2018年12月16日(日)

高橋温・住友信託銀行相談役(岩手県松尾村=現八幡平市=出身)

2011/4/14付
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今、言語を絶する苦境にある東北の人々。この身を安泰に置いたまま、その人々に慰めとなる言葉がはたしてあるのだろうか。気持ちは沈む。

私は少年期まで父祖伝来の地である岩手県八幡平市(元・松尾村)で過ごした。母は福島市の出であるから、いわば生粋の東北人である。目を閉じて故郷を思う時、心に浮かぶのは、故郷の恵みと今は亡き父母のことである。

1952(昭和27)年夏、小学校5年生の時に岩手県大槌町の海浜学校に参加、初めて大海原、漁港というものを見た。私は子供のころ体が弱く、よく熱を出して学校を休んだのであるが、その年の冬は風邪もひかず、両親が「温(あつし)は今年は風邪をひかないね。潮風は体にいいんだね」と笑顔で会話していた風景を思い出す。あの港は……、泊まった学校は……、賄いをしてくれたおねえさんは……。

母は一昨年、94歳で亡くなったが、亡くなる数カ月前に少し話すことができた。それが最後の会話となったのであるが、私が「何か食べたいものある?」と聞いたところ、母は寝たきりで声もようやく聞きとれるほどであったが、返事ははっきりと「郡山の薄皮まんじゅうが食べたい」というものであった。

母は日ごろ自分の郷里の事はあまり話さなかったが、最後には生まれ故郷に帰った。その福島の人たちは今、不条理な風評被害に苦しんでいる。

私は誓う。東北の農産物、東北の畜産物、東北の海産物、東北の菓子、そして東北の酒、これらは草の根分けても探し出して、徹底的にこだわって喰らい、飲むぞ。

立て!東北人。ここでひるんでは、戊辰の役で朝敵の濡れ衣を着せられて果てた先祖に合わせる顔がないぞ。

高橋温・住友信託銀行相談役のメッセージについてのご感想は、こちらの投稿フォームからお寄せください。

読者からのコメント
村一番さん、70代以上男性
高橋さんと同郷で現在日立市在住のものです。当市も震度6強で電気・水道・ガスなど全てのライフラインがストップしたため、電気が復旧するまでまさか三陸海岸がこれほど被災しているとは思いませんでした。福島原発のそばを通る常磐線を通って帰省できる日はいつのことになるのでしょう。結婚してから母を連れて泊まった宮古市田老では世界一と言われたあの防潮堤を津波が破壊してしまったとは!郷里が早期復興することを願う気持ちは高橋さんと同じです。同氏の力強い言葉嬉しいです。
山脇さん、60歳代男性
統率力を亡くした首相が発した"国民へのメッセージ"にも、当事者意識を欠いてただただ棒読みの東電幹部の発表資料にも絶望と不安を感じていた時、高橋氏の生きた言葉に接し、氏のことばの力にこころが打たれました。同時にこうした経営者がまだ日本におられることで日本の未来に光を感じましたし、東北人の精神的な頼もしさを感じることができました。ありがとう!あと何年私が生きられるかわかりませんが、少なくとも復興の道程が見えるまでは生きていよう。
絹越東風さん、60歳代男性
高橋相談役のメッセージに同感です。特に最後の強いメッセージ「--戊辰の役で朝敵の濡れ衣をーーー」には我が意を得たり!と胸が熱くなりました。私も相談役と同じ郷里、同年代です。家内は我が祖先を朝敵の濡れ衣を着せた張本人である長州の出身ですが、この災難に当たり東北人の粘り強さ、常に感謝の気持ちを忘れない謙虚な気風を目の当たりにし、感動しています。必ずや復活して呉れるものと信じています。
40歳代女性
心にグッと来ました。この熱いメッセージを東北の皆様全員に是非読んでいただきたいです。日本を代表する経済界のリーダーの力強い言葉に、きっと勇気をもらうことでしょう。被災された皆様、お一人ずつの一歩の前進が大きな復興につながることを私も信じています。そして高橋さんの故郷への深い愛情に強く共感し、私も仲間と共に東北の物を食べ、飲み、彼らの1日も早い復興を願いたいと思います。
60歳代男性
被災者の方々ばかりでなく被災地に対する書き手の深い心情を想うと読んでいて涙が滲みました。
福田浩尚さん、60歳代男性
東北地方への震災へのメッセージ伝わりました。学生時代、宮古の浄土ヶ浜に遊びに行ったことを思い出します。美しい浄土ヶ浜にも津波が押し寄せ瓦礫が溜まっていると聞きました。悲しくなります。いつの日かあの景色が復活することを祈っております。
伊藤さん、50歳代男性
高橋さんのメッセージ、同じ東北出身者として目頭を熱くし読ませて頂きました。私も岩手出身で同じ様に家族や友人と三陸の海に出かけたものです。被災地の映像を見るたびに胸が詰まります。郷里の復興の為にささやかながらも東北の酒を肴を大いに食します。
ohigoさん、60歳代男性
高橋さん一番熱い呼びかけですね。素晴らしい!
greatangelさん、40歳代女性
記事を拝見して泣いてしまいました。私は米国人と結婚し、現在アメリカに住んでおります。父の転勤で各地を回りましたが、子供の頃は会津、福島、仙台と移り住みました。両親は退職後に福島に家を建て、現在も住んでおります。頑固だけど人情に厚く、そして正義感が強い、伊東正義のような人間が沢山いる、東北はそういうところです。想い出溢れるその東北が味わっている苦境を考える度、気持ちは沈み、遠くから応援することしか出来ないもどかしさにイライラしてしまいます。でも、東北人なら絶対に立ち直れる、そう確信しています。私の両親も大好きな薄皮まんじゅうをまた笑顔で食べられる日が来ることを願って。。。

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