
10年12月の福岡高裁判決(確定)は事業と漁業不振の因果関係を認め、5年間の排水門開門と水質などの環境調査を3年後までに始めるよう国に命じた。国は海水淡水化施設など開門の対策工事費を330億円とし、13、14年度予算に計上する。開門後も環境調査や水門などの管理に年間12億円の費用を見込む。
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