地域活性化する「高齢社会の足」、将来像は自動運転EV
超小型モビリティ
1人乗りまたは2人乗りで移動できる車「超小型モビリティ」は、急速に進む高齢社会に向けた人々の生活の足となるだけでなく、地域産業の活性化の手段になっていく。そこで期待されるのは、「ぶつからない、ぶつけない」安全な二人乗りの"ちょい乗り"の超小型車である。
超小型モビリティの普及は、クルマの使われ方も大きく変えていく可能性がある。既に、超小型モビリティを前提にしたカーシェアリングやモーダルシフト(人や貨物の輸送手段の転換を図ること)の実証実験が始まっている。
こうした動きを核として、多くの異業種がパートナーとなり、楽しく、安全で、賢いモビリティ(移動性)の実現に向けたソリューションビジネスの機会が増大していきそうだ。


自転車より安全で省エネ
超小型モビリティに期待が集まる背景には、先進国を中心にした世界的な高齢化の進展という社会問題がある。その先頭グループにいる日本は、2015年に4人に1人、2050年に3人に1人が65歳以上の高齢者になるという超高齢社会を迎える。高齢者世帯の4分の1は独居と夫婦世帯になると予測されている。
超高齢社会で健常な高齢者が自立して生活するためには、移動手段の確保が不可欠である。移動の足がなくなると高齢者の4人に3人は、自立が困難になるという。
こうした社会課題の解決で重要な役割を果たすのが、2人乗りのちょい乗り超小型モビリティである。軽自動車より小さい近距離用の超小型車だ。最高速度は時速60km程度で、その速度に適した安全性能を持つ。さらに30kg程度の荷物を載せられ、坂道を楽に登れるといった性能が求められている。
日本における交通事故死亡者は、高齢者が全体の半数を超え、そのうち歩行中が2分の1、自転車乗車中が4分の1、両者で4分の3を占める。また、歩行者と自転車利用者の死者は、自宅から半径500m以内の範囲での事故がほぼ半数に達している。こうした狭い行動範囲の中で自転車より安全に移動でき、かつ夫婦2人の日常生活で使用できる省エネで小さいクルマへの要望は、今後ますます高まっていくだろう。
電動化が前提

現在、メーカーが提案している超小型モビリティのコンセプト車は、バラエティに富んでいる。二人が前後に座る二輪車感覚の四輪車や、前席はドライバーが一人で後席に子供二人の四輪車、左右二人乗りの四輪車や三輪車など、ユーザー志向による発想豊かなコンセプトが数多く登場している。
超小型モビリティでは、電動化と自動運転が中核技術になる。国内では、ガソリンスタンドの数が最盛期の3分の2となり、近隣にガソリンスタンドがない給油所過疎地は250自治体を超えた。高齢者にとって自宅で充電できるメリットは大きい。超小型モビリティでは電動化が前提になっていくだろう。
電気駆動になれば、排ガス対策、燃費対策、騒音対策などが不要になり、メーカーは安全性向上に一層注力できる。低速走行を前提にすれば、超小型モビリティでは安全性を高める新技術を導入しやすくなる。
例えば、(1)「認知支援技術」として、全方位障害物検知や追突警報・回避、交通標識認知・警告、疲労検知、緊急通報、(2)「衝突回避・被害軽減技術」として、ペダルの踏み間違い防止装置、自動緊急ブレーキ、緊急操舵回避、(3)「運転支援技術」として、自動パーキング、ACC(adaptive cruise control)、低速時の先行車追随――などである。
このほか、生体モニター情報を用いた緊急通報やスマートフォン(スマホ)との連携、ヘッド・アップ・ディスプレイ(HUD)、側方・後方バーチャル映像情報などの開発が進んでいる。究極には、こうしたさまざまな技術を組み合わせて、安全性の高い自動運転が実現していくことになりそうだ。観光地や私有地内、あるいは自宅から病院・店・集会所などへ、交通量の少ない決まったルートで自動運転を実現するというアイデアも出ている。
公道走行に向けた認定制度の整備進む
制度面では、国土交通省が2012年に「超小型モビリティ」の導入に向けたガイドラインを発表、2013年1月には公道走行を可能とする超小型モビリティの認定制度を創設した。
これは、大きさや性能などに関して一定の条件を付すことで、安全・環境性能が低下しない範囲で一部の基準を緩和し、公道走行を可能とする制度である。
例えば、高速道路などを走行せず、交通の安全が確保されている場所で運行することを条件に、パッシブセーフティ(衝突安全)の基準を緩和できるようにしたり、車幅1300mm以下の場合は二輪自動車の特性を持つことから、内装材の難燃性基準を緩和したりするといった内容である。
道路側でも安全性向上の工夫必要
国土交通省は、この認定制度に基づき、2013年2月に先導・試行導入に対する補助の公募を開始した。自治体が中心となり、超小型モビリティの実証実験が始まっている。
具体的には、高齢者や子育て支援、環境を重視する観光地での活用、都市における配達やコミューター、見回り用途など、地域産業の育成も狙った実験の取り組みになっている。同年6月には、この制度による認定第1号が誕生している。
超小型モビリティの普及に向けては、車両側による安全対策だけではなく、走行する道路側でも安全性を高める工夫が重要だ。速度抑制のために道路上に設ける突起(ハンプ)のような物理的手法だけではなく、歩行者やドライバーが自然に目を合わせてコミュニケーションし、交通安全を意識するような道路空間デザインが注目されている。
(早稲田大学環境総合研究センター参与招聘研究員 樋口世喜夫)
[Tech-On! 2014年2月10日付の記事を基に再構成]