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家電業界が挑む「コモディティー化」という怪物、価格の"半減期"は3年

家電各社が薄型テレビをはじめとする製品価格の急落に苦しんでいる。ソニー、シャープ、パナソニックなど薄型テレビへの収益の依存度が高い企業は軒並み2012年3月期に巨額赤字を計上する見通し。ソニーは12日の経営方針説明会で、今後、テレビ事業の立て直しと並行して、デジカメ・映像機器、ゲーム機、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)への取り組みを強化すると発表した。しかし薄型テレビの平均単価が3年で半額に下落する事態は、他のデジタル機器でも起きている。

ネットや半導体技術の進化に伴う価格性能比の向上と供給過剰、アジア勢の台頭がもたらす製品の「コモディティー(汎用品)化」という"怪物"と対峙しながら、日本企業は収益確保の道を探らなければならない。

平井一夫社長兼最高経営責任者(CEO)が会見で吐露したのは「ここでソニーが変わらなければ、ソニーが立ち直る機会は本当に二度と訪れないかもしれない」との危機感である。そのソニーが挑もうとしている最大の難敵はコモディティー化である。

40型液晶テレビが3年で半額以下に

家電製品の店頭実売価格を調査しているBCN(東京・千代田)によると、ソニー製液晶テレビの中でも売れ筋である40型の平均単価は、3年前の09年3月は15万1100円だった。それが直近の12年2月は6万5500円と半額以下まで下落している。サイズを限定せず、ソニーの液晶テレビ全体の平均単価で見ても、この3年間で9万8300円から5万100円とほぼ半減のペースだ。

シャープや東芝、パナソニックなどほかの国内大手メーカーに比べれば、ソニー製品の平均単価は総じて同等かそれ以上の水準を確保しているが、テレビという商品の付加価値を消費者から認めてもらえず、つるべ落としのように単価が急落する状況から逃れられずにいる。

薄型テレビの需要が目に見えて増加したのは、薄型テレビなど家電3製品を対象にした「家電エコポイント」制度がスタートし、実質数千~数万円引きで買えるようになった09年5月以降だ。当初は単価下落も小幅だったが、同年の年末商戦や翌10年の春商戦を経て、じわじわと単価が下がり始める。

ソニーの液晶テレビの平均単価は、過去に2度ほど上昇に転じている。1度目は3次元(3D)視聴を特徴とした機種など、新製品を大量投入した10年6月前後。メーカーによる自助努力の成果ともいえるが、効果は長持ちせず、3カ月程度で元の水準に戻ってしまった。2度目は家電エコポイントの補助額が半分程度に切り下げられる直前、駆け込み購入が相次いで在庫切れが相次いだ同年11月前後だ。これも、年明けには再び下落して元に戻っている。

 11年に入ると、下げ足がいっそう速まる。エコポイント減額に伴う販売不振を食い止めようと、春商戦に向けて店頭での販売価格の引き下げが相次いだことが主因だ。同年7月のアナログ放送停波直前は再び駆け込み需要が増え単価下落が収まったものの、秋以降は市場が大幅に冷え込んだ。世界的な景気低迷による販売不振と、駆け込み需要の反動というダブルパンチで、単価は下がっているのに販売台数が伸びないという厳しい情勢に陥った。

12年3月には東北3県でアナログ放送が停波し、薄型テレビへの買い替え需要が伸びたものの、「全国の販売台数に占める東北3県の比率は8.9%。全国レベルで見ると、販売台数の押し上げ効果は小さい」(BCNの岩渕恵アナリスト)。

薄型テレビメーカー各社は当初、普及促進に不可欠な価格水準として「1インチ=1万円」を目標にコスト削減にしのぎを削っていた。ソニーの40型でそれを実現したのは06年9月発売のモデルだった。そこからわずか5年半。現在のソニーの40型は当時の6分の1に当たる1インチ=1600円強という水準まで落ち込んだ。

「単価下落は当然の結果」

既に一部のメーカー、サイズでは、液晶テレビが1インチ=1000円を切る価格で店頭に並んでいる。これほど厳しい値下がりに見舞われては、収益を得るどころではなく、メーカーの開発や販売部門の社員に同情さえしたくなる。

しかし、メーカー各社の事業展開による「当然の帰結」と指摘する声もある。ディスプレー関連の市場調査を手掛けるディスプレイサーチ(東京・港)の鳥居寿一バイスプレジデントは、「結局はブラウン管テレビの買い替え需要に過ぎず、11年7月のアナログ停波で国内市場が落ち着くと以前から予測できていた。昨今の単価下落は過剰投資、過当競争がもたらした当然の結果。メーカー各社もこうした局面を十分予見できたはずだ」と手厳しい。

鳥居氏がポイントとして挙げるのは、液晶テレビやプラズマテレビなどは「コモディティー商品」であるという点。極論すれば、安価なデジタル部材を確保し、生産設備を用意して組み立てれば、どんなメーカーでも生産できる。基本的には放送が映りさえすれば良いので、細かな差異化が難しい。ハイビジョンのデジタル放送への移行はあったものの、肝心の番組内容が変わったわけではなく、ソニーなどの大手メーカーがアジアの格安メーカーに機能・価格の両面で差をつけることが十分にできなかった。

テレビを筆頭とする「コモディティー化」の大波に気付きつつ、ソニーやシャープ、パナソニックなどは軒並み大型投資に踏み切り、その結果、巨額の損失を計上するに至った。

「初期の薄型テレビは市場が急成長しており、単価も高く売れた。その成功体験から『このままいけるのでは』と判断を誤らせてしまったのではないか」(鳥居氏)。かつてDRAMで起きた「好況時に横並びで一斉に設備投資をして業界全体が沈む」という悪循環が繰り返された。

 コモディティー化は薄型テレビに限らない。BCNの調査によると、09年3月からの3年間でDVD/ブルーレイ・ディスク(BD)レコーダーの平均単価は43%減、パソコンも18%減。家庭向けのデジタル機器が、激しい競争を経て付加価値の小さい汎用品となる動きは様々な分野で起こっている。

デジタルカメラは、コンパクト機からミラーレス一眼へのシフトなどもあり全体としては12%減で踏みとどまっているが、コンパクト機に限れば売れ筋は7000~8000円台までコモディティー化が進行している。今は好調なミラーレス一眼も、いずれコモディティー化の洗礼を受ける宿命は避けられない。

「数の論理」からの決別が不可欠

この2年ほど、デジタル家電は過当競争の乱気流に巻き込まれ、きりもみ状態で価格が急落した。しかし足元では、単価下落が一服する予兆もある。

液晶テレビと主要部材の液晶パネルを生産するメーカー各社は、採算性の悪化に伴い昨年から減産を続けており、「テレビ、パネルともに在庫が適正水準になり、一部では需給がタイトな状況も出始めている」(鳥居氏)ためだ。

とはいえ、赤字続きの各社にとっては、損失を取り戻すべく1枚でも多くのテレビやパネルを生産して売りたいのが本音。再び各社が増産に動けば、微妙なバランスで成り立っているテレビやパネルの需給が再び軟化する可能性もある。8期連続でテレビ事業の営業赤字を計上しているソニーはもちろん、他の日本メーカーにとっても、抜本的な対策が必要だ。

各社は一刻も早くテレビ事業の止血をしようと手当てを始めている。ソニーは韓国サムスン電子との合弁で展開していた液晶パネル生産会社「S-LCD」から出資を引き上げた。シャープは台湾のEMS(電子機器の製造受託サービス)大手、鴻海(ホンハイ)精密工業の出資を受け入れ、09年10月に操業開始した堺工場は、運営会社を連結対象から外して鴻海が筆頭株主となり再起を図る。いずれも単価下落にスケールメリット(数の論理)で抵抗する戦略から決別しようという流れを象徴する出来事だ。

差異化戦略は妥当、問題は実行力

ソニーは12日の経営方針説明会で、テレビ事業の立て直しに向けて(1)固定費用を60%減らす、(2)オペレーションコストを30%減らす、(3)12年度に発売する液晶テレビの機種数を11年より4割減らす――といったリストラを実施することを表明。以前ほどの売り上げを見込めなくなった日米欧の先進国では、液晶テレビのマーケティングや販売部門なども1万人の人員削減の対象になりそうだ。

 リストラと並行してソニーでは、微細なLED(発光ダイオード)を敷き詰めて発光することで映像を表示する「クリスタルLED」や有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)テレビ、「4K×2K」(4000×2000ドット)と呼ばれる高精細テレビ、ネット連動機能をより充実させた「スマートテレビ」など、戦略商品の開発を進める方針を示している。

鳥居氏は、ソニーのこうした方針は「市場のニーズと合致している」と評価する。「薄型テレビの単価下落が進んだ結果、画質や音質、外観のデザインなどに不満を持つユーザーが一定数出てきている。新技術を搭載し、音質やデザインも韓国メーカーとの違いを打ち出した戦略商品を出せれば、単価が高くてもハイエンドユーザーの支持を集めて売り上げを伸ばせる可能性がある。日米欧だけでなく、新興国でも購買力が急速に高まっており、こうした高性能な製品が受け入れられる素地が整ってきている」(鳥居氏)。

「4K×2K」になると、その画面解像度に合わせた高精細な映像コンテンツも必要になるが、傘下に映画部門を持つソニーは国内外の競合他社より優位な立場でスタートできる。ソニーのテレビ復活に向けたお膳立ては整っている。後は、当面の止血を完了し、次世代の戦略商品の開発を進めるための実行力が問われる。

日本勢がもたついている間に、サムスン電子とLG電子の韓国2社などは一気に攻勢をかけようと動く。

両社はリビング向けの55型有機ELテレビを今秋にも発売予定。携帯音楽プレーヤーやスマホ、タブレット端末などでソニーを圧倒している米アップルも、革新的なスマートテレビを開発中との噂が絶えない。いずれもソニーなど日本勢が重視する戦略商品と重複する分野だけに、海外各社に後れを取れば、また市場で主導権を握られ、「コモディティー・メーカー」として単価下落におびえ続けることになる。

(電子報道部 金子寛人)

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