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遠いが価値、巡れば納得 過疎地で輝く新観光名所

「超逆張り」の発想奏功

多くの客を呼び込みたいなら、人口が多く、交通の便もよい場所を押さえること。そんなセオリーに反しながら、しっかり人気を得ている店や施設が相次ぎ登場している。過疎の山奥やシャッター通りなど、繁華街から遠く離れた地に様々な価値を見いだし、集客の可能性を掘り起こす。そんな「超逆張り」の発想で商う人々のそろばん勘定を探ってみた。

パリゴ(広島県尾道市)

地方でも臆さず積極投資

100年以上前のアンティーク陳列じゅう器や特注シャンデリアを配した(広島県尾道市)

シャッターを閉めた店も目立つ広島県尾道市の商店街に3月、改装オープンしたアクセ(同市)運営のセレクト店「パリゴ尾道店」。約1億円を投じて従来の2店を集約し、100年以上前のアンティーク陳列じゅう器や特注シャンデリアを配した。400以上の国内外ブランドを扱う。

アクセは1992年以来、広島、岡山両県内に「パリゴ」を展開。尾道店を含めた中国地方の4店は若い男女らの支持を集めている。昨秋にはルミネ有楽町店(東京・千代田)に東京1号店を開業し、売り上げは順調だ。しかし都心攻略は急がず、創業した地の店を再強化する道を選んだ。

商圏人口に限界のある地方の店は一般に投資を「身の丈に合った」額に抑えがちだ。だが高垣孝久副社長は、地方の店でも臆すことなく多額投資すれば「見返りは十分に期待できる」と語る。東京に進出した自信だけではない。採算確保と集客力拡大への読みもある。

例えば東京などの商業ビルに出店すると、売上高の20%前後が賃料に回り、3~5年後の契約更新をにらんで回収計画を立てねばならない。一方、パリゴ尾道店は自社物件で、賃料負担を考えながら投資回収の算段を立てる必要はない。同店は約280平方メートルで、1平方メートル当たりの投資額は約36万円になる。10年で回収する計画なら、1平方メートル当たり月3000円程度の利益を確保すればいい計算になる。

「地方は地価が安いうえ、回収期間も都市部ほど短くない。たとえ店を借りてそこそこの投資をしても、月々の負担は合理的な範囲に収まる」と高垣副社長は語る。

シャッターを閉めた店が目立つ商店街に1億円を投じて改装オープンした

地方の店といえど、思い切った投資が商圏や集客力の拡大につながる可能性は十分にあるともみている。パリゴ尾道店では改装後の3~5月、2店が1店に集約されたにもかかわらず売上高は前年比2ケタ増となった。

同店はかつて尾道市外の客が7割を占めたが、改装直前は4割程度まで下がっている。だが、最近は1億円をかけた改装の噂を聞き、東京など遠隔地からわざわざ訪れる客が目立つようになった。市外の客の比率が再び高まる可能性もある。

高垣副社長は「今の消費者は内装などの質をすぐに見抜き、凝った店を評価する傾向もある」と指摘。「田舎だから不利とは考えず、優れた店を作るための投資は惜しむべきではない」と話す。

海洋堂ホビー館(高知県四万十町)

廃校改装、驚き一層

中に入ると大きな船や恐竜の模型がお出迎え(高知県四万十町)

「孫が喜ぶと思ったけど、こりゃ面白いよ。また絶対来たい」。7月初め、高知県・四万十川の中流域にある風変わりな博物館の前で愛媛県の男性(71)が興奮気味に話す。昨年7月に開業した「海洋堂ホビー館四万十」だ。廃校の体育館を改装した内部には高さ10メートルの帆船や、精巧な動物の食玩(菓子のおまけ)など1万数千点が並ぶ。

フィギュア製造で知られる海洋堂(大阪府門真市)が四万十町の協力を得て開発し、グループ会社が運営する。初年度来館者は9万数千人と予想の3倍。東京や北海道に加えアジアや南米からの客も多い。

館長で海洋堂創業者の宮脇修氏はかねてからホビー館の構想を温め、都市部で誘致話もあった。だが亡父の出身地の同町を訪ねた際、この廃校を案内された瞬間に「ここにつくる」と決めた。

第1の理由は「『こんな場所にこんなモノが』という驚きが大切」という発想だ。元来、1964年に模型店として創業した海洋堂は、帆船模型を浮かべるプールやプラモデルの自動車を走らせるサーキットなど、意外性のある設備で注目され、飛躍につなげた経緯がある。大自然の真ん中に人工物の極致である模型の博物館というミスマッチの妙。アクセスの悪さも、逆に驚きを増す魅力と映った。

廃校を改築し入り口のデザインが特徴的な「海洋堂ホビー館四万十」

第2の理由は客層拡大への期待だ。近くを流れる四万十川の支流域はアウトドア派が訪れ自然散策も楽しめる。川の知名度も高い。都市部に比べ絶対的な集客力は劣るが、より幅広い層の客が訪れる潜在力はある。実際、ホビー館には3世代の来館客も多い。大人に模型の楽しさを再認識してもらう拠点にもなる。

ホームページなどでは「ほんとにあるの?」「わざわざいこう!」と不便を強調。交流サイト(SNS)で話題を呼び知名度も高まった。

周囲の環境を生かしつつ、この地を訪れた人が半日以上は楽しめるよう、宮脇氏は「流域に新発想ミュージアムを増殖させる」構想の実現に動き出した。7日にはホビー館の近くに、全国から集めたかっぱ像1300体を展示する「かっぱ館」を開業。今後もホビー館の増床、別の廃校の博物館化も予定している。

NEWLAND(埼玉県熊谷市)

跡地再生、住宅街は普段着流

埼玉県熊谷市の住宅街に、長い間廃虚となっていたクレーンなど重機の教習所跡地があった。敷地面積は8000平方メートル弱。ここに8日、商業施設「NEWLAND」が開業する。元重機倉庫や事務所棟、宿泊施設などはほぼそのまま活用。工場跡地などを商業に転用するケースは多いが、これほど原状を残すのは珍しい。

天井高12メートル、長さ40メートルの元重機倉庫は商業棟として、青果店や飲食店が入居するNEWLAND(埼玉県熊谷市)=完成前の様子

運営するデッセンス(熊谷市)の山本和豊社長は「廃虚を小ぎれいに再生する開発は大手デベロッパーがやり尽くした」と話す。「今後は極力手を入れずに再生するノウハウが競争力になる」

目指すのは誰もが気軽に訪れやすい普段着感覚の「公園のような施設」。同様の休眠地は繁華街から離れた住宅街の近くなどに多い。「そうした立地に"ハレ"の場を作っても成立しない。"ケ"でいいと割り切れば他の商業施設との違いも認知されやすい」(山本社長)。敷地内は客の導線を整え買い回りを促すといった、商業的セオリーを意図的に排した。

天井高12メートルの元重機倉庫は商業棟として青果店やクリーニング店、飲食店が入居。元宿泊棟は料理などの教室とし、元事務所棟には書店とギャラリーが入る。クレーンなどの走行レーンには土を盛りドッグランにした。車で30分圏内を主要商圏に設定し、中心顧客層は20~40代に据える。

解体工事が少ないので投資額は約7千万円に抑えられた。損益分岐点を下げた分、テナントには「賃料固定、敷金・礼金なし」の条件を提示。東京でも人気のセレクト店も誘致できた。

山本社長はここでノウハウを磨き、同様な地方の休眠地開発も手がける方針。従来型の近隣型ショッピングセンター(SC)や大型SCと異なる手法で、中心市街地から遠く離れた立地の商機開拓に挑む。

石徹白洋品店(岐阜県郡上市)

小集落だから顔見える

自然素材を使った服や地元集落の女性が作った雑貨などを売る石徹白用品店(岐阜県郡上市)

石徹白(いとしろ)は人口約280人、65歳以上が45%超の、岐阜県郡上市にある小集落。古くから山岳信仰の拠点として知られている。ここの古民家に昨年移住した平野馨生里氏は5月、衣料、雑貨を扱う「石徹白洋品店」を開いた。月6回の営業日には最低3~4組の客が集落外から訪れる。

平野氏は大学生時代にカンボジアで、蚕から糸をとり服に仕上げる1地域完結型の「生産者の顔が見える」地場産業を見て興味をひかれていた。2007年に初めて石徹白を訪問。食料から衣料まで自給自足する生活スタイルに接し、「ここでなら同じことができる」と直観して起業した。

店ではデザイナー、素材バイヤー、販売員と3役をこなす。カンボジアの絹のほかイタリアの麻、有機綿などを自ら買い付け、地元の縫製工場で服に仕上げる。

平野氏は「大量生産・大量消費型の商品に満足できない人が実は多い」とみる。石徹白は不便な山奥にあるが、非大量生産を象徴し、同店のストーリー性を補強する土地でもある。ここに注目したファンが目的買いに訪れ、インターネット上でも話題を呼びつつある。

将来は素材も地元で作る方針で、蚕を育てる準備や糸をひく練習も始めた。素材から製品までの工程をここで完結させることが、「顔の見える商品」を目指す石徹白洋品店の価値を最大限に高めるとの考えからだ。近くネット通販や各地への行商も始める予定だ。

人口300人足らずの集落にある築130年の民家を改修して開業した

過疎地の個人店となれば業容の拡大には限界がある。ただ、消費のトレンドの一端を捉えるうえで「不便な土地」が価値につながる場合もある。今後、石徹白洋品店のような小さな流れが、一つのうねりに集約されていく可能性もある。

相性次第で「好立地」に

都心部や中心市街地から離れた立地の潜在的な集客力はどれだけ高まっているのか。博報堂若者生活研究室の原田曜平アナリストは、インターネット通販の普及で現実の店に出向く必要性が薄れた結果「近い、遠いで消費の場を選ぶ人は減り続けている」と指摘する。

むしろSNS(交流サイト)で情報発信するのが当然の若者の間では「他人と重複しやすい都心より、地方の店や施設の方が『ネタ』として訪れる意味があると考える人も多い」。

もちろん、人通りが多く買い回りに便利な都心部や中心市街地の集客力は無視できない。ただ、大都市では専門店などの攻勢で競争が激化し、一方で地方都市の中心市街地は地盤沈下が止まらない。また、開発や運営のコスト面では都市部と地方の差が再び開きつつある。公示地価、路線価とも東京などは全国に先駆けて底打ち感が強まり、商業施設の賃料も都心の一部で上昇に転じた。

若者を中心とした消費者の嗜好に加え、競争状態やコスト事情もめまぐるしく変化している。周辺人口や交通の便といった条件だけでは、最終的に収益が上がる場所を割り出しにくくなっているのが実情だ。

半面、これらの立地から離れた、従来は商業的に不毛とみられていた地域のコスト優位性は高まっている。さらに店のコンセプトと地域の特性がかみ合えば、新たな商機を掘り起こす余地も広がる。いずれの事例も業態や業容の差こそあれ「この場所なら、この商法で」という攻めの意識が強い。「遠隔地だから」というあきらめはない。

立地戦略の方程式は複雑さを増している。自らの営みと、その土地ならではの価値の相性を探り当てる嗅覚が、思わぬ「好立地」を生み出す可能性がある。(消費産業部 堀大介)

[2012年7月8日付 日経MJ]

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