ヤンキースがほれ込んだ 田中の闘争心と平常心 - 日本経済新聞
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ヤンキースがほれ込んだ 田中の闘争心と平常心

「父も天から見て、笑っている。すごいワクワクしているよ」。ハル・スタインブレナー共同オーナーは11日、田中将大(25)のヤンキース入団会見で苦笑いしながら話した。亡父ジョージ・スタインブレナー氏は勝つためには金に糸目をつけなかったのに対し、ここ数年、財布のひもを締めてきた息子。プレーオフ進出を逃した昨オフ、大型投資にゴーサインを出し、次々と結んだ契約の最後で最高額が田中だった。ヤンキースが投手史上5位、7年総額で1億5500万ドルもつぎ込んだのは田中の闘争心と平常心にほれ込んだからである。

度肝抜かれたニューヨークのメディア

「ヤンキーらしい登場の仕方だ」。渡米の手段だけで田中は米メディアのハートをつかんだ。田中自身に加え、妻やスタッフら10人にも満たない人数の渡米に、米ボーイング社が誇る787型機、通称「ドリームライナー」を19万5000ドル(約2000万円)も払ってチャーターしてきた。その理由について「(ほかの)選択肢がなかった」と答えていたが、派手なことに慣れたニューヨークのメディアも、控えめと思っていた日本人、しかも25歳の青年の行動には度肝を抜かれた。

本物の田中はどんな人だろうという純粋な興味は別にして、米国人の最大の関心は日本とそれほど変わらない。まだ1球もメジャーで投げてないのにこれほどの高額契約をして、活躍できなかったらバッシングも受けてプレッシャーは相当あるだろう――。この1点に集約できる。

重圧は無関係、やるべきことは同じ

会見でも話題になったが、田中は自分でコントロールできる面と、そうでない面があることを分かっている。「ヤンキース側に評価してもらった数字なので、僕はそこにプレッシャーを感じる必要はない。プレッシャーを感じようが、感じまいが、やるべきことは同じ。しっかり準備してマウンドに上がることが大事」

今オフは移籍市場で有力投手が乏しく、田中へのニーズは大きかった。その点が分かっている代理人、ケーシー・クロース氏は「6年総額1億2000万ドル以上」を最低条件として求めた、と米メディアは伝える。田中の意思と無関係に金額は高騰したが、これを申し訳なく思う必要はない。何といっても、高年俸も「ヤンキースの一部」(ジラルディ監督)だから。

いい投球し歓声送られることをイメージ

「心配することばかりにとらわれないで、成功して、いい投球して、歓声を送られることをイメージしている」。田中はこう答えている。

期待通り活躍できなかったらどうなると考えるよりもボールに慣れる、生活のリズムをつかむ、打者を研究する、リラックスする……。田中がほかにしなければならないことはたくさんある。

こうしたことも田中は分かっているのが頼もしい。入札の際、そもそも「プレッシャーが少ないから、適応しやすい」とアピールした他チームもあったようだが、そのようなチームを選んでいない。

チャーター機と同様、田中が印象づけたのはそのたたずまいだろう。「ワクワクしていますよ」と言っていたが、会見を通して田中の声がうわずることも、こらえられない笑いが顔に漂っているのでもなかった。非常に落ち着いていた。

天性の闘争心、成功に欠かせず

「どしんと構えているというか、強い若い男がいた」。ジラルディ監督は1月、カリフォルニア州ビバリーヒルズで初めて田中に会った印象をこう語った。キャッシュマン・ゼネラルマネジャー(GM)も「彼はいつも平常心。でも、米国で腕試ししたい気持ちが強いのは感じた」。こうした点が「松井秀喜に似ている」ともらしたヤンキース関係者もいると言われるゆえんか。

研究熱心なジラルディ監督は、田中の試合の映像を大量に見たという。速球、スプリット、チェンジアップ、スライダー、カーブなどそのすべてを「いい」と話した後、「彼は走者を背負ったとき、必要に応じて一段違うプレーレベルに上げられる。天性の闘争心が気に入った。これは成功に欠かせない」。

トップ選手の本当のすごさは「絶対に落としたくないポイントで、集中力のギアを上げられるところにある」。男子テニスの錦織圭(日清食品)がこう話したことがある。体力と集中力に緩急がつけられれば、省エネにもなる。球数の多さについて、ジラルディ監督はそれほど気にしておらず、むしろ昨年の日本シリーズで連投した心意気を「気に入っている」と言った。

「夏場までに先発1番手に」が本音

入団会見の前日、ケーブルテレビ局が日本シリーズで田中が先発した巨人戦を放送した。スポーツ専門局ESPNの記者はじっくり見たという。キャッシュマンGMから、田中をサバシア、黒田博樹に続く先発3番手と見ていると聞いたそうだが、「本音は6月、少なくとも(7月中旬の)オールスターまでには1番手になってほしいと思っている。またそうなる可能性はある。今のサバシアはキレがないだけに、思いは切実だろう」

プレッシャーの強さばかりに目がいくが、ヤンキースはプレーしやすいチームでもある。米球界で移籍を経験した松井、イチロー、黒田の全員が口をそろえる。「勝利を求められるという点でみんな同じ境遇だから、助け合っているというか、気持ちが通じ合うんですよね。選手同士の気配りがあって居心地がいい」と黒田。

フィールド内外で最高水準を用意

「ピンストライプのプライド」はフィールド内の勝利だけでない。段取りはきちんとしており、宿泊ホテルから食事、セレモニー、待遇に至るまで最高の水準が用意されている。ヤンキースタジアムでの入団会見も、スイート席用の場所に設定。2003年の松井の入団会見以来の「(ジョージ)スタインブレナー級の大きさ」(キャッシュマンGM)で迎えた。

「監督、選手として、ヤンキースとそれ以外のチームを両方経験した私が言う。ヤンキースは君だけでなく、家族の人生も変える。永遠に。ヤンキースのような環境でプレーできるチームはない」

1月、田中と直接面会したジラルディ監督がアピールした言葉に加え、「すごくいいところだよ」という松井のビデオメッセージによるアドバイス。ヤンキースの口説き方もすこぶるぜいたくだった。

(原真子)

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