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懐かしのゲーム「くにおくん」、北米で復活 著作権事業に新風

ジャーナリスト 新 清士

 すでに"旬"を過ぎたと考えられている過去のゲームコンテンツをリメークし、海外で新しい商品として再生するビジネスが動きだした。ファミリーコンピュータ(ファミコン)全盛期に登場した格闘対戦ゲーム「くにおくん」。子供のころ熱狂的なファンだったカナダのゲーム開発者は、日本のコンサルタントによる支援やインターネットを通じて個人資金を募るクラウドファンディングを活用。試行錯誤の末、ついに商品化にメドをつけた。ネットの普及とともに多くのスタートアップが生まれ、新しいビジネスが登場している。コンテンツの著作権分野でも新しい風が吹き始めた。

シリーズ作品が続々登場したが…

くにおくんシリーズはテクノスジャパンが開発・発売したコンピューターゲーム。正義の不良「くにお」が悪人を退治する格闘対戦ゲームで、登場する数々のユニークなキャラクターや派手なアクションシーンが大人気を得た。1986年にゲームセンター用に登場し、ファミコンや任天堂の携帯型ゲーム機「ゲームボーイ」用などにも主にシリーズ作品をリリース。90年代まで新作が登場し続けた。

その後、同じキャラクターを使ってドッジボールやサッカーなどのスポーツゲームにも進出、ジャンルを広げた。ただ、当時の作品を見ると、ゲームの映像は昔ながらの2次元のドット絵で描かれており、見るからに古い印象は否めない。家庭用ゲーム市場では高画質のゲームが次々に登場して競争は激しさを増す一方。くにおくんシリーズを手がけていたテクノスジャパンは変わりゆく3次元グラフィックスなど変化する技術に付いていけず、96年に倒産の憂き目にあっている。

同社の元開発スタッフたちによって、くにおくんシリーズの新作は2000年代に入ってからも登場したが、もはや過去のような爆発的な人気は得られなかった。いつの間にか「昔のゲーム」という存在になり、日本では忘れ去られてしまった。

カナダのコナタスクリエイティブ(オタワ)は、ダニエル・クレンナ氏やバンノン・ルディス氏らが経営するスタッフ5人の小さな独立系ゲーム開発会社だ。北米では「リバーシティランサム:アンダーグラウンド(ダウンタウン熱血物語)」のタイトル名で発売されたくにおくんシリーズに子供のころ熱中したクレンナ氏らは、このゲームをリメークしたいと考えていた。

現在のゲーム環境に移植し、正当に進化させたものをつくりたいという強い願望を抱いていたのだ。リバーシティランサムは北米で89年に発売され、今も現地に熱心なユーザーがいるという。

 北米では正式な許可なしに、アップルのスマートフォン(スマホ)「iPhone」向けなどに勝手に開発されたリバーシティランサムが登場していた。しかし、グラフィックスや操作感が違っていたり、ゲームバランスが悪かったりと、当時のゲームとはまるで別物だった。クレンナ氏らはそうしたニセモノに不満を抱いていたのだ。

マッチングサイトを通じて知り合う

そこで、正式に版権を取得して開発したいと考えた。しかし、日本企業が持つ、くにおくんシリーズの開発・販売権を取得するためには、いったい誰に連絡すればいいのかが分からなかった。

クレンナ氏のサポート役になったのが、ベンチャー企業のコンサルティングなどを手がけるゼンスタートアップ(東京・渋谷)社長の町田龍馬氏だ。海外留学経験を持つ町田氏は、米クラリティ(Clarity)というコンサルタントのマッチングサイトに登録していた。このサイトは、自分の仕事のキャリアと時間当たりのコンサルタント料金を設定しておくと、関心を持った人から連絡が入るという仕組みだ。

町田氏は同サイトで「コンテンツマーケティングブログサイトの構築を行う業務をしている」と自らを紹介。何らかの仕事につながる機会が得られることを期待して、コンサル料金は最低ラインの1分当たり1ドルに設定していた。

それを見たコナタスクリエイティブのスタッフが、町田氏にコンタクトしてきた。同社のクレンナ氏らは誰に連絡を取ればくにおくんの権利を取得できるのか分からなかったが、とりあえず日本人で英語でのビジネス経験がありそうな人に連絡を取ることにしたのだ。

カナダ企業の日本側代理人に

連絡を受けた町田氏にしても、くにおくんがどんなゲームなのか知っているわけではなかった。そこで、くにおくんに関する日本での権利関係などを調べてみると、現在はミリオンという会社が版権を持っていることが分かった。

版権の取得交渉をするなら、相手と直接会って話す方がスムーズだ。町田氏はコナタスクリエイティブの日本側代理人としてミリオンと交渉することになった。その結果、版権を持つミリオンに前金を支払うことで、ウィンドウズ版の開発・販売権と、ゲーム内容についてオリジナル要素を拡充する権利を獲得した。

ただ、コナタスクリエイティブにはもう一つ大きな課題があった。独立系開発会社の同社に十分な開発資金がないことだ。そこで注目したのが、ネットを通じて個人から少額の資金投資を募るクラウドファンディングサイト「キックスターター」を利用したキャンペーンだ。同社は9月9日に始めたキャンペーンで、1カ月で18万カナダドル(1カナダドルは約1.05米ドル)取得を目標に設定した。

 投資金額のプランとして16種類を用意。金額は5カナダドルから8000カナダドルまでと多様だ。各プランに様々な特典が付いている。例えば、60カナダドル以上のプランを選んだ人は、ゲーム完成後にデジタルダウンロード版を手にできる。150カナダドル以上の投資をした人には、くにおくんオリジナル版の"伝説的開発者"とされる岸本良久氏のサインや印刷されたマニュアルを同封したボックスバージョンを進呈する。

資金獲得へゲームの魅力アピール

このサイトでは、キャンペーン期間中に目標金額に達しなければ1ドルも得ることができない。成功すれば手数料を支払って資金を獲得できる。くにおくんのさらなる機能拡充や英語版以外の言語への対応などの開発費用、ウィンドウズ以外の基本ソフト(OS)を搭載したハード機器向けバージョンを開発する権利費用などを手当てするためには、キャンペーンの成功が絶対条件だったのだ。

同社はゲームのくにおくんが好きなユーザーに少しでもアピールするため、メディアのゲーム関連ニュースに取り上げられるよう積極的に働きかけた。その中で、「アレックス」という米国版オリジナルの新しいキャラクターを追加することを発表したり、専用の開発ツールの制作過程や岸本氏について紹介したりするなど、様々な工夫を凝らした。

実際に会うことなく進むプロジェクト

キャンペーンで集まった資金が20万5000カナダドルを超えると、ウィンドウズ以外の「マックOS」と「リナックス」向け販売権を取得することができ、さらに大きな金額が集まると、他のゲーム機への開発・販売権を取得できるという点もアピールした。

結果的に5179人が投資し、21万7643カナダドルを集めることに成功。同社はウィンドウズとマックOS、リナックスの開発・販売権を獲得できた。現在販売されているゲーム機での販売権は獲得できなかったが、より多くのパソコンで発売するための選択肢は増えた。

キャンペーンで集まった21万ドルは、大手ゲーム会社にとっては開発費として小さいが、独立系開発会社にとっては非常に大きな金額だ。

エグゼクティブプロデューサーとしてコナタスクリエイティブに助言する立場だった町田氏は、現在もスタッフとして開発プロジェクトに参加している。しかし、今年3月に初めて両者がコンタクトして以来、現在に至るまでコナタスクリエイティブのスタッフらと直接会うことなく開発プロジェクトを継続している。リメークされたリバーシティランサム(=くにおくん)の新作発売は来年夏の予定だ。

 米国ではクラウドファンディングを使ってゲーム開発費を獲得するケースは一般化している。今回のくにおくんのように、最近は日本のゲームがクラウドファンディグを活用して資金を集める動きが注目されている。コンセプト(大阪市)代表の稲船敬二氏が開発するアクションゲーム「マイティ ナンバーナイン」もその一つだ。

「ちょっと格好いい」ゲームに支持

同社がこのゲーム開発のため8月31日から10月2日まで募集したキャンペーンでは、目標金額90万ドルに対し、384万5170ドルを集めるという大成功をおさめた。稲船氏はかつてカプコンでアクションゲームの「ロックマン」シリーズを開発していたが、10年に独立した後は直接携わることはなかった。

今月5日にカナダ大使館で行われたゲーム関連のイベントで、稲船氏は「世界中どこに行っても『ロックマンはどうなったのか』と尋ねられ、現在もファンレターが送られてくる」と述べていた。そうしたことから「これはビジネスになる」と判断したという。もちろん、ロックマンの版権は現在、稲船氏の手元にはない。そこで、もともとのロックマンとは違うキャラクターを使い、新しいデザインのゲームとしてつくり直すことにしたという。

稲船氏は「大ヒットして、誰でも知っているあまりにも有名なゲームより、過去に数十万本売れた、ちょっとヒットしたようなゲームの方がクラウドファンディングに向いている」と指摘する。ユーザーからすると「このゲームを知っているのがちょっと格好いい」といった感じのゲームが支持されやすい、との見方も示した。

"眠れるファン層"がビジネスになる

町田氏は「日本人が思っている以上に、海外のゲーム開発者の中には、日本の古いゲームの熱狂的なファンが存在すると考えるようになった」と話す。くにおくんはその一例で、ニッチなゲームだからこそ、強く支持してくれる"眠れるファン層"がいるのではないのかと考えているようだ。「今後もこうしたケースがあるはずで、ぜひ支援していきたい」とゲームを舞台にした新しい著作権ビジネスに意欲をみせる。

今や誰にも見向きされず、眠っているような古いゲームが、海外の熱狂的なファンによって新しくつくり直され、商品として発売される。しかも、そうした一連の作業はネットを通じた海外との人的なつながりや資金調達によって進み、プロジェクトの当事者同士が直接顔を合わせなくともビジネスとして成立する。北米では当たり前になりつつあるそんな新たなビジネスの枠組みが今、日本でも動き出した。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶応義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。立命館大学映像学部非常勤講師も務める。グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にもメンバーとして参加している。著書に電子書籍「ゲーム産業の興亡」 (アゴラ出版局)がある 。

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