/

実質コスト「ゼロ」 離陸するか、家庭向け省エネサービス

 日本や欧米で家庭における省エネルギーを支援する「家庭版ESCO(energy service company、通称:エスコ)」ともいえるビジネスが立ち上がっている。設備費の導入コストを光熱費の削減で相殺できるのがウリだ。ICT(情報通信技術)の活用で家庭のエネルギー利用情報を効率的に収集・分析できるようになったことに加え、家庭の省エネを促す公的な制度が整ってきたことが追い風になっている。

2013年4月25日、オリックスとNEC、エプコの3社は、合弁による新会社「ONEエネルギー」の設立と、同社による家庭向けエネルギーサービスの開始を発表した(写真)。

写真 オリックス、NEC、エプコの合弁会社「ONEエネルギー」による、家庭向けエネルギーサービスの開始を発表する記者会見の様子

NEC製の定置用Li(リチウム)イオン蓄電池(5.53kWh)とエプコが開発したスマートフォン(スマホ)を使った家庭向けクラウド型エネルギーサービス「ぴぴパッ!」を組み合わせ、システム一式を月額5145円でレンタルする。HEMS(住宅エネルギー管理システム)設置への補助制度のある東京都内であれば月額3045円になる。

サービス開始を発表する記者会見で、ONEエネルギーの小島一雄社長は、「4人家族の場合、電力料金の昼夜間格差を活用して、夜の安い電気を貯めて昼に使えば月額2500円~3000円のコスト削減が見込める。都内であればお客様の実質負担はなくなる。東京都でなくても『太陽光屋根借りプラン』を同時に契約すれば、実質負担ゼロで災害時などに非常用電源を確保できる」と、新しいエネルギーサービスの利点を強調する。

「太陽光屋根借りプラン」とは、ONEエネルギーが住宅の屋根を定額で借りて太陽光パネルを設置するサービスで、南面屋根に4kWの太陽光パネルを設置できた場合、月額で約2500円の賃料収入が得られるという仕組みだ。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(フィードインタリフ:FIT)の施行によって可能になった。

従来は企業向けが中心

ここにきて、家庭の省エネルギー支援をビジネス化する動きが欧米や日本で活発化している。

いずれも省エネ効果によるエネルギーコストの削減によって、住人にとって実質的なコスト負担がないことが特徴だ。従来、こうしたESCO事業が成り立つのは、光熱費の額が大きく、省エネ投資の費用対効果が大きい企業向けが中心だった。

ESCO事業者が省エネ効果の大きい設備改修を提案し、資金調達から設置工事を一括して請け負う。それによる月々の光熱費削減額は、設備費と金利、ESCO業者の手数料を分割した額より大きいので、企業は初期投資を負担せずに、省コストを達成できる。

光熱費の額が相対的に小さい家庭市場ではこうしたビジネスモデルが成り立ちにくいのが実態だった。だが、ICTの活用で家庭のエネルギー情報を効率的に収集できるようになったことに加え、HEMSへの補助金やFITなど政府や自治体が家庭の省エネを促す制度を続々と導入し始めたことで、家庭向けの省エネ支援ビジネスに追い風が吹いている。

「ぴぴパッ!」は、太陽光発電量を予測しながら、蓄電池を自動制御して電気代を節約する。このほか、NECのクラウドと連携して、電力使用量のデータを蓄積し、時間ごとにグラフ化するなど「見える化」に加え、「節電ナビゲーション」という機能で光熱費の削減方法をアドバイスしてくれる。

例えば、削減目標を月2000円と設定すれば、「(電気料金の安い)早朝に洗濯する」「ご飯を1日分まとめて炊いて冷蔵庫に保存する」などの節電メニューが表示される。「節電ナビ機能を使って光熱費を削減すれば、コスト負担がないばかりか、経済メリットを得ることさえできる」と、岩崎辰之・エプコグループCEOは話す。

英国で始まった画期的な政策

一方、先行する英国では、より大規模にこうした家庭向けの省エネ支援を後押しする新制度が動き出している。第二次世界大戦以降で、最も画期的な消費者向けの省エネルギー政策――。2013年1月に始まった「グリーンディール」制度に英政府はこんな前置きを付けている。ビジネスチャンスと見た多くの民間事業者が宣伝文句に引用して、華々しい商戦を繰り広げている。

その仕組みはこうだ(図1)。制度の適用を受けようとする消費者は、まず、政府認定の「グリーンディール評価員」に住宅の省エネ改修の効果などの評価を依頼する。評価員は、建物の設備仕様や家族構成を消費者からヒアリングし、スマートメーター(次世代電力計)などを通じて蓄積した過去のエネルギー使用データを分析して、どんな省エネ設備を導入すれば、どの程度、光熱費を削減できるかを評価して提示する。

図1 英国で2013年1月に始まった「グリーンディール」制度の仕組み。評価員、グリーンディール提供者、設備設置業者は、国の認定を必要とし、一定のレベルを維持する

これを元に、消費者は金融機関などの「グリーンディール提供者(グリーンディールプロバイダー:GDP)」とともに、その改修案に関して検討する。そして対策を取捨選択して決定し、GDPと融資契約を結ぶ。

GDPは、省エネ設備の設置業者に対して工事を手配する。工事完了後、電気料金とともに請求する工事費用の分割額と期間の情報を電力会社に通知する。消費者は月々の電気料金と一緒に設備費用と利子を分割して支払っていくことになる。この支払額は、省エネ改修による光熱費削減額より、小さくなるのが基本だ。従って、消費者は初期投資なしで省エネ設備を導入し、光熱費を下げられるわけだ。

英政府は、断熱材の装着やボイラーの高効率化、窓を二重ガラスに替えるなどで、暖房費用を抑える対策などが有望としており、こうした産業を中心に2020年代には20万人の新規雇用が生まれると試算している。

肝は資金回収リスク下げる仕組み

グリーンディールが画期的なのは、グリーンディール評価員というエネルギー情報を分析して評価する省エネアドバイザーが事業性を持つことだ。これまで個人向けのESCO事業は成り立ちにくかったのは、企業に比べ光熱費の額が少ないことのほか、個人の場合、与信管理が難しく分割請求する場合のファイナンスのリスクが高いことも原因だった。

グリーンディールでは、電気代と一緒に設備費と利子を徴収して資金回収リスクを大幅に下げることで、個人向け案件を大量に発掘して事業効率を高めようとしている。電力会社が設備コストの回収を代行する点に制度の革新性がある。

米国ではベンチャーが成長

米国でも家庭の省エネ促進に電力会社を巻き込んだことで、ベンチャー企業が家庭向け市場での事業化に成功し、成長している。

米クリーンテックベンチャーの有望株として知られるOpowerは、スマートメーターで集めた住宅のエネルギー使用情報を分析して、図表などに示したレポートを消費者に送付することで、節電行動を促すことに成功している。

図2 米ベンチャーのOpowerのビジネスモデル。電力会社は州政府が定めた規制値を達成するため、省エネ意識を高める分析レポートの作成をOpowerに委託している

2007年に創業した同社のビジネスモデルの特徴は、電力会社と契約し、収入を得ていることだ(図2)。複数の電力会社が、エネルギー使用状況の分析レポートを同封した料金請求書の作成をOpowerに委託している。

背景には、米国では州政府がエネルギー供給事業者に対して、顧客の省エネを推進する義務を課していることがある。これはEERS(Energy Efficiency Resources Standard)と呼ばれる制度で約20州が導入している。顧客への省エネ意識の向上策として、Opowerのレポートが採用されている。

同社は電力使用状況をグラフ化するとともに、同規模の世帯と比較するなど、行動科学に基づいて適度に競争心をあおることで、節電意識を高めている。現在、75社の公益企業から約1500万世帯分のレポート作成を請け負っており、毎年約2%の使用量削減という実績を上げているという。

スマートグリッドから「ソフトグリッド」へ

これまで国内で家庭向けの省エネ関連ビジネスというと、省エネ家電や断熱改修などハードの売り切りビジネスが中心だった。家電エコポントや住宅エコポイントもこうした環境ビジネスを支援してきた。だが、米国におけるエネルギービジネスの方向性は、「スマートグリッド」から「ソフトグリッド」に移ったと言われ始めた。

住宅へのスマートメーターの設置自体ではなく、新型メーターで収集したエネルギー使用データをいかに分析して生かすかが、家庭市場でのビジネスモデル構築のカギになっている。英国や米国ではこうした新技術を公的な制度がうまく後押しして、新ビジネスを生み出している。

日本でも、冒頭で紹介したONEエネルギーがHEMS補助制度やFITを活用して家庭の省エネ支援サービスの開拓に乗り出した。だが、経済メリットが出る場合が限定されるなど、ビジネスモデルを確立できるかどうかは、まだ不確かな面もある。省エネ支援サービスの家庭市場を成長させるには、エネルギー使用データを活かせるような斬新で革新的な公的な制度設計が期待されている。

(日経BPクリーンテック研究所 金子憲治)

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

関連企業・業界

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン