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電力料金が毎日変わるダイナミック・プライシング、生活にどう影響

「明日の午後1時から4時にかけて、特に電気代が高くなるんだって! 家にいるとエアコンやテレビでお金がかかるよなあ。よし、皆で涼しいところに出かけちゃおうか」――。こんな暮らし方が定着するかどうかを確かめる実験が、北九州市でこのほど始まった(写真1)。「北九州スマートコミュニティ創造事業」の一環として進められている「ダイナミック・プライシング」の実証実験である。

写真1 地域節電所の始動スイッチ投入の様子  2012年5月26日の式典において実証実験が始まった。スイッチを押すのは左から、橋本孝之 日本IBM会長、北橋健治 北九州市長、牧野聖修 経済産業省副大臣、明賀孝仁 新日本製鐵常務取締役、奥野嘉夫 富士電機取締役執行役員副社長。右側は北九州市の環境マスコットキャラクターの「ていたん」

ダイナミック・プライシングでは、需給状況の変化に応じて電力料金を日々、変動させる。限られた供給量に対して需要が過大になるであろう時間帯の電力料金を上げることで、電気を使う人の節電行動を促す。供給側から需要調整をうながすデマンドレスポンス(DR)と呼ばれる手法の一つである。

電力料金の上下に応じて、多くの一般消費者がどのように行動するのかは実は意外に分かっていない。そこで、供給側の狙い通りに家事や外出の予定を変えてくれるのか、あるいは変えてもらうには料金をどのくらい変化させればよいのかを確かめる必要があるのだ。

このダイナミック・プライシングに先行して導入されるのが、時間帯別の料金制度である。電力各社が2012年夏の節電対策として導入することを決めている。例えば東京電力の「ピークシフトプラン(ピーク抑制型季節別時間帯別電灯)」や関西電力の「季時別電灯PS」などがある。いずれも7月~9月までの平日午後1時から午後4時までをピーク時間とし、東電の場合は、昼間の26.53円に対しピーク時は44.6円、関電の場合は昼間20.62円からピーク時は52.82円にまで高める。

これらの制度では、電力需要が高まる日中の料金単価を高くすることで、ピーク時より昼間、昼間よりは夜間に電力使用がシフトすることを期待する。適用期間中の電力料金は一定だ。これに対し、ダイナミック・プライシングでは考えを一歩進めて、発電量と使用量を予測し、需給バランスに応じて電力料金を変動させる。発電量が同じであっても、需要が高ければ電力料金は高くなるし、需要が低そうならば電力料金は安くなる。

「地域節電所」で地域全体の電力需要を管理

北九州市は、このダイナミック・プライシングの実証に向けて「地域節電所」と呼ぶ施設を2012年5月26日に始動させた(写真2)。地域のエネルギー流通を一元管理し、需給予測をしたり、料金変更の必要性を判断したりする"司令塔"になる施設だ。

写真2 地域全体のエネルギーの需給最適化を図る「地域節電所」

地域節電所では、気象予測のデータなどを取り込みつつ、天然ガスを使ったコージェネレーションや太陽光などによる発電量を予測する。並行して、実証実験に参加する北九州市八幡東区東田地区の230世帯、50事業所の電力需要量も予測する。さらに東田地区に設置した大型蓄電池の充放電の能力も加味し、同地区内における最適なエネルギー流通の状況をコンピューターで計算する。その結果、もし供給量不足に陥る場合は、需要抑制の必要度に応じた時間帯別の料金テーブルを作成し、実験に参加する世帯や事業所に伝達する。

写真3 実証実験の参加家庭などに設置されるスマートメーター

料金テーブルの伝達には、家庭や事業所に設置したスマートメーターを用いる(写真3)。家庭ではスマートメーター経由でタブレット端末などを使って料金テーブルを参照し、家事の時間帯などを考慮する。事業所ではそれぞれが持つBEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)によって、事業所内の照明や空調機器を制御することで電力使用量を抑えていく。

料金レベルを5段階で設定

ダイナミック・プライシングの検証で重要なことの一つが、料金テーブルをどのように設定し、いつ通知するかということだ。

料金の変動幅が小さすぎると、多くの消費者は「それぐらいは払ってもよい」と考えてしまい、需要抑制にならない。逆にいたずらに変動幅を広げてしまうと「どうしても電気が必要」という需要家の負担が過大になってしまう。

料金テーブルを適切に設定できたとしても、通知が早すぎるとうまくいかない。時間がたつうちに忘れてしまったり、電力が足りないという切迫感に欠けたりして抑制が効きにくいこともあるだろう。一方で料金テーブルの伝達が直前すぎてもよくない。消費者は常に料金テーブルを気にしているわけではないので見過ごしたり、予定を動かしにくかったりするからだ。米国では、2時間前に通知するケースもあるようだが、今のところ日本ではなじまないのではないかと考えられている。直前に通知する場合は、例えば外出してしまった後でも電力使用機器を遠隔操作でオフにできる仕掛けなども必要になってくるだろう。

北九州市の実証実験では、料金テーブルを5段階で変更する計画だ。レベル1が平常時の昼間料金(約20円)で、レベル5ではこれを7.5倍の150円にまで引き上げる。夏季は13時~16時の日中に、冬期は8時~10時と18時~20時までの2回、料金を変動させるイメージだ。

この料金テーブルを、基本的に前日に各スマートメーターに送付する。当日朝にも再度、需給を予測し、前日に送付した料金テーブルが適切かどうかを確認する。その際、緊急需要などがあれば、当日朝に特別な料金テーブルを送付することもある。

こうした制度の設計を支援したのは日本IBMだ。同社の橋本孝之取締役会長によれば「日本初はもとより、制度のきめ細かさでみれば世界初の取り組みになる」という。北九州市の北橋健治市長も、「ダイナミック・プライシングなどの"賢い"システムをここから世界中へ発信していく」と意気込む。

"スマート化"に向けたIT面での課題も解決へ

ダイナミック・プライシングの実証実験では、料金テーブルなどの制度設計と並行して、地域節電所とスマートメーターを結ぶ仕組みといったIT(情報技術)面でも多くの検討が進んでいる。具体的には、ネットワーク上でやり取りするデータの形式や伝送方法、データの扱いに対するセキュリティーポリシーなどである。今回は北九州市が定めたガイドラインに沿って、地域節電所や事業所に置かれているBEMSなどとの接続などが実現されている。

セキュリティーの確保は、ダイナミック・プライシングの実証においては特に大きな課題になる。ガイドライン作成などを支援した新日鉄ソリューションズ(NSSOL)の桜井新システム研究開発センター部長によれば、「スマートメーターで取得した使用量のデータは、いわゆる機微(センシティブ)情報として扱わなければならない」という。スマートメーターでは、従来の電力計とは比べものにならないほど多くの情報を取得できる。つまり、データを解析するとその個人がどのような生活をしているのか見えてきてしまう。このため、漏れてはならない重大な個人情報を意味する機微情報として、慎重に扱う必要がある。

スマートメーターで取得した同じデータであっても、地域全体としての需要量予測などで統計処理する場合は、個人を特定する必要がない。そこでの情報システムは、使用量データを機微情報として扱う必要はないが、課金システムにおいては異なる。上記の理由から機微情報として扱うので、情報システムとしてもセキュリティーに配慮した作りが必要だ。具体的には、データを分割保存して安全性を高めたり、暗号化を施して読み取りにくくしたりといった仕組みを実装しなければならない。

2012年の夏の電力不足がいよいよ厳しくなり、エネルギー基本計画の見直しも進む中、デマンドレスポンスの実効性への期待が高まっている。北九州市での実証開始式典に参加した経済産業省の牧野聖修 副大臣は「節電や負荷の平準化に向けて、需要家に働きかけることは従来、困難だった。ダイナミック・プライシングはデマンドレスポンスの切り札になる」とした。

電力料金を可変にすることが日常の暮らしにどう影響を与えるのか。北九州市の実証実験には、世界からの注目が集まっている。

(日経BPクリーンテック研究所 志度昌宏)

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