2019年8月18日(日)

日米外交60年の瞬間 第3部

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臆測呼ぶ米国防長官の突然の訪日 サンフランシスコへ(14)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2011/11/19 7:01
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米国の国防長官が突如、ある国を訪問することはいまでも珍しくない。イラクやアフガニスタンを大統領や国務長官、国防長官が突然訪問するニュースがしばしば流れる。ほぼ共通しているのは、そこに米軍が展開していて、彼らは安全ではない任務に携わっていることだ。1951年の日本もそうだった。6月8日夜にマーシャル国防長官が突然やってきたのである。

■「朝鮮訪問は日露戦争以来」

マーシャルは極秘のうちに8日午前、いったん東京に着き、リッジウェー最高司令官を伴って朝鮮の戦場に飛び、ヴァン・フリート米第八軍司令官ら国連軍首脳と会談した。6時間の濃密な協議を終え、リッジウェーとともに午後10時55分、羽田空港に着いた。

訪日目的について公式な説明はなかったが、マーシャル自身は朝鮮と日本でそれぞれ記者団の前に現れた。朝鮮では「突然の朝鮮訪問に特別の意味はない」と述べた。「長い間、前線の第八軍を訪問したいと考えていた」とも付け加えた。国防長官による前線視察は珍しくはないから、それなりに理解はできる。

しかし突然の前線視察となれば、ワシントンでは様々な臆測が流れる。

AP電は、リッジウェーへの新指令を携行したのではないかとの観測を報じた。国防総省は公式な説明を避けたが、APが根拠にしたのは、「明確な新指令」を作成中であると述べたコリンズ陸軍参謀長の5月25日の上院軍事外交合同委員会での証言だった。

8日夜、羽田空港でマーシャルは記者団に「新しい指令を持ってきたわけではない」とAP報道を否定した。日本での、今風の言葉でいえば「ぶらさがり」というのかもしれない、記者団とのやりとりのなかでマーシャルは「朝鮮に行ったのは日露戦争当時、観戦武官として日本軍に従軍して以来だから47年ぶりである」と、びっくりする発言をした。

マーシャルは当時70歳。米国の閣僚としては高齢である。この老政治家は、米国政治史に残るキャリアを誇る。

陸軍のエリートコースであるウエストポイント卒業ではないのに、軍人として元帥まで上り詰め、第2次世界大戦後は国務長官になり、欧州復興のためにマーシャルプランを提唱した。50年9月に乞われて国防長官に就任、1年間だけ務めた。

■警察予備隊の能力も検討

53年にマーシャルプランの功績でノーベル平和賞を受けているのだから、これ以上輝かしい経歴はない。

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

トルーマン大統領がマーシャルに国防長官就任を要請したのは、朝鮮戦争に勝利するための「秘密兵器」と考えたからだろう。47年ぶりに朝鮮を訪問した51年6月の時点では和平交渉をめぐる観測も伝えられており、東京での記者団とのやりとりでは「和平交渉とは関係ない」とも述べている。この発言は、それ以降の展開をみれば、煙幕だったのかもしれない。

8日時点で「東京で何をするかは9日朝ワシントンから連絡があるまでわからない。ただし私の使命は対日講和とは関係ない」と述べていたマーシャルは、11日午後3時10分羽田発の軍用機でワシントンに向けて出発した。3泊4日の東京滞在の間、吉田茂首相とも会談した。

訪日を締めくくる形で11日午前11時45分からGHQで内外記者団と会見したマーシャルは、講和後の日本の防衛についてリッジウェーと協議したことを明らかにした。日本の警察予備隊と日本に進駐したばかりの米州兵2個師団の能力について検討した。

マーシャルが離日する5時間あまり後、午後8時50分、フィンレター米空軍長官が沖縄から羽田に到着した。極東の米空軍施設を視察するのが目的だった。これもまた講和後の日本と極東の安全保障を展望したものだった。

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