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東京駅前を覆う「230mの帆」 新名所は手作り感満載

驚異の工事現場シリーズ

東京駅では、昨年(2012年)10月に大正時代の姿に復元した丸の内口に対し、反対側の八重洲口はこの9月20日に全く違う姿に変わる。目玉は、南北230mに及ぶ膜構造の大屋根だ。膜構造とは、布など膜状の部材を、吊ったり、骨組みにかぶせたり、東京ドームのように空気圧で持ち上げて張ったりする構造を指す。

2013年2月に撮影した下の写真左奥に一部、姿を現しているのがそれ。どのようなものができるのか、どのように造るのか、この時期から現場を眺めていた。完成が近づいた7月、JR東日本に技術的な内容まで取材することができた。

東京駅八重洲口に大屋根「グランルーフ」を架ける。2013年2月時点の状況で、このときは横一杯に工事用の足場が組まれ、タワークレーンも建っていた。2013年2月5日撮影(写真:勝田尚哉、以下同じ)
2013年7月20日、足場の大半が取り払われ、グランルーフのほぼ全体が姿を現した東京駅八重洲口
左手前側がサウスタワー、右奥がノースタワー。2013年7月20日撮影
大屋根は美しい構造だ。工事エリアの段階的な縮小、解放が進んでいる

八重洲口を挟む2つのタワーを結ぶ

東京駅八重洲口を挟むグラントウキョウノースタワーと同サウスタワーをペデストリアンデッキ(歩道橋の一種)で結び、その上を斜めに立てかけた大屋根で覆う。さらに、みどりの窓口や店舗、高速バス乗り場を整備。これらの施設をまとめて「グランルーフ」と呼ぶ。交通結節機能を強化して、快適な歩行者空間を整備するのが事業の目的だ。

鹿島・鉄建JVの川端弘樹所長

大屋根とペデストリアンデッキは長さ約230m、大屋根の高さは最大で約27m。大規模な膜構造という特殊な構造を含んだこの工事は、技術面にも現場の運営面にも様々な難しさがあった。膜の素材は「四フッ化エチレン樹脂コーティングガラス繊維布・酸化チタン光触媒微粒子含有」というとても長い名前のもので、酸化チタンの光触媒効果で汚れが流れ落ちやすいのだという。

施工を担当する鹿島・鉄建JVの川端弘樹所長に話を聞いた。「駅機能の維持や鉄道施設の安全対策の調整だけでなく、両側のタワービルや地下街、バスパースや駅前広場など周囲のあらゆる施設との調整が必要だった」と言う。川端所長にまずは、特徴的な大屋根の鉄骨の建て方について尋ねた。

グランルーフの平面図(資料:JR東日本、以下同じ)

見上げると「まるで1枚の布」

大屋根は、巨大な船舶の帆のような形状をしているのが特徴だ。つまり、真上から見ると、細長い台形のシルエット。一方、正面から見たときは、膜屋根先端部の高さが山なりに変化する3次元曲面を描く。さらに下から見ると1枚の布に見えるよう鉄骨の下に膜を張ることがデザイン上重要で、施工技術上、工夫を要するところだ。

大屋根の構造。幅と傾き、先端高さが通りによって異なる3次元曲面だ
大屋根鉄骨の標準断面図

鉄骨より下の躯体(くたい)を構築、駅側の片持ち柱の鉄骨を建てた後、ステージを全面に架ける。膜の張り込みにも使うためだ。そして広場側の頬杖になる斜めの柱をワイヤの控えで自立させ、通りによって位置の違う正規の柱頭位置に三次元測量を使って正確に持っていく。

大屋根の斜め柱の建て方。斜め柱頂部に取り付けたプリズムを的にして3次元測量を実施し、通りによって位置の違う正規の柱頭位置に正確に持っていく

この上に大梁をセットする。長いものは約35mにまでなるので2分割、3分割になったものは下部に構台を組んで設置し、現場で溶接してつなぐ。夜間に駅前広場から荷取る建て方作業なので、うまく組み上がらないといったことが起こらないように、工場で仮組みまでしてから現場に搬入している。

屋根鉄骨の先端と後端の構造部材は、古い鉄道レールを再利用した鋳鋼が使われている。

夜間に駅前広場に鉄骨を搬入し、荷取りと建て方が行われた(写真:JR東日本、以下同じ)
つなぎ梁の建て方
大屋根鉄骨の建て方が完了

ロールから膜を引き出し人力で引っ張る

膜を支持する鉄骨フレームは18mピッチで計14フレームある。膜の張力が何らかのバランス作用をして鉄骨ともに全体を支持する構造ではなく、自立完結した鉄骨構造に膜の張力がかかる構造だ。

スプレッターに取り付けた屋根膜のロールをクレーンで吊り込む

一般的な膜屋根工事では鉄骨の上に膜を張るので、その場合は重機で吊り上げて張り広げることができる。しかし、この工事では膜を鉄骨の下に張る。下から見て「一枚物」の膜が張ってあるように見せるデザインだからだ。そのため張り込み作業には工夫がいる。

膜の張り込み作業は、まず夜間作業でスプレッターという機材に、1フレーム幅の18メートルに合わせた屋根膜のロールを取り付けて、広場側からタワークレーンで吊り込む。大梁の先端側から駅側にズリズリと人力で梁下に引き込んで広げていく。調理用ラップをロールから引き出すあの要領だ。

膜のロールを引き出し終わり、梁の下に広げてしまってからは、まず先端の袋状部にワイヤを仕込む。それから、全体を四方に少しずつ引っ張っていく。

膜端部には引っ張るための治具が450~500mm間隔で付いていて、チェーンブロック(滑車と鎖を組み合わせた、つり上げ装置)などの器具を使って人力で引っ張る。その日の夜間作業では、膜がたるまないところまで緊張し、仮固定したら終了する。

膜を人力で鉄骨下に引き込む
ワイヤ仕込みなど引っ張り作業の準備

ジョイントラインの見た目にも繊細な神経

次に、仮固定の状態から本定着の作業に移る。膜にしわが寄らないように少しずつ、バランスを取りながら四方に引っ張っていき、梁下の最終位置に定着する。この作業は昼間でも可能だ。

たくさんの人手で膜を四方に、少しずつ引っ張っていく
張り終わった膜屋根を上から見る

膜を四方にバランスよく引っ張った状態のまま、梁下にある定着金物に膜端部を挟み込んで固定する。隣接する膜端部とのジョイント部(結合する箇所)に化粧(完成後に人の目に触れる部分)となる膜を溶着すると、一枚物の膜屋根の一部が完成だ。現場での膜の溶着作業は上向きになるので、レールを敷いて溶着機をジャッキで持ち上げて実施した。

現場溶着部は大梁の影が落ちるので跡が目立ちくにい。工場で溶着したジョイントライン(つなぎ目)は下から見えるが、現場で張り合わせたときに全体を通じてジョイントラインがきれいな直線を描くようにするのが、張り込み作業の腕の見せ所だ。

どの方向に引っ張ってみるかの判断にとても時間がかかったこともあったし、最初の1、2枚では膜の挙動などが読み切れず、隣り合うフレームとの調整で少し緩めて張り直したこともあったという。夜間のロール吊り込みから1フレーム分の張り込みを完了するのに2週間ほどかかる。これらの作業は人海戦術で、「手作り感満載」(川端弘樹所長)なのだ。

27回繰り返された駅通路の切り替え

当たり前だが、駅には休みがない。工期中においても東京駅八重洲口の中央北・中央南・南の1階3ルートと、地下1.2階の3ルートの計6カ所の通路機能を維持し続ける必要があった。

既存通路部を解体するには、まず近くに別の通路を確保して切り替える。そして、新設躯体を造るにも通路部をあらかじめ構築するなどして切り替え、それから着手となる。通路は仮設、本設が入り乱れ、それら手順が6カ所ごとに施された結果、通路切り替えは27回にも及んだ。工事を進めるに当たって、通路の切り替えが工程のキーになっていたと言っても過言ではない。

「しぶとい闘いだった」(川端弘樹所長)。往来が激しい東京駅特有の工事の難しさだと言える。

丸の内側は「歴史」を、八重洲側は「未来」を象徴

JR東日本東京工事事務所東京駅開発プロジェクトの武田幸彦・八重洲開発グループリーダー(写真:勝田尚哉)

JR東日本は「東京ステーションシティ」という東京駅再開発構想において、「東京駅が街になる」をコンセプトに丸の内側は「歴史を象徴する顔」、八重洲側は「未来を象徴する顔」というテーマを設定して再開発を進めている。その具現化が丸の内駅舎保存・復原であり、八重洲口のグランルーフと広場整備だ。

丸の内、八重洲の再開発コンセプトは、セットで打ち立てられたものだという。大きな契機は2000年に「特例容積率適用区域制度」が創設され、東京駅上空の未利用容積を駅周辺のいくつかのビルに移転させて丸の内駅舎保存・復原の事業費に充てるという計画が立ったことだ。八重洲の方にはこの未利用容積が活用され、2002年にJR東日本は東京駅および周辺の整備計画を発表した。

東京駅をどのように開発していくかという課題について、古くは旧国鉄時代からも数々の方針が論じられてきた。2001年には東京都主催の「東京駅周辺の再生整備に関する研究委員会」で今回の開発につながる基本方針が示される。JR東日本はこの方針に従って計画を具現化していった。

このコンセプトを実際の計画に落とし込むのに、2002年に案を公募した。透明感のあるクリスタルのツインタワーと、それらをつなぐ「光の帆」というイメージは建築家ヘルムート・ヤーン氏が一体の計画として提案したものだ。現在のノース、サウスの両タワービルとグランルーフの計画の基となった。

全景の完成イメージ
ペデストリアンデッキの完成イメージ。駅側には大規模な壁面緑化が施される

JR東日本東京工事事務所東京駅開発プロジェクトの武田幸彦・八重洲開発グループリーダーは、「社内で検討されていた『先進性・先端性』という八重洲側の開発コンセプトを明確に表現していた」と言う。

グランルーフは9月20日に完成する。さらに、バスバースやタクシープールなどの整備も含めた駅前交通広場はその約1年後、2014年秋の完成を予定している。グランルーフは夜間のライトアップも計画しており、完成が楽しみだ。

工事概要
 名称=東京駅八重洲開発中央部他新築、施工場所=東京都千代田区丸の内一丁目、発注者=JR東日本、設計者=東京駅八重洲開発設計共同企業体(日建設計・ジェイアール東日本建築設計事務所)(管理技術者:亀井忠夫)、施工者=東京駅八重洲開発中央部他新築工事共同企業体(鹿島・鉄建)(現場代理人:川端弘樹、元請けの技術者数:33人)、主な専門工事会社=太陽工業(膜)/巴コーポレーション(鉄骨製作)/横河工事(建て方)/かたばみ興業(緑化)/田代硝子工業(ガラス)/東洋テクノ(現場造成杭)/オムステンレス工業(金属)/オクジュー(金属・内装)、工期=2009年2月16日~2014年12月10日、工費=非公表、入札方式=一般競争入札(WTO)、予定価格=非公表

(写真家・ライター 勝田尚哉)

[ケンプラッツ2013年8月7日付の記事を基に再構成]

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