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「販路」まで設計し直し 木製チェア会社の高い志

モノ作りの「殻」を破れ(1)

 高付加価値製品に活路を見いだそうとする日本のモノ作り企業にとって、消費者の心にささる製品デザインを創造することは最重要戦略の一つだ。しかし、時間も投資も重ねてせっかく魅力的なデザインの製品を生み出したとしても、ネットを中心に販路が多様化する中、従来の販路だけに甘んじていては飛躍の機会を逃しかねない。今、モノ作り企業に求められているのは、自らの意識の「殻」を破り、製品だけでなく新たな販路までデザインし直すことだ。全5回の本連載では、そうした変革企業の取り組みを紹介していく。

広島県に本社を構えるマルニ木工が、2012年12月期、ついに黒字に転じる見込みだ。1991年度から減少し続けた売上高が、ようやく回復に向かったのが2010年度のこと。その後、堅調に推移し2012年度の売上高は約26億円の見通しとなり、黒字化達成が濃厚だと言う。

この復活劇の原動力は、2008年に発表し、同社が主力商品の1つに据えた「HIROSHIMAアームチェア」だ。発売当初は月産40脚ほどだったが、現在では、月によっては約400脚を製造する。既存シリーズの売上高が横ばいのなか、アームチェアを含むHIROSHIMAシリーズは名実共に主力商品に成長し、同社の黒字化を支える大きな存在となった。

家具業界の常識破り、伊勢丹で直接販売

「やっとここまで来た。ボーナスもろくに払えず、しんどい思いもしたが…」。こう振り返るのは、マルニ木工の山中武 代表だ。1928年に創業した同社はこれまで、百貨店や家具専門店を通じての販売が主な販路だった。しかし、業績回復には今まで以上に消費者と向き合うことが欠かせないと考え、同社の技術を生かしたHIROSHIMAシリーズの開発に取り組んだ。

世界と戦えるデザインと高品質な家具を武器に、販路開拓に乗り出す。しかし、そこには高いハードルがあった。家具業界ではメーカーが直接小売りをする慣習がなかったこと。また、それに伴い、消費者と直接接する機会をほとんど設けてこなかったことだ。そこで、新たな販路を見据えながら、既存の売り方を超えたさまざまな方法でユーザーとのコミュニケーション創出に踏み出した。マルニ木工の、新しい売り方をデザインしようという挑戦である。

今年(2012年)4月に伊勢丹新宿店で、期間限定で開催した「自分だけの『HIROSHIMA』に出会う」は、その好例だ。この企画は、会場に並んだHIROSHIMAアームチェアの塗装前のパーツを来場者がセレクトし、自分でパーツを組み合せた1脚を購入できるという催し。実験的で手探りとも言えるこの販売方法には、1つひとつ木目や表情が異なる商品の魅力をそのまま伝えたいという、売り手の思いが込められている。また、ユーザーにパーツを選ぶという行為を委ねることで、ユーザーが商品に興味を持ちやすい状況を作り出すことに成功した。

会場には、広島から木材選別と木工加工の職人が訪れ、部材セレクトのアドバイスやサポートをしながら、企画の意図などを伝えた。商品を組み上げてから販売する従来の販売方法と比べると、ユーザーにより近付いた販売方法と言える。

「欠点」を売りに変え、新たな販路を創造

これに先立ち、2011年3月には「より個性あるHIROSHIMAと出会う」という企画も実施した。このときは、同社の品質基準には満たない、表面に節や染みなどがある商品を販売。木と向き合い、欠点とされている節や染みを「木が生きてきた証」としてとらえ直し、ユーザーとコミュニケーションを図った。左右の肘掛けの木目をきれいにそろえるなど、完成度を追求する同社としては、例外的な試みと言える。

HIROSHIMAアームチェアは、製造行程で節などが確認されて品質に満たないと判断されれば、カラー塗装モデル用に工場内にストックされる。しかし、長期間ストックされたままになれば、木肌が毛羽立ったり、割れが発生したりすることがある。伊勢丹での催しには、在庫として抱えていたストックの欠点を逆手に取り、新しいニーズをつかむという側面がある。作り手からすれば欠点には違いないが、その欠点を個性ととらえるユーザーを獲得できれば、新しい販路が生まれる。

山中代表は「節や染みも木の表情ととらえてくれるお客がいらっしゃると感覚的には思っていたが、正直、売れるかどうかはやってみないと分からなかった」と語る。だが、用意した30脚のHIROSHIMAアームチェアは、わずか1週間という短期間で完売した。コミュニケーションを工夫し、ユーザーの商品への理解を深めれば、新しい売り方ができる。未来の販売展開に向けて、大きな手応えを感じた取り組みだったと言う。

ファンドを立ち上げ、「ファン」を顕在化

ユーザーとの接点をデザインするという取り組みは、売り場に限った話ではない。マルニ木工は今年、さまざまな証券化事業を手掛けるミュージックセキュリティーズのファンドシステムを活用し、「マルニ木工ファンド2012」を立ち上げた。「弊社の想いを広く共有し、時には厳しい消費者の目で見守っていただける仲間を募集いたします」と宣言し、1口5万円で広く出資者を募ったのだ。

山中代表は「これまで、中小企業が資金調達するには金融機関からの借り入れくらいしか方法がなかったが、ファンド設立はプチ上場とも呼べる資金調達の新たな選択肢」とマイクロファンドの有用性を語る。

ファンド設立には、資金調達と同時に大きな狙いがあった。それは、同社のファンを発掘する新しい接点とすること。メーカーとユーザーとの接点は、商品を販売する売り場に集中している。しかしファンドという資金調達を通じることで、売り場でのコミュニケーション以外に、消費者との接点を作れる。ファンドへの出資者は同時にマルニ製品の潜在顧客になり得る。いわば資金調達から販路開拓までのプロセスをゼロからデザインする試みだ。

ファンドの特典には、分配金はもとより、工場見学ツアーなどを設けた。同社では、工場見学もコミュニケーションの1つと考え、近年、取引先などを中心に、製造現場を積極的に公開している。

昨年度は1年間で200人を超える来場者が工場見学に訪れた。生産現場を紹介することはスタッフのモノ作りへのモチベーションを高め、取引先の販売スタッフが製造工程を目にすれば、より説得力のあるセールストークにつながる。また「マルニ木工の商品は高価と思っていたが、製造行程を見て納得した」という来場者からの声に代表されるように、商品価値の理解を促したのも工場見学の効果と言える。

実は、伊勢丹新宿店で開催した2つの企画は、伊勢丹のバイヤーが工場見学に訪れたことがきっかけで実現した。伊勢丹側が開発背景やHIROSHIMAアームチェアの本来の美しさを十分理解してくれたことが、実験的な販売方法に取り組むうえで大きなポイントになった。

展示会への積極参加で海外販路も拡大

マルニ木工は、近年、海外においてもパートナーを次々に獲得し、販路を拡大している。海外の取扱店舗は年内に20カ国以上、33店舗まで増加予定で、HIROSHIMAシリーズが掲げた"世界の定番を作る"という目標が現実になりつつある。

海外での販路拡大は、商品力や営業力だけでなく、海外で積極的に行ってきた展示会に支えられている。成果を上げ始めた海外での実績は、2005年のミラノサローネで発表した「nextmaruni」にさかのぼる。過去のさまざまな取り組みがHIROSHIMAシリーズに代表されるブランド力として実を結んだ結果、海外販路拡大に有利に働いているのだ。

また、海外販路が増えれば、海を越えて評価されたHIROSHIMAシリーズの名声が国内にも聞こえてくるはずだ。海外からの声が、国内の取引先や消費者の意識に好ましい影響を与えることも期待できる。

モノ作りにも好影響を及ぼしている

ユーザーとの新しい接点を作り、新しい販路を開拓する──。この「いかに売るか」という観点でのデザイン思考は、モノ作りの面にも変化をもたらした。従来と比べて、ユーザーのリアルな要望を把握できるようになったのだ。これまでは、取引先を訪ねてみたところで、同業他社の売れ行き好調な商品を知ることくらいしかできなかった。

「お客様と向き合えば、ちょっとした座り心地や使い勝手がいかに大切かが分かる。こうした生の声に耳を傾けた工夫の1例が、座面が布張りのHIROSHIMAアームチェア。ファブリック部分だけを取り外してドライクリーニングできるようにした」(山中代表)。

商品だけでなく、シーズンごとに開催する展示会にも変化が表れた。従来はただ商品を並べ、取引先に掛け率や他社との違いを紹介するシーンが多かった。しかし、現在は、工場に東京のスタッフが取材に訪れて工場の様子を紹介するパネルを設置したり、職人の実演を取り入れるなど、商品の魅力を伝えようとする工夫が随所に見られるようになってきた。こうした工夫が功を奏し、最長でもせいぜい1時間だった展示会来場者の滞在時間が、徐々に伸びていると言う。

とはいえ、マルニ木工が目指す販路開拓は、同社が掲げる「100年経っても"世界の定番" として認められる木工家具を作り続ける」というモノ作りの高い志があってこそ。顧客とのコミュニケーション作りに挑戦し、変化に柔軟に対応しても、決して変わらないのがモノ作りへのこだわりだ。

HIROSHIMAアームチェアは、セットになるテーブルの下にしまうとき、いすの肘掛けが天板に引っかからないギリギリの高さに設計されている。同社の開発部門が提案したアイデアだ。あえてパーツ売りをしたり、マイクロファンドを利用してファンづくりをしたり…。新しい売り方のデザインの裏には、世界に通用する商品を生み出したいというモノ作りの志が息づいている。

(次回は10月24日に掲載)

(日経デザイン編集部)

[日経デザイン2012年9月号の記事を基に再構成]

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