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テレビ、最後の挑戦

Google TVが示す未来(1)

 米Google社が米Intel社,ソニーと共同で開発したテレビ向けのソフトウエア基盤「Google TV」。目指すのは,これまで放送に閉じていたテレビの世界をオープンにすることだ。視聴者が画面の検索窓にキーワードを入力すると,関連したコンテンツが放送,インターネット上の動画,Webサイトなどの中から元の媒体を問わずに横断検索される。放送はコンテンツの一つにすぎない。スマートフォンのように後から機能を追加でき,第三者が開発した「アプリ」も動作可能だ。10年以上前から多くの試みが繰り返されてきた積年の大テーマ「インターネットと放送の融合」を舞台に,テレビが「リビングの王様」の地位を保てるかどうか,メーカーは最後の挑戦に臨む。本連載では,まず全体像を俯瞰(ふかん)した後でソニー製のGoogle TV対応テレビを分解,その中身を明らかにし,今後の流れを読むことにしたい。

「Cord cutting」(コードを切る)という,いささか乱暴な印象の言葉が,米国で映像や放送,通信関連のビジネスに携わる関係者の間で大論争を巻き起こしている。「コード」が指すところは,ケーブルテレビ(CATV)やデジタル衛星放送といった,全米に張り巡らされたテレビ向け映像サービスの回線だ。CATVや衛星放送などを合わせた契約数は,実に1億件を超える。これらの回線を「切る」とは,利用者が契約を打ち切るという意味である。乗り換える先は,インターネットを使った動画配信サービスだ[注1]

パソコン向けで広がったネット動画配信サービスが,次の配信先として狙うのは「テレビ」である。家庭向け映像ビジネスの本丸に入り込んだネット動画が,CATVや衛星放送のビジネスを本格的に脅かす存在になるかもしれない――。この危機感が「Cord cutting」という言葉を生んだのだ。

ネット動画を取り込むテレビ

こうした状況下で登場したのが,米Google社と米Intel社,ソニーが共同開発したテレビ向けソフトウエア基盤「Google TV」だ(図1)。2010年10月にこの基盤を搭載した液晶テレビやBlu-ray Disc(BD)プレーヤーを発売したソニーに続き,2011年後半以降には複数の大手メーカーがGoogle TV対応機を投入するもようである。メディア企業や映像サービス事業者は,インターネット業界からの新提案を注視している状況だ。

[注1] 米調査会社のcomScore社によれば,米国でのネット動画配信の月間利用者数は2010年10月に約1億7500万人,1人当たりの平均視聴時間は約15時間に膨らんでいる。米メディア大手のNBC Universal社とNews社が共同で設立したテレビ番組の配信サービス「Hulu」の月間利用者数は約3000万人に達する。

 ネット動画とテレビの結び付きが強まる動きは,米国だけの話ではない。欧州でも,放送局がパソコン向けにインターネットで無料配信するテレビ番組の見逃し視聴サービスをテレビで楽しむ視聴スタイルが広がった。ネット動画の勢いを取り込むため,欧米ではWebサービスの利用機能を搭載した薄型テレビ,いわゆる「ネット・テレビ」の開発競争が激しさを増している(図2,図3)。米Apple社が開発した「Apple TV」のように,テレビに接続してネット動画を視聴するセットトップ・ボックス(STB)型の専用端末の発売も相次ぐ。

2008年以降に欧米でテレビ向けWebサービス「VIERA CAST」(2011年春から「VIERA Connect」としてサービスを拡充)を本格投入したパナソニックは,「欧米で,対応テレビの購入者がインターネットに接続する割合は,日本の2倍以上。今後は従来の中上位機種に加え,下位モデルでもサービスに対応する計画だ」(同社 AVCネットワークス社映像・ディスプレイデバイス事業グループ 企画グループ グループマネージャーの和田浩史氏)と,手応えを話す。

ある国内テレビ・メーカーの欧州担当者は言う。「ウチがやらなくても,いずれ誰かが始める。もうテレビをWebサービスに対応させることからは逃げられない」。

テレビ業界の論争に一石

Google TVが注目を集める理由は,冒頭で紹介した「Cord cutting」の論争に新しい視点で一石を投じたことにある。Google TVは,ネット動画配信とCATVなど既存の映像サービスを,テレビを使って同じ土俵で扱う枠組みを提案した。

その中核となる機能が,放送コンテンツとネット動画,Webサイトなどの横断検索である。この機能から読み取れるのは,「もはや,映像コンテンツをインターネット向けか,放送向けかに分けて議論する時代ではない」という強烈なメッセージだ。放送コンテンツとネット動画を同等に扱う考え方は,ソニーが発売したGoogle TV対応テレビの回路設計にも色濃く表れている(本連載の第3回に掲載する分解編を参照)。

従来のネット・テレビでは,放送コンテンツとネット動画の利用は基本的に分離されていた。ユーザーは,放送コンテンツとは別に用意された動画配信専用の入り口を通って映像作品を選ぶ。これは,古くから放送で使ってきたテレビ・チャンネルの考え方とほぼ同じだ。放送事業者などコンテンツ提供者のビジネスモデルの基本は,映像を供給するチャンネルごとに収益を上げることである。これに合わせた機能の提供が,テレビ開発の主眼だったわけだ。

Google TVの検索機能は,この旧来の枠組みを崩す動きである。チャンネルに代わる視聴の入り口としてインターネット検索を用意した。これにより,チャンネルの枠組みの頭越しにユーザーが映像コンテンツに直接アクセスできる状況を具現化して見せた。

チャンネルの概念を変える

インターネット検索の考え方がテレビに導入されるインパクトは,思いのほか大きい。同様の機能が広がれば,これまで別々の枠組みで扱われていた放送コンテンツとネット動画を,HTMLなどのWeb標準技術で扱える。こうした仕組みの構築が,世界的に本格化するからだ(図4)。

ネット検索を前提にした映像コンテンツの管理では,インターネット上のコンテンツの所在を示す情報が必要になる。それを記述する仕組みの代表例は「URL」だ。放送コンテンツやネット動画の横断検索が広がると,放送コンテンツのメタデータや映像データそのものにURLを付加し,HTMLベースで管理する動きが活発になるだろう。検索結果に表示されない映像コンテンツは,視聴者に露出されなくなるためである。

これは,検索結果としてヒットした映像コンテンツのURLが,リモコンのチャンネル・ボタンの代わりとして働くことを意味する。この影響の波及範囲は,検索機能だけにとどまらない。放送コンテンツとさまざまなWebサービスを結び付けて,新しいサービスを生み出しやすくなる。

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログなどの交流サイトと連携したコンテンツの推薦(レコメンド)機能は好例だろう。現在でも,友人にネット動画を紹介する際にはURLを伝えることが多い。これと同じように,URLをクリックすることで放送コンテンツを再生するような仕組みの構築が容易になる。動画共有サイトに投稿されたニッチなネット動画の視聴者に,その内容から連想される映画やテレビ番組を推薦するような機能なども実現しやすい。

米国では,映画や放送コンテンツをWeb標準技術で管理しやすくするために,映像コンテンツごとに付加する新たな固有IDの標準化も始まった。2010年10月に米大手映画会社などが設立した業界団体「EIDR(アイダー)」である。現状は映像サービスごとに個別に実施しているID管理の一元化によって,コンテンツ情報の取得や検索を容易にする狙いだ[注2]。 (次回に続く)

[注2] EIDR(Entertainment Identifier Registry)は,インターネット上の著作物を管理する識別子の規格「DOI(digital object identifier)」に基づいて映像コンテンツの固有IDを発行し,同団体が運営するサーバーで管理する。Webサービスからそのデータベースに接続するAPIを用意する。

(日経エレクトロニクス 内田泰、大森敏行、高橋史忠、Phil Keys)

[日経エレクトロニクス2010年12月13日号の記事を基に再構成]

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